森保一監督インタビュー@後編 地元開催ということで、すでに日本代表は東京オリンピックへの出場権を獲得している。森保一監督に求められているのは、残り2年半でいかにしてチームを作り上げていくかだ。サンフレッチェ広島時代、若手を育成しながら3…
森保一監督インタビュー@後編
地元開催ということで、すでに日本代表は東京オリンピックへの出場権を獲得している。森保一監督に求められているのは、残り2年半でいかにしてチームを作り上げていくかだ。サンフレッチェ広島時代、若手を育成しながら3度のJ1優勝を成し遂げたその手腕は、どうやって磨かれたのか――。
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森保監督は広島退任後、各国をまわって見識を広げていた
―― サンフレッチェ広島でも、U-21日本代表でも、GKやDFから攻撃をビルドアップし、食いついてきた相手を剥がして攻め込む攻撃的なスタイルに取り組んでいます。広島時代の前任者、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の影響が大きいと思いますが、どんなところに共感を覚えているのでしょうか?
森保一(以下:森保) たしかに今やろうとしていることは、ミシャさんの影響が大きいです。広島で2年半、ミシャさんのもとでコーチをやらせてもらって、これは日本人に合ったサッカーだと感じたんです。予測して、素早くサポートして、連係、連動して、組織的に崩していくっていうところが特に。だから、ミシャさんからチームを引き継ぐことになったとき、僕自身もトライしたいとすごく思いました。
―― 一方で森保監督は現役時代、ハンス・オフトさんに始まり、多くの外国人監督のもとでプレーされています。彼らから学んだエッセンスも取り入れているのではないかと想像します。
森保 おっしゃられたように、いろいろな監督の影響も受けています。たとえば、ボールの動かし方は(スチュアート・)バクスター監督から学んだものが大きいと思うし、個の局面なんかはオフト監督から学んだことを生かしています。外国人監督だけではなくて、選手とのコミュニケーションの取り方は清水(秀彦)さんの影響を受けていると思います。清水さんとは京都(パープルサンガ/現サンガ)と(ベガルタ)仙台で一緒に仕事をさせてもらったんですけど、チームにはヤンチャな選手がたくさんいて。
―― 岩本輝雄さんとかですか(笑)?
森保 そう。テルとか、山田隆裕とか(笑)。清水さんはそうした選手たちを認めて、彼らのスペシャルな能力を引き出し、チームとしてまとめていった。パズルの1ピース、1ピースは違う形なんですけど、それをうまくつなぎ合わせて、チームとして完成させた。
それに、外国人監督と日本人監督の大きな違いは、直接コミュニケーションを取れること。細かいニュアンスもそうですが、清水さんは『ここ』というタイミングで選手に声をかけるのがうまかった。そういうところはかなり影響を受けていると思います。ほかにも、ヴァレリー(・ニポムニシ)さんとか。
―― ロシアの人で、戦術に長(た)けた監督でしたね。
森保 広島に1年しかいなかったんですけど、トライアングルの作り方とか、動き出しを早くして、連係、連動して相手を崩していく部分は、伝え方こそ違うけど、ミシャさんと共通するものがありました。それから、守備でマンツーマンをやる場合があるんですけど、それは(ビム・)ヤンセンさんのもとで経験していますし、歴代の監督からは本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。
あとは自分の使い方次第。人のコピーだけではうまくいかないので、教わったこと、学んだことを自分のなかで消化し、自分の考え、言葉として、いかに伝えられるか。それが大切だと思います。
―― 学ぶという点では、広島の監督を退任されてからオーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパをまわられたそうですね。非常に有意義な時間になったようですが、森保監督にとってどんな旅だったんですか?
森保 本当にスーパーな刺激をもらいました。シーズン途中で退任することになったのは自分の力不足ですが、終わってしまったことは過去なので、過去から何を学び、未来にどう生かすかと考えるうちに、気持ちを切り替えることができたんです。
振り返ってみれば、引退してすぐに仕事に就かせていただき、それはありがたかったんですけど、いろんなものを見て勉強する時間があまりなかった。途中で辞めた人間が国内をウロチョロするのもあれですから(笑)、いい機会なので海外でチーム作りを見せてもらえないものかと。それで最初に行ったのが、ウェスタン・シドニー・ワンダラーズの(トニー・)ポポヴィッチのところでした。
―― 広島でのチームメイトですね。
森保 はい。ポポヴィッチは広島のあと、クリスタル・パレスというプレミアリーグのチームで数年プレーして、そこでコーチも務めたんです。おそらく彼は、世界のトップリーグで学んだものを自分のチームに落とし込んでいるだろうと思って訪ねました。
そうしたら想像どおりで、練習中から選手のあらゆるデータを取得したり、ドローンを飛ばして上空から撮影したり、テクノロジーを駆使して分析していた。コーチは(ハイデン・)フォックスっていう、僕らはフォクシーと呼んでいるんですけど。
―― 彼も広島時代に一緒にプレーした仲間ですね。
森保 フォクシーもドイツやイングランドでプレー経験があるんですけど、彼はDFだったから、守備練習を担当していて。一方、攻撃練習はバルセロナのアンダーカテゴリーで15年間指導していたコーチが見ていて、新しいものを取り入れようとする姿勢が見られたんです。キャンプにも1週間、スタッフとして帯同させてもらったんですけど、朝食から夜寝るまで、スタッフがずっと会話や議論を重ねていて、みんな、これくらいやっているんだなって。
―― すぐにまた、監督をやりたいなと思われた?
森保 いや、すぐにではないですけど(笑)、こういう仕事ができればなと、改めて思いましたね。ポポヴィッチから『スピリットは起きたか?』と気遣ってもらったり、最後には『いつかACLの舞台とかで戦えたらいいね』というような話もして……って、英語だから正確にはわからないんですけどね(笑)。
―― 通訳は連れていかなかったんですね?
森保 そうなんです。訪ねる前に『通訳を連れていく』と伝えたら、『お前、ひとりで来い。俺とフォクシーで説明するから大丈夫だ』と。でも、ひとりで行ってよかったです。彼らも積極的にコミュニケーションを取ってくれたし、伝わってくるものがありましたから。そのあと1週間くらい、今度はニュージーランドに行ったんです。宮澤浩を訪ねて。
―― 宮澤さんも広島時代のチームメイトですね。
森保 彼は広島を退団したあと、オーストラリアとニュージーランドでプレーして、向こうで指導者になって。宮澤が10年くらい仕事をしているクラブがあって、そこで今は監督兼育成担当をしていて、トップチームは州のリーグで初めてリーグ優勝して、カップ戦でも優勝させたんですよ。
―― 日本人が異国で、監督を任されること自体も簡単なことではないのに。
森保 10年間、彼の育成における仕事が評価され、トップチームも任されるようになって、チームをまとめて結果も出した。その間、本当に苦労したでしょうし、一緒にいて、彼が周りからリスペクトされているのも感じられた。そういうのも含めて、すごく刺激になりましたね。
―― 最後はヨーロッパをまわられたそうですね。
森保 そこも人との縁なんですけど、まずはドイツに行って、(浅野)拓磨を通してお願いしてシュツットガルトの練習と試合を見学させてもらい、次は香川真司に連絡してドルトムントの練習を見せてもらった。今は代わってしまいましたが、(ピーター・)ボスさんのときです。最後はイングランドに行って、吉田麻也にお願いしてサウサンプトンの練習を見せてもらって。
―― ヨーロッパは練習非公開のクラブが多いですから、貴重な経験でしたね。
森保 練習を全部見せていただいて、本当に刺激になりましたけど、彼らとプライベートで話せたことも大事な時間になりました。僕が知っている彼らではないんです。たくましくなっているし、強くなっている。これもまた刺激になって。
海外に行って、その国の人に認めてもらうのは並大抵のことじゃないですよね。コミュニケーションが取れなければ認めてもらえないし、その国の文化や習慣に順応しなければ、サッカーでも結果を残せないと思う。彼らはそういうところをクリアして、認められているのがすごい。将来、彼らのような選手が僕の率いるチームでプレーすることもあるかもしれない。そう考えたら、自分ももっと成長して、強くなっておかないといけないな、って感じさせてもらいましたね。
―― 現役時代も、監督としても、数多くの若い選手と過ごしてこられましたが、将来伸びていく選手に共通すること、それを踏まえて、今のU-21日本代表の選手に伝えたいことはなんですか?
森保 共通するのは、やっぱり自分に目を向けられる、ということじゃないでしょうか。自分の立ち位置を把握して、自分が成長するためには、自分のプレーのクオリティを上げるためにはどうすればいいかと、自分自身に目を向けられる選手。
―― 自分自身と向き合って、コツコツと努力を重ねられる選手。
森保 そうですね。試合に出られないこともあるでしょうし、理不尽なことが起きるかもしれない。それでも割り切って、開き直って、どんな状況でも自分を見つめて歩みを進められる選手。そんなに多くの選手を見てきたわけではありませんが、成功していく選手、キャリアを積んでいける選手は、やはりそういう選手かなと思います。
―― U-21日本代表の選手たちに、こうした話をする機会はありました?
森保 拓磨のことは一度話しましたね。彼らと年齢的にも近いですから。拓磨も自分に目を向けられる選手でした。でも、努力すれば試合に出られるのかといったら、そうじゃない。このレベルになると、どの選手も努力をするもの。だから、努力の質や量をちゃんと考えて、自己評価して、整理しながらやっていくことが大切だと思います。
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