森保一監督インタビュー@前編 東京オリンピックでのメダル獲得を目指すU-21日本代表がパラグアイ遠征に向かった。遠征では現地時間3月22日にU-21チリ戦、24日にU-21ベネズエラ戦、26日にU-21パラグアイ戦を行なう。チームを率い…

森保一監督インタビュー@前編

 東京オリンピックでのメダル獲得を目指すU-21日本代表がパラグアイ遠征に向かった。遠征では現地時間3月22日にU-21チリ戦、24日にU-21ベネズエラ戦、26日にU-21パラグアイ戦を行なう。チームを率いるのは森保一監督。彼はどのような考えでチームの強化を図り、どのようなビジョンで東京オリンピックを見据えているのか――。パラグアイ遠征の直前に話を聞いた。


森保監督はウズベキスタン戦での2失点目のプレーを

「すごくよかった」と語る

―― パラグアイ遠征に参加するメンバー23人を見て、「かなり入れ替えたな」という印象を持ちました。1月のU-23アジア選手権から15人が入れ替わり(※のちに板倉滉がケガで辞退したため16人)、初招集の選手が7人います。招集の狙いや意図を教えてください。

森保一(以下:森保) まず前提として、たくさんの選手を見たいというのがあって、今回は遠征期間中にJ2が行なわれますから、J2の選手の招集を控えたという面もあります。そのなかで、坂井大将(だいすけ/アルビレックス新潟)と前田大然(だいぜん/松本山雅)を選出したのは、まだ見られていないからですね。

―― たしかに、坂井選手はベルギーのAFCテュビズから、この冬にJリーグに復帰したばかり。前田選手はU-23アジア選手権に招集したものの、大会前に負傷離脱してしまいましたね。

森保 そうなんです。だから、彼らは今回、クラブにお願いして無理を言って招集させてもらいました。

―― 2020年の東京オリンピックは地元開催ということで、すでに出場権を獲得しています。そのことは、チーム作りに大きな影響を与えていますか?

森保 それはありますね。予選があれば、コアとなる選手を見極めて、チーム作りを早く進める必要がある。たとえば、今回の活動だって予選が迫っていれば、違う選択をしたと思います。

 でも、予選がないということは、土台の部分を広く、強く、固められる時間があるということ。できるだけ多くの選手と一緒に活動して、チームコンセプトを理解してもらいたいな、と思っています。強いチームを作るには、しっかりとした土台が重要ですから。あと、アンダーの代表は毎回、招集に条件がありますから、その条件のなかでベストのものを作っていく、次につなげていくことを考えています。

―― 昨年12月のタイ遠征、今年1月のU-23アジア選手権、そして今回のパラグアイ遠征と、合わせて41人の選手を招集されました。この年代の選手を視察、選考するうえで、選手の層が薄いと感じるポジションはありますか?

森保 GKとFWですね。GKは経験を必要とする重要なポジションですが、じゃあ、プロのカテゴリーでレギュラーの座を獲っている選手がどれだけいるか。J1だけでなく、J2、J3まで広げても、レギュラーとして出場しているGKはいないですよね。FWも同じです。

―― 特に、センターフォワードですね。

森保 いろいろと視察させてもらっていますが、ストライカーとしてプロの舞台で結果を出している選手がどれだけいるか。まだまだいない、と僕は思っています。

―― リストを眺めていて気づくのは、立田悠悟選手(清水エスパルス)だけがこれまでの3つの活動に選ばれているということです。今シーズン、清水でレギュラーの座を奪いましたし、かなり高く評価されているように感じます。

森保 3大会連続、ということは現時点で特に大きな意味はないんです。最初のタイ遠征と次の中国遠征で選手全員を入れ替えようと思っていたし、これからも招集に条件があるなかで、選手を入れ替えながらチーム作りを進めていくことになりますから。ただ、おっしゃるようにJ1のチームでレギュラーとして出ている。しかも、もともとセンターバックですが、今はサイドバックで出ていて、彼の特徴が攻守において生きているので、我々のチームでも生かしたいな、というふうに見ています。

―― さて、今回の遠征ではチリ、ベネズエラ、パラグアイと戦います。どんなテーマを掲げ、どんなことにチャレンジしようと考えていますか?

森保 前回の活動で、いくつかの課題が出ました。そのなかでも今回、特に意識しているのがビルドアップのクオリティの部分と、個の成長の部分。組織的に戦うといっても、個々が強くなければ組織も強くならない。だからパラグアイ遠征では、相手がプレッシャーをかけてきたときに、どう剥がすのか、どう回避するのか、やり方はいろいろあると思うので、そういう部分を見ていきたいですね。

―― 個の成長の部分では?

森保 1対1の局面において、3チームともすごく駆け引きをしてくると思います。我々が攻めているときは、時間もスペースも与えてくれないでしょうし、守っているときは、フィジカル的な強さやスピードで勝負を仕掛けてくる。それに対してどう対応するのか。遠征を通して確認したいし、レベルアップしてほしい部分ですね。

―― 1対1の勝負や駆け引きを経験するという点では、この南米の3チームは、うってつけの相手ですね。

森保 本当にそうで、すばらしいチームと戦えると思っています。ベネズエラは昨年のU-20ワールドカップで敗れた相手。あの大会に参加していた選手は、『今度はやってやろう』と思っているはずです。日程はかなりタフで、選手は大変だとは思いますけど、いい経験になるので、どんどんトライしてほしいと思います。

―― 今、うかがったパラグアイ遠征のテーマと重なる部分もあると思いますが、あらためて、U-23アジア選手権、特に0−4と敗れた準々決勝のウズベキスタン戦における収穫と課題を、どう分析されていますか?

森保 負けてよし、ということはなくて、悔しい想いはありますけど、すごくいい経験ができたなと思います。このチームは2020年の東京オリンピックでメダルを獲得することを目標にしています。ウズベキスタン代表は2015年のU-20ワールドカップでベスト8に進出したメンバーが中心のチームでした。そのレベルの相手を2年後に打ち破って、ようやくメダルに手が届くわけです。

―― そういう意味では、ひとつの指標となるゲームでしたね。

森保 そうなんです。今後のチーム作りにおいて、いい目標設定、いい指標ができたと思います。今回は悔しい想いをさせられましたけど、2年後、必ず彼らを上回ってやるという想いでいますし、選手たちはそれだけのポテンシャルを秘めている。内容に関しても、試合の入りは悪くなかった。ただ、もうひとつ突破できればビッグチャンスになるというところまで運びながら、そこを越えられませんでした。

―― たしかに見返してみると、前半20分くらいまでは、いい縦パスを何本も入れているんですよね。

森保 そう言っていただけるとうれしいです(笑)。あそこで縦パスを受けた選手が何かできれば、試合はまったく変わったものになっていたけれど、潰されてしまった。そのクオリティをどう上げるのか。チームとして上げていくのか、クオリティを持った選手を起用するのか。ただ、そこまでは運べるということが確認できましたし、失点に関しても4失点中3失点がつなごうとして奪われたもの。

―― チームとしてやっていこうと強調していた部分ですね。

森保 そうなんです。相手のプレッシャーを外そうとすることにトライしたけれど、できなかった。じゃあ、次はどうするか。もっと早く準備し、決断しないといけないですし、違う判断に切り替えるという考えもある。そうしたことを整理できるという点で、いい失点だったというか。

―― 先ほどおっしゃっていた「やり方はいろいろある」ということですね。

森保 何となく戦って、惜しかったね、ではなく、チームとしてやろうとしていることをトライしてくれたことで、何ができなかったのか、ウズベキスタン戦は教えてくれた。だから、結果はネガティブですけど、改善点、修正点が見つかったという点でポジティブな試合だったと思います。あと、もうひとつ僕が感じたのは、試合経験の差。主観ではあるんですけど、それはすごく感じていて。

―― ウズベキスタン代表は、ほとんどの選手が自国のリーグ戦に出場しているんですよね?

森保 そうなんです。たとえば、ウズベキスタンは最初、そんなにプレッシャーをかけてきたわけではなかった。でも、日本の選手にミスが出始めたところで、一気に圧力をかけて試合の流れを持っていった。すごく試合巧者だと感じましたね。そうしたゲーム運びができるのは、ほとんどの選手が自国のリーグでレギュラーとして戦っているからこそ。

 一方、日本の選手たちは、ポテンシャルはあるけれど、公式戦に約2年間絡めていない選手が多くて、その差が出たと感じました。だから、大会が終わったときに選手たちに言ったんです。所属クラブでポジションを獲得して試合に出続けることが成長につながるし、クラブの財産、代表の戦力アップにもなるんだよって。

―― 今季に入って立田選手をはじめ、板倉滉選手(ベガルタ仙台)、三好康児選手(北海道コンサドーレ札幌)、遠藤渓太選手(横浜F・マリノス)、市丸瑞希選手(ガンバ大阪)……と、スタメン出場している選手が増えたのは大きいですね。

森保 今回、招集していない選手のなかにも、スタメンで出ている選手、途中出場だけど出場機会を増やしている選手がいます。この年代はひとつのきっかけで、どんどん伸びますから、本当に楽しみですね。

―― ウズベキスタン戦で感じられたのが、選手たちがボールを失うことを恐れているんじゃないか、ということ。ボールを失わないのが一番ですが、失うことを恐れない、あるいは失っても取り返せばいい、というくらいの気持ちが必要なのではないかと感じたのですが。

森保 どうでしょうね。もしかしたら3失点目くらいからは、多少あったかもしれないですけど、2失点目、覚えていますか? 僕はあれ、すごくよかったな、と思っているんです。

―― ゴールキックからのリスタートをショートパスでつないで、最後は立田選手が奪われて決められた場面ですよね。「すごくよかった」と言いますと?

森保 GKの小島亨介(早稲田大)がリスタートする時点で、完全に固められていましたよね。それでもつなごうとしたから、『これでもやるのか』と思いながら見ていたんです。しかも、3分前に失点したばかり。ビビって、ノーリスクで大きく蹴る、というメンタルになるのかなと思ったら、つなごうとした。結果、失敗して痛い目を見ましたけど、『やれる』と思ってやったなら、たいしたものだなって。

―― なるほど、そういうことですね。

森保 みんながそう思っていたかどうか、わからないですよ。それに、先制されてまだ2~3分。そこでリスクを冒す必要があったのか、その判断のところは働きかけようと思っていますが、トライしてくれたからこそ、次のアプローチができる。ただ、僕に言われたから、何となくやっただけかもしれないので、この件はパラグアイ遠征中に聞いてみようと思っています。

―― そのときの選手たちの思考、判断の流れ、メンタルの持ちようは興味深いですね。

森保 試合が始まるまでは、監督やコーチがアプローチできます。でも、試合が始まってしまえば、ピッチにいる11人が流れを感じて、判断し、決断するのがサッカー。流れが悪いときには、どうやって修正して流れを変えるのか。いいときには、それをどう継続させるのか。そういうところを選手たちには身につけてほしいので、あの2失点目は、僕のなかですごく興味深いんです。

(後編に続く)