J1リーグ開幕から3試合で、FC東京は白星なしの1分2敗。16歳のFW久保建英の動向ばかりが注目を浴び、チームとしての骨格が見えない状況だった。長谷川健太監督を迎えた新体制にも黄信号が灯ろうとしていた。代表戦でリーグ戦が中断する前に、…
J1リーグ開幕から3試合で、FC東京は白星なしの1分2敗。16歳のFW久保建英の動向ばかりが注目を浴び、チームとしての骨格が見えない状況だった。長谷川健太監督を迎えた新体制にも黄信号が灯ろうとしていた。代表戦でリーグ戦が中断する前に、その流れを断ち切る必要があった。
3月18日、味の素スタジアム。第4節でFC東京は湘南ベルマーレと対戦している。相手はJ1昇格組だったが、敬意を表して迎え撃った。
「(これまでの)湘南はすごくいいプレーをしている印象ですね。(FC東京は)まず守備から。ボランチのところで(相手を止めて)押し出していくイメージですかね」(FC東京・MF橋本拳人)
FC東京は堅陣を張り、守備から入った。まず、前線の富樫敬真がプレッシングでは守備のスイッチを入れ、リトリートしたらひとつポジションを下げ、ブロックに厚みを持たせる。ラインをコントロールし、各自がポジションを守り、2列目の裏には引き入れない。そして最終ラインでは、韓国代表のチャン・ヒョンスと日本代表に復帰した森重真人が、湘南の韓国代表FWイ・ジョンヒョプを潰した。
湘南ベルマーレを1-0で破り、今季リーグ戦初勝利を挙げたFC東京
もっとも、そこから攻撃で押し出していくところまではいかない。速い攻撃を目指し、長いボールを蹴って、それに絡んで殺到する、というのがコンセプトだが、タイミングや人が合わない。ほとんどが単発に終わった。
一方で湘南も、前節の名古屋戦のような迫力ある攻撃を見せることができない。
「アンカーに3人のシャドーを置いたシステムがうまく回らなかった」と湘南の選手がもらしたように、噛み合わせも悪かったか。ボールをつなぐ練度は高まっていたが、苛烈さに欠けていた。
結果的に、前半は両者、膠着した状態が続いた。
そして後半立ち上がり、一気に局面が変わる。
「点が獲れないと、受け身に回って、ネガティブな状況になることが多かったんです。だから、後半は立ち上がりから手を緩めず、前から行こうとなりました。相手は嫌がるはずで、走れるチームを走って上回ろう、と」(FC東京・富樫)
FC東京はキックオフから蹴り込んだボールを跳ね返されるが、中盤でMF高萩洋次郎が奪い返す。これを下げずに、前へボールを運ぶ。再び跳ね返され、カウンターに入られそうになるが、今度はMF橋本が潰す。こぼれを拾ったDF小川諒也が前につなぎ、さらにMF東慶悟が間髪入れず、FWディエゴ・オリヴェイラの足下に入れる。オリヴェイラはこれを反転しながら、右足を鋭く振り、ネットに突き刺した。
それは目を見張るインテンシティだった。凄まじい圧力でディフェンスを仕掛け、奪ったボールを強い意志で前に運び、押し切る。相手を踏みつぶす”力強い進軍”だった。
「サッカーではよくあるというか、後半立ち上がりのワンプレーでやられてしまった。気を抜いたというか、気が緩んだというか。で、仕留められた。取られ方のところで注意はしていたが……」(湘南・曺貴裁監督)
FC東京はこの1点でペースを握った。メンタルの違いだろうか。全体の強度が上がって、前のめりになったことで、いい守備のポジションは攻撃にもポジティブに反映された。
58分には相手のパスを森重が自陣でカットし、ダイレクトで東に入れ、これを持ち込む。ペナルティエリア右でパスを呼び込んだ富樫は、1人を外してシュートを放つ。59分には再びビルドアップの出どころを潰し、湘南のミスが出たところで橋本が出足鋭くインターセプトに成功。そのままゴール前に持ち込み、もつれたボールを富樫が倒れ込みながら狙った。
FC東京は結局、追加点を奪うことはできなかったものの、後半は相手に1本もシュートも打たせずに勝利した。
「交代で出場した選手たちも前線から相手にプレッシャーをかけ、パワープレーのときにいいボールを蹴らせていない」(FC東京・長谷川監督)
FC東京は最後まで堅い守備を保つことで、プレー全体を旋回させていた。派手さはないし、革新的でもない。しかし、サッカーの質は上がっていたし、何よりも勝利への執念が見えた。
実は湘南戦、今季リーグ戦初先発となった選手が4人もいた。橋本、富樫、小川、岡崎慎。彼らは今シーズン初勝利、初完封となったルヴァンカップ、アルビレックス新潟戦(3月14日)のスタメンだった。FC東京は堅く守って勝利したチームを基盤に、湘南戦を制したのだ。
「守備に関しては相手を研究し、とにかく念入りに……」
選手たちがそう明かすように、長谷川FC東京のチームデザインは輪郭が見えつつある。勝利するために攻守で戦える選手を用い、チームとしてアップデートしていく――。ガンバ大阪であらゆるタイトルを手にした常勝監督ならではだろう。
1-0の堅実な勝利は、今シーズン、FC東京にとってひとつの転機になるかもしれない。