【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】PSGはどこへ行く?(前編) パリ・サンジェルマン(PSG)には、春の訪れを告げる「儀式」がある。それはこのフットボールクラブにとって、シーズンで初めての意義ある試合から始まる。舞台は欧州…

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】PSGはどこへ行く?(前編)

 パリ・サンジェルマン(PSG)には、春の訪れを告げる「儀式」がある。それはこのフットボールクラブにとって、シーズンで初めての意義ある試合から始まる。舞台は欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント。相手はヨーロッパのビッグクラブだ。

 毎度の儀式として、PSGはこの試合に負ける。そして監督を解任し、フランスリーグでは優勝を果たし、夏の移籍市場でスーパースターを買い、翌シーズンのチャンピオンズリーグ制覇を夢見る。だが次の春には、また同じ儀式が繰り返される。

 先ごろもPSGは、この伝統を守った。チャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦でレアル・マドリードと対戦し、2試合合計スコア2-5で無残な敗北を喫したのだ。一部のPSGファンは、レアルの選手が宿泊していたパリのホテル近くで真夜中に騒音を立てて睡眠を妨害しようとしたが、それも効果がなかった。もうじきPSGは、スペイン人のウナイ・エメリ監督を解任するだろう。



CLでレアル・マドリードに敗れ、悄然とするPSGの選手たちphoto by AP/AFLO

 しかし、そこから先は長年の伝統が破られるかもしれない。この夏、PSGはスーパースターを買うのではなく、売ることになる可能性がある。クラブが誇るスター選手のネイマールは、パリでプレーする最後の試合をすでに終えてしまったかもしれない。

 ヨーロッパのトップに立つというクラブの夢は、遠いものになりつつある。大金を投じながら失敗を繰り返すPSGは、今や世界のフットボールファンの笑いものにさえなっている。

 パリでは、こんな疑問の声が聞こえる。いったいPSGは、何のために、誰のためにあるのか? カタール人のオーナーたちは、クラブに希望と関心を失ってしまうのか? だとしたら、2011年にカタール人オーナーに買収されたことで凡庸なレベルから抜け出したこのクラブは、いったいどうなるのか?

 PSGが抱える問題のひとつは、フランスリーグでは群を抜いた強さを誇るために、所属するリーグの魅力を自らの手で失わせてしまっていることだ。この点がよく表れたのは2月末、ライバルであるはずのマイセイユと72時間のうちに2度戦ったときだ。1試合はリーグ戦、もう1試合はカップ戦だった。

 この2チームの対戦は、フランスのフットボールで最も熱い戦いとされている。テレビ局のカナル・プリュスはこの対戦をスペインリーグのバルセロナとレアル・マドリードの戦いになぞらえて「ル・クラシコ」と呼び、盛り上げようとしていた。

 ところが結果は、2試合ともPSGが3-0で圧勝した。マルセイユはフランス版のクラシコに、2011年11月以来、勝っていない。マルセイユのGKスティーヴ・マンダンダは2試合目にも3-0で敗れた後、こう語った。「別に何とも思わない。だって向こうのほうが強いんだから」

 マルセイユとの2試合目より関心を集めたのは、この日はピッチにいなかったひとりの選手だったかもしれない。ちょうどキックオフの時間あたりに、ネイマールはリオデジャネイロへ向かう飛行機に乗り込んでいた。6月のワールドカップに備えて足の手術を受けるためだ。彼はレアル・マドリードとのチャンピオンズリーグ第2戦を欠場した。

 この春、PSGはここ6シーズンで5度目のリーグ優勝を果たすだろう。おそらくは国内で3冠に輝くはずだ。

 しかしカタール人のオーナーたちは、もっと大きなものを目指している。チャンピオンズリーグの制覇だ。カタールの首長はレアル・マドリードとの試合を観戦するために、パリまでやって来た。

 PSGがチャンピオンズリーグで準決勝にさえ進んだことがない理由のひとつは、カタール人のオーナーたちがスター選手に飛びつくことだろう。PSGは昨年、ネイマールをバルセロナから2億2200万ユーロ(約290億円)の移籍金で獲得した。さらに、いま10代で世界最高の選手であるキリアン・ムバッペをモナコからレンタル移籍で獲得し、今年の夏に1億8000万ユーロ(約235億円)で完全移籍させることを約束した。

 この2人のケースは、フットボール史上最も高額な移籍の上位2件だ。しかし、2人はPSGに必要なかったともいえる。すでにこのクラブには、ユリアン・ドラクスラーやアンヘル・ディ・マリアなどすばらしいFWがいた。彼らは今、ベンチスタートがほとんどだ。

 一方、オーナーたちはFW以外のポジションでは倹約に努めた。マドリード戦のメンバーを見ても、MFから後ろは安上がりな選手がほとんどだった。GKのアルフォンス・アレオラ、MFのジオバニ・ロ・チェルソやハビエル・パストーレ、それにベテランのダニ・アウベスやチアゴ・モッタ、チアゴ・シウバ、ラサナ・ディアラらは(少なくとも今は)ワールドクラスとはいえない。

 司令塔のマルコ・ベッラッティは、19歳の天才プレーヤーという触れこみで2012年にPSG入りして以来、ほとんどうまくなっていない。レアル・マドリード戦でPSGの最後の希望を打ち砕くレッドカードを受けたことからもわかるように、成熟もしていない。
(つづく)