3月11日、森岡亮太の所属するアンデルレヒトはベルギー1部リーグのレギュラーシーズン最終戦を行ない、ホームに迎えたアントワープを2-1で下した。開始3分にセンターバックのDFレアンデル・デンドンケルが退場となるアクシデントに見舞われた…
3月11日、森岡亮太の所属するアンデルレヒトはベルギー1部リーグのレギュラーシーズン最終戦を行ない、ホームに迎えたアントワープを2-1で下した。開始3分にセンターバックのDFレアンデル・デンドンケルが退場となるアクシデントに見舞われたが、アンデルレヒトのイレブンは気落ちすることなく、「俺たちが勝つんだ」という姿勢を最後まで崩さなかった。
アントワープ戦でもPKを獲得して存在感を示した森岡亮太
「ひとり減ったあとの、あの雰囲気……。『優勝争いをするチームは、こういう(=絶対に勝つ)雰囲気なんだろうな』というのを感じました」(森岡)
77分にFWシルベール・ガンボウラが決めた決勝点のPKは、森岡が倒されて奪ったものだった。アンデルレヒトに入団してから約1ヵ月半――。当初はチームに馴染めなかった森岡だが、ハイン・ファンハーゼブルック監督に「フリーランニングで相手と『1対1』の状況を作る」という個人戦術を授けられてからは、相手にとって脅威となるプレーが増えてきた。
また、試合ごとにチームメイトとの連係も向上してきた。MFスヴェン・クムス、MFアドリエン・トレベル、MFピーター・ゲルケンス、MFケニー・サイエフらとのパス回しに、森岡は「やりながら見ていて『うまいなあ』と思います」と感嘆するが、そう言う本人こそ中盤とFWウカシュ・テオドルチュクをつなぐアンデルレヒトの生命線なのだ。
81分にトレベルも退場処分となり、アンデルレヒトは9人になった。だが、残り時間を専守防衛に徹し、1点のリードを見事に守りきった。
試合後、ファンハーゼブルック監督は「テオ(テオドルチュク)と森岡のキープ力が抜群だった」と語り、数的不利のなか、前線でボールをキープし続けたふたりの名前を何度も繰り返しながら褒め称えた。その気持ちはファンも同じだったようで、森岡がベンチに下がるときには観客席から大きなスタンディングオベーションが贈られていた。
アンデルレヒトに移籍して計6試合。森岡は3ゴール・1アシストという数字を残している。そのうち、PK奪取は3回だ。森岡がフリーランニングで相手ペナルティエリア内に走り込み、そこに味方からの縦パスが届いて危険ゾーンで敵と「1対1」になる――。それが、森岡のPK奪取のパターンとなっている。
移籍直後は苦しかった。移籍してから3試合、チームは1分け2敗。森岡自身のプレーもどこかギクシャクしていた。
「きつかったですね。アンデルレヒトに来たばかりで、最初はどうしていいのかわからなかった」
移籍してきた当初、森岡はベフェレンからブリュッセルに通っていた。道路さえ空いていればクルマで40分ほどの距離だが、朝の渋滞がひどいルートということもあり、時には1時間半もかかることがあったという。ただ、今はブリュッセルに引っ越して、「どんなにかかっても30分」と、日々の移動のストレスは劇的に改善された。
アンデルレヒトでの1ヵ月半を、森岡はこう振り返る。
「トレーニングの質がものすごく高い。それは、下のチームにはないクオリティです。ただ、最初の勝ててない時期のプレッシャーの受け方も、間違いなく(下位チームとは)別ものだった。そこの違いを日々感じることはありますね」
こうして森岡は、ベルギーリーグのレギュラーシーズン30試合を駆け抜けた。「ふたケタゴール・ふたケタアシスト」を個人目標に掲げていた森岡はすでに10ゴール・12アシストを記録しており、プレーオフ前にそのノルマは達成している。
「今までのところ、個人的にはよかったですけど、チームとして何かを勝ち取りたいですね。アンデルレヒトとしての目標はもちろん優勝ですし、代表としてはワールドカップで今までにない結果を出したい。そのなかの一員にしっかり入っていきたいです」
『プレーオフ1(※)』ではレギュラーシーズンでの勝ち点の半分が持ち越され、首位クラブ・ブルージュと2位アンデルレヒトとの差は「6」でスタートする。プレーオフでの個人目標を問われた森岡は、「ブルージュを抜いてやるということですね。そこに尽きます」と、あくまでチームの優勝を掲げた。
※プレーオフ1=レギュラーシーズンの1位から6位までの計6チームで行なわれるホーム&アウェーの総当たり戦。レギュラーシーズンでの勝ち点の半分が持ち点としてスタートし、プレーオフ1終了時にもっとも多い勝ち点のチームが優勝となる。
レギュラーシーズンの最終戦を終えた同じ日、ドイツ国境の町オイペンでは豊川雄太が途中出場で3ゴール・1アシストをマーク。神がかった活躍でチームを最下位から15位へと押し上げ、一部残留の大ヒーローになった。
「すごいですね。もう、レジェンドになってますやん」
今季のベルギーリーグで、森岡、久保裕也(ゲント)に続き、3人目の日本人プレーヤーが突如、現れた。
「日本人は、わりとヨーロッパでできるんじゃないですか?」
自身の経験と感触からか、森岡はそう言った。しかし、これまでベルギーに来たフィールドプレーヤーの日本人は、志(こころざし)半ばにして皆、日本へ帰っている。
「それまで誰も成功してなかった。だから、(ベルギーで結果を残している)久保裕也が神なんですよ」
ならば、森岡自身はベルギーに着いたとき、久保の成功例に刺激されたのだろうか?
「いや、そんなことは考えてませんでした。言っちゃあ悪いですけど、『やっとサッカーができるな』という心境でしたので」
ヨーロッパで活躍することを夢見てポーランドリーグには来たものの、「パワーサッカーがほとんどのなか、さらに下位チームにいたので(思うようなサッカーができずに)難しかった」と森岡は振り返る。今から1年前、まだ森岡は厳寒のポーランドで”明日”を模索していた。しかしその後、森岡はベフェレン→日本代表復帰→アンデルレヒトと、ものすごい勢いで前進を続けている。ハリルジャパンのベルギー遠征(3月23日・マリ戦、3月27日・ウクライナ戦)メンバーにも選ばれ、6月のW杯でも選出が有力視される。
マイナーなポーランドリーグでプレーしていたので、森岡はヨーロッパでも日の当たらぬリーグで戦う日本人選手の気持ちをよく理解している。自分が今後もステップアップしていけば、そんな彼らへの励みになることもわかっているのだ。
「日本人は、わりとヨーロッパでできるんじゃないですか?」。そのひと言には、有名選手から無名選手まで、ヨーロッパで挑戦する多くの日本人に対する想いがこもっている。
>
>