今シーズンからインディカーシリーズのシャシーはワンメイクに戻る。2012年から使われ続けているダラーラ製モノコックと、ダラーラと主催団体のインディカーが共同開発したエアロキットのコンビネーションだ。「キット」と呼ばれるのは、基本となる…

 今シーズンからインディカーシリーズのシャシーはワンメイクに戻る。2012年から使われ続けているダラーラ製モノコックと、ダラーラと主催団体のインディカーが共同開発したエアロキットのコンビネーションだ。

「キット」と呼ばれるのは、基本となるシャシーに、プラモデルのパーツのようにパチンパチンと装脱着ができるよう作られているから。エアロキットは1年ごとに少しずつ改善が施される予定だが、チームによる独自の改造は許されない。エンジンは引き続きホンダとシボレーが供給する。

 同一シャシーを使用するため、当然、競技者間の差は小さくなり、バトルは激しくなる。期待と注目の集まった開幕戦は、フロリダ州セントピーターズバーグで3月9~11日に開催された。

 舞台はストリートコース。それも空港の滑走路まで使った実にユニークなレイアウトの1.8マイルで、コーナーは14個が配されている。プラクティスと予選の金曜日、土曜日は曇り空が続いたものの、決勝日は昼前から青空が広がり、気温は摂氏23度まで上昇。フロリダならではの温暖なコンディションのもと、レースは行なわれた。

 


開幕戦セントピーターズバーグでは12位に終わった佐藤琢磨

 新エアロキット採用の影響は、最初のプラクティスから現れていた。名門チームや実績あるベテランに対し、若手ドライバーや新興チームが互角の戦いぶりを見せたのだ。

 ハーフウェットで非常に難しいコンディションになった予選でポールポジションを奪ったのは、カナダ人ルーキーのロバート・ウィッケンズ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)だった。さらに、予選3位、4位にもブラジル出身のマテウス・レイスト(AJ・フォイト・エンタープライゼス)とイギリス出身のジョーダン・キング(エド・カーペンター・レーシング)というルーキーが食い込んだ。

 ベテラン勢では、2014年チャンピオンでセントピーターズバーグ2勝のウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が予選2位に入り、なんとか面目を保った。昨年度インディ500ウィナーの佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は予選5位。2012年チャンピオンで2014年インディ500ウィナーのライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)が予選6位だった。

 110周の長い決勝レースでも、ルーキーたちはスタートからベテラン勢と堂々と渡り合った。しかし、レースが終わってみると、トップ10でゴールできた者はゼロだった。

 予選3位だったキングはタイヤがパンクしたために壁にヒットし、サスペンションを曲げて後退を余儀なくされた。予選4位のレイストはターン3の壁にハードヒットしてレースを終えた。原因は少し前から出ていたギヤのトラブルにあったかのもしれない。2人の結果が悪かったのは、経験不足というよりも、不運に足を引っ張られたせいだろう。

 ポールスタートだったウィッケンズはトップを走り続け、優勝をほぼ手中に納めていた。しかし、いつものことながら、最速のドライバーが勝利を手にするとは限らない。

 ゴール目前のウィッケンズに次々と試練が襲いかかった。アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)に対して持っていた3秒のリードは、別のルーキーのアクシデントによってフルコースイエローが出されて消し飛んだ。ウィッケンズは残り4周で切られたリスタートは完璧に決め、トップを守ったが、また1台がクラッシュし、再びフルコースコーションに。リスタートがもう1回行なわれることになった。

 残り2周でのリスタート。ウィッケンズはメイン・ストレートへのダッシュが一瞬遅れ、ターン1のインにロッシが飛び込んできた。ウィッケンズはアウト側のラインでトップを守ろうとしたが、ロッシが接触してきてアウト側の壁にクラッシュ、リタイアを余儀なくされた。

 ロッシに隙を見せたのはウィッケンズのミスだったが、その背景には、最後のリスタートで、突然、特別なルールが採用された不可解なレース運営があった。リスタート1周前に消されるはずのペースカー天井のランプは消されず、リスタートでは禁止されているプッシュ・トゥ・パス(ステアリングについているボタンを押すことで、一時的にターボのブースト圧を引き上げる)の使用が許可されたのだ。

 ルーキーのウィッケンズは複数のイレギュラーに対応できず、万全の準備でリスタートの瞬間を迎えることができなかった。

「優勝できなくてガッカリしている。ルーキーとして迎えたシーズン最初のレースだったので、あそこで彼を相手にハードに戦わなかったというのも事実だ。必要以上のスペースを相手に与えたのは、もし2位でのフィニッシュになっても十分に満足だったからだ。

 しかし、あのリスタートでレースコントロールはいったい何をしていたのか。それまでのリスタートとまったく違う手順になっていたから、僕はレースリーダーに与えられるペースをコントロールする機会をもらえなかった。どうしてそんな事態となったのか、ちゃんとした説明を聞きたい」

 レース後、ウィッケンズはそう語り、さらにこのように続けた。

「インを守りに入ったが、インを取られた。あれ以上プッシュしたらブロッキングになってしまうので、アウトサイドにラインを取り、インは相手に譲ってブレーキングをできる限り遅らせた。スペースは十分に与えた。

 彼(ロッシ)はブレーキを遅らせ過ぎたんだよ、ラインを外れた路面はタイヤかすですごく汚れている状況だったのに。コーナーの奥深く突っ込み過ぎてリヤホイールをロックさせて滑り、僕のマシンにぶつかってきた。これ以外の説明は無理だと思う。あっちは走り続けて表彰台、こっちは壁にぶつかってレース終了ってところは納得がいかない」

 優勝したのはセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・バッサー・サリバン)。去年のインディ500予選で大ケガをした彼は、「新シーズンの開幕戦で3位なら大満足」と、最後のリスタートでは前の2台との間にスペースを取るよう心がけたほどだったという。結果的にそれが幸いし、ブルデーは危なげなく前2台のアクシデントシーンをすり抜け、イエローフラッグとチェッカーフラッグが同時に振られるゴールラインを横切った。

 昨年の開幕戦、ブルデーは予選最初のステージでクラッシュしたために最後尾スタートだったが、巧妙な作戦で見事に優勝を果たしている。今年はオープニングラップにタイヤがパンクしており、2年連続で最後尾からの勝利を飾ったことになる。

「勝てたとわかったときには、こみ上げてくるものがあった。インディでの事故では骨が何本も折れたし、リハビリは大変だった。しかし、実際には僕自身より、家族など周りの人たちのほうが苦労は多かったと思う。昨年のうちにレースに復帰し、ケガの翌年にすぐまた優勝ができて本当に嬉しい。今回はかなりいろいろなことがあったうえでの勝利ではあるけれど、勝ちは勝ちだ」(ブルデー)

 一方、佐藤琢磨にとっては、これがレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングへの移籍初戦だった。

 琢磨は持ち込んだマシンセッティングが悪かったために後手に回る戦いを強いられた。それでも3回のプラクティスで何とかマシンを仕上げて、予選はファイナルに進出して5位をゲット。決勝でもトップグループで順調に戦っていた。

 ところが35周目、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が4度もチャンピオンになったベテランとは思えないミスを犯し、琢磨のリヤに激突してきた。琢磨の後方でオーバーテイクを仕掛けたディクソンは、タイヤかすに乗ってマシンのコントロールを完全に失ってしまったのだ。これでタイヤとマシン後部にダメージを負った琢磨は最後尾までダウン。12位完走という結果に終わった。

「予選でファスト6に進んだだけに、12位という結果は残念です。序盤はトップグループで戦えていたし、上位でのフィニッシュは十分に可能と見ていました。チームメイトのグレアム・レイホールが2位でフィニッシュしたので、チームにはいい勢いがついたと思います。次戦までには少しインターバルがあるので、テストをいくつか行ないます」(琢磨)

 優勝したブルデーから6位のディクソンまで、開幕戦の上位はホンダ勢が独占。は4月7日、フェニックス・レースウェイで開催される。