専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第146回 唐突に「ゴルフのどこが好き?」と聞かれて、返答に窮したことはないですか? アマチュアゴルファーの模範回答をざっくりと言ってみましょう。「ドライバーをかっ飛ばし、ナイ…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第146回

 唐突に「ゴルフのどこが好き?」と聞かれて、返答に窮したことはないですか?

 アマチュアゴルファーの模範回答をざっくりと言ってみましょう。

「ドライバーをかっ飛ばし、ナイスショットしたときの爽快感」、あるいは「10mぐらいのバーディーパットを沈めたときの身震い」、はたまた「ニアピンをビシーッと決めたときの高揚感」などなど、ざっとこんな感じですか。

 けど、そのあとのネタがなかなか続きません。逆に、嫌いなところ、苦手なところを挙げろ、と言われると即座にたくさん出てきます。

「料金が高い」「1日潰れる」「ニギリを強要される」「叩いてばかりで、なかなかうまくならない」「オヤジの遊びで、若者はやらない」「美人ゴルファーが少ない」「わがままな人が多い」「先輩がルールにうるさい。パワハラじゃん」「ファッションがダサい」「土地の無駄遣い」など、手厳しい意見が目白押しで、ネタが尽きません。

 結局、ゴルフというのは「労多くして、功少なし」です。時間とお金をかけるわりには、絶頂感が少ないスポーツで、ゆとり世代以降の若者が苦手とするところですね。

 それでも、ゴルフはいまだ数百万人が熱中している”遊び”です。これは、もっと別なところに魅力があるのかもしれません。そこを深く追求してみましょう。

 先日も冬の枯れ芝状態のなか、ひいひい言いながらゴルフをやりました。けど、上がってみると「89」のスコアを出して、そこそこの充実感を味わえました。

 その日のゴルフはダボ多めで、残り3ホールを残して17オーバーと厳しい戦いでした。80台を出すには、残り3ホールのすべてでパーを取らなければなりません。さすがにそれは無理だろう……と思いましたね。

 しかも、そう思った矢先、16番パー4のティーショットがチョロ。どよよ~ん……。そこからは、完全に諦めモードに入りました。

 ところが、それで不思議と力みが取れて、ふたを開けてみれば、16番は3オンの寄せワンパー。17番も寄せワンパーでした。

 さらに、18番では390ヤードのミドルホールを、ドライバーとスプーンを使って、やっとのことで2オン。2パットのパーでフィニッシュできました。

 フェアウェーからのスプーン使用は何年ぶりでしたかね。ダメもとで打ったら、これが案外飛んでくれたのです。結果、気づいたら「89」というスコアだったんですね。

 特にラストショットとなったスプーンがビシッと決まったときは、頭から脳内麻薬が降りてきたのか、恍惚(こうこつ)状態となり、余韻を何度もかみ締めていました。さながら妖精の『ティンカー・ベル』が3匹くらい、目の前を飛び回っている至福感……って、なんじゃそれ!

 実は、今回いい成績を残せたのは、ちょっとした変革があったからです。新しいドライバーを使って好感触だったのと、打ち方を変えて、それがドンピシャにはまったから。これが、要因だと思います。

 そう考えると、ゴルフは日々の工夫と変革と、練習の成果が実ったときの充実感、これがたまらないから癖になってしまうんですね。今ふうの言葉で言えば、「イノベーションが起きた」――これに尽きます。

 とはいえ、毎回頭の中で”ひとり全英オープン”をやって、”妄想トーナメントの優勝者”を演じられるのは、稀(まれ)です。

 現実のゴルフは、3回ラウンドして楽しかったのが1回くらいでしょうか。残り2回は「普通だよなぁ」、もしくは「結構、叩いたな」と、ぼやくことが圧倒的に多いです。

 また、50歳を過ぎると、年々飛距離も落ち、以前より腕前が落ちているのは確かです。ベストスコア更新なんて、何年前の話だっけ? そこには、マンネリになっている自分がいるのです。

 そこで、老獪(ろうかい)な大人は自分の趣味を正当化するために、このようなことを言います。

「ゴルフは1日中、野原を駆け巡って、健康的だから好き」とか、「気の置けない仲間と冗談を言いながら、1日過ごせるから楽しい」とか。

 そうですね、だんだんいい感じになってきました。スコアにこだわらず、視点を変えてみると、ゴルフは非常に魅力的な遊びに見えてきます。

 けど、健康的というなら近くの公園を30分も歩けば済む話です。社交も都内で何かしらのパーティーに行くか、友人と飲み会をすれば安く済みます。

 実はゴルフには、もっと奥深い魅力的な意義があるのです。

 ここで、私はひとつの結論に達しましたので、報告させていただきます。

「ゴルフが好きというより、ゴルフができる環境にいる自分が好き」なのです。

 あ~、今年もゴルフ代の小遣いを稼ぎ、遊ぶ時間を作り、そしてプレーする仲間がいることに感謝しなきゃ。そういうことができることが幸せなのだ、と。



ゴルフができる環境にあるって、本当に幸せですよね

 この”できる幸せ論”は、おおよそすべてのものに当てはめることができます。

「クルーズ旅行が好きというよりも、30万円かけてクルーズできる自分が好き」「キャバクラが好きというよりも、接待でキャバクラに連れていってもらえる自分のポジションが好き」

 とまあ、こんな感じですかね。

 作家・太宰治が「生まれてきてすみません」と言ったようですが、自分を否定するのって、なかなか難しいです。特にゴルフは非常に社会性がありますから、自己肯定感が強い人がするスポーツと言えます。

 自分が好きで、ゴルフも好き。だから「ゴルフをやっている自分が好き」なのです。

 というわけで、工夫とがんばりで、ときどき80台を出す自分が好きです。

 そういえば、最近ゴルフに関する書籍『ヘボの流儀~叩いても楽しいゴルフの極意』(集英社インターナショナル)が発売されました。「その本がそこそこ売れている自分が好きかな~」って、それって営業じゃん!?

 みなさま、お互いよりよきゴルフライフのために、清き一冊を購入されたしです。よろしくお願いいたします。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

『ヘボの流儀~叩いても楽しいゴルフの極意』3月5日発売