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蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.11
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2017-2018シーズンの後半戦、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)、決勝トーナメントの注目カードである、マンチェスター・ユナイテッド(ユナイテッド)対セビージャのセカンドレグ。経験豊富なモウリーニョ監督はどんな策を講じるのか? 第1戦ホームでスコアレスドローのセビージャはアウェーゴールをどう狙うのか? 直近の試合の影響は? 戦術通の3人が議論しました。
――本日はユナイテッド対セビージャに注目したいと思います。2月21日にセビージャのホームで行なわれた第1戦は0-0に終わりましたが、その試合を踏まえて、3月13日に予定されている第2戦を展望していただきたいと思います。
インテル、レアル・マドリーなども指揮したマンチェスター・ユナイテッドのモウリーニョ監督
中山 まず第1戦は、まさに”ザ・モウリーニョ”という試合でしたね。とにかくユナイテッドは90分通してリスクを冒さずに相手の良さを消すというプランを貫いて、セビージャの心臓部であるエベル・バネガとスティーヴン・エンゾンジをしっかり抑え込みました。
そして0-0で迎えた試合終盤になってマーカス・ラッシュフォードとアントニー・マルシャルを両サイドアタックに投入し、少しだけジャブを打つ。チャンピオンズリーグ(CL)の経験が豊富なジョゼ・モウリーニョ監督は、おそらく2試合トータルでプラニングしていると思うので、アウェーでの初戦は0-0でOKと考えていたのでしょう。
それに対して、セビージャのヴィンチェンツォ・モンテッラ監督は経験不足が露呈し、モウリーニョの術中にはまってしまった印象です。就任間もないので仕方ありませんが、もう少し工夫がほしかったですね。第1戦では、就任後に構築した自分たちの戦い方に終始してしまい、ユナイテッド対策という部分があまり見えませんでした。
倉敷 監督力の差はありましたね。この2シーズンのヨーロッパリーグウイナーというカップファイター同士の対戦ですが、チャンピオンズリーグにおける監督のキャリアを比較すればモウリーニョの134試合目に対し、モンテッラはわずか2試合目、経験値には大きな差がありました。
小澤 監督も含めた経験値からして、どうしてもセビージャはモウリーニョのサッカーに引きずり込まれてしまいますよね。ただ、セビージャは第1戦で25本もシュートを打って、そのうち8本が枠内シュートだったことを考えると、1ゴールも奪えなかったというのは悔やまれます。もちろんユナイテッドにはダビド・デ・ヘアというスーパーなGKがいるので仕方ない部分はありますが。
セビージャの望みは、アウェーゴールを許さなかったことでしょう。0-0で第2戦を迎えられるので、希望はあると思います。あとは、モンテッラが固定しているメンバーで第2戦も戦うのかどうかという点が注目です。
ラ・リーガのアトレティコ・マドリー戦(2月25日)では、いつものメンバーで臨みながら、同じようにビルドアップの起点となるバネガ、エンゾンジの2人を潰されて完敗してしまいましたから、その辺りの修正に期待したいところです。
中山 僕が気になっているのは、モンテッラが1トップにルイス・ムリエルを固定して、ウィサム・ベン・イェデルをあまり使わない点です。もちろんメンバーを固定してチームの骨格を構築すること自体に問題はないのですが、たとえばユナイテッド戦のように手詰まりになった時、攻撃に変化をつける策として前線にベン・イェデルを投入してもいいのではないでしょうか。
彼はスペースがない中でも一瞬の動きで裏をとることもできるし、ドリブルや細かいワンツーを使って局面を打開することもできるので、相手がゴール前を閉じている時は有効だと思います。モンテッラは、ミランの監督時代から試合中にやり方を変化させることを好まない傾向がありますよね。
小澤 モンテッラになってから先発が増えているムリエルが前線でダイナミズムを生み出し、得点を取っているのも事実ですが、ムリエルに代えて85分からサンドロ・ラミレスを起用していました。これだとムリエルがプレーしている時と大きな変化は生まれませんし、プレミアリーグのセンターバックの場合、ベン・イェデルのような機動力がありライン間で受けること、駆け引きがうまいタイプのほうが相手はやりづらいと思います。
倉敷 ユナイテッドはプレミアリーグのチェルシー戦、リバプール戦では、サイドに脅威を持つ相手に対し、インサイドを強化したフットボールで失点の危険が低い形を見出しました。エリック・バイリーの復帰もあってユナイテッドから複数得点を奪うのは難しそうです。
攻撃面を見れば、しばらくハングリーな思いをしていたラッシュフォードが解き放たれた印象で、セビージャの脅威になるでしょう。気になるのはアレクシス・サンチェスの使い方です。セビージャ戦でも3番目のアタッキングプレーヤーの役割と、4人目の中盤をこなすミッションを与えるのか? 中山さんのキープレーヤーは誰ですか?
中山 やはりユナイテッドのキーマンはポール・ポグバになるでしょう。最近はすっかり調子を落としていますが、彼が本来の力を発揮できるかどうかでユナイテッドのチーム力は大きく変わってしまうほどの重要な戦力ですから。
ただ、現在の彼は本来の力を10だとすると3か4くらいしか発揮されていません。これは多分にモウリーニョのスタイルに影響されていると思っていて、それは冬に加入したサンチェスにも言えると思います。モウリーニョのサッカーの中で彼の良さが半減してしまっていますし、もしかしたら今シーズンが終わる頃には、ポグバのように10のうち3か4くらいのパフォーマンスしか発揮できない選手になってしまう予感もあります。あれだけの大金を使って獲得したワールドクラスなので、もっと有効活用してほしいところですが。
小澤 もしモウリーニョがセビージャというよりもラ・リーガのクラブの監督だとしたら、きっとどのホームスタジアムでも大ブーイングが起こり、「モウリーニョ、ベテ・ジャ(モウリーニョよ、去れ)といったコールを大合唱されていることでしょう。
以前のモウリーニョなら、たとえばペップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)と張り合ってやろうという気概みたいなものを感じましたけど、最近はすっかりコンサバティブな指導者になっている印象があります。
倉敷 モウリーニョは時代の寵児としてポンと出てきた人だったんです。ところが、あっという間に天敵といえるペップが現れて華々しいキャリアを重ね、成果をあげている。クラシコなど直接対決でも圧倒的に分が悪い。さらに、ユルゲン・クロップ(現リバプール監督)やアントニオ・コンテ(現チェルシー監督)のような新進気鋭の監督がかつての自分のようにスポットライトを浴びている時代です。もはや達観して、ガツガツするのはやめた印象ですね。
モンテッラの監督キャリアはまだ7、8年です。今季途中でミランの監督を解任されながらチャンピオンズの舞台に挑むチャンスを与えられたわけですから、チャレンジすべきです。両チームとも中2日で臨む第2戦。ユナイテッドはタイムアップまで気の抜けないゲームをリバプールと戦い、セビージャはバレンシアをホームに迎えましたが、あまり心意気の感じられないゲームで完敗しました。心はもはやオールドトラッフォードだったのか?というセビージャが勝つにはどう戦うべきか? 中山さんいかがですか?
中山 奇策とはいかないまでも、第1戦と同じ流れではなく、モウリーニョが驚くような試合の入り方や選手の使い方をした方がいいと思います。モウリーニョの術中にはまらないようにすることが何よりも重要で、スコアを考えて慎重に試合に入るようなオーソドックスな戦い方をすると、相手の思う壺になってしまうのではないでしょうか。
ユナイテッドのセンターバック2枚は意外と隙が多いので、そういう点ではベン・イェデルの使い方というのもポイントになるかもしれません。
小澤 モンテッラは信頼を置くメンバーを継続起用する方針、つまりターンオーバーは極力使わないことを決めているような采配ぶりですので、セビージャ視点で言うと第1戦と同じようなメンバー、試合の入りになるでしょう。
ただ、ヘスース・ナバスがケガで欠場濃厚ですから彼を欠くことになると痛いです。ナバスは昨季所属していたマンチェスター・シティでペップのもと、右サイドバックを経験しているとは、モンテッラになってから右サイドバックにコンバートされ、第1戦でもいい働き、効果的な上がりでアレクシス・サンチェスを守備に奔走させました。
おそらく、冬に加入したミゲル・ラユンが起用されることになるでしょうが、ナバスのように積極的な攻撃参加でサンチェスの良さを封じるようなことはできないと思います。そうなると第2戦はまた違う形、左サイドからの攻略が必要になります。
個人的にはセビージャが守勢に回ってカウンターから少ないチャンスを点につなげて勝つというイメージを持てません。アウェーであってもビルドアップからバネガ、エンゾンジが絡み、ボールを保持、前進させてユナイテッドの全体のラインを低い設定として、前線1トップのロメル・ルカクを孤立させる展開を意図的に作りたいところです。もちろん、オプションとしてバネガをトップ下に置いて、エンゾンジとギド・ピサーロのダブルボランチもあるのですが、リードして逃げ切る戦況で使いたいオプションです。
倉敷 ズバリ、勝ち上がるのは?
小澤 順当にユナイテッドと言いたいところですけど、第1戦が0-0で終わっていますし、セビージャもアウェーゴールを奪えれば俄然有利になるので、僕としてはセビージャにも分があるんじゃないかと、期待も込めて言いたいですね。
中山 3日前にリバプール戦を戦っている点が引っかかりますが、僕は両チームの経験の差から順当にユナイテッドが勝つ可能性が高いと予想しています。
ただし、モンテッラが自分の殻を破って挑戦的なことをしたとしたら、セビージャにも勝機はあると思います。チャンピオンズリーグで勝たなければいけないという、クラブとして背負っているものはユナイテッドが上回っているので、セビージャはメンタルで負けないためにもチャレンジングな戦い方をした方が、選手のモチベーションも高まると思います。
倉敷 洗練された相手には戦術的に立ち向かい結果を出しているユナイテッドですが、無謀と思えるタックルでも積極的に仕掛けるひたすらワイルドな相手には苦戦する傾向にあります。
「彼らはアニマルのようだった」とモウリーニョが振り返ったアウェーのニューカッスル戦(2月11日)みたいに、セビージャが残留を争うチームのように闘志むき出しモードになれたら面白いですね。バネガはネマニャ・マティッチをうまくかわせるでしょうか?
第2戦も0-0のまま延長戦という予想も捨てきれない一戦(笑)。ユナイテッドが有利とみますが、セビージャがアウェーゴールの差で勝ち上がれる可能性もあるというところですね。
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