「ようやく自立した戦いができるようになった」 高倉麻子監督のその言葉を結果として示すためにも、チームとしては3連勝で自信につなげたかった最終戦だが、世界ランク5位のカナダに0-2の完封負けを喫した。これでアルガルベカップは2勝2敗、6位…
「ようやく自立した戦いができるようになった」
高倉麻子監督のその言葉を結果として示すためにも、チームとしては3連勝で自信につなげたかった最終戦だが、世界ランク5位のカナダに0-2の完封負けを喫した。これでアルガルベカップは2勝2敗、6位に終わった。
なでしこの得点源となるべく、すべての試合に出場した岩渕真奈
今大会は天候に恵まれなかったが、カナダ戦も結局90分間、雨は降り続いた。その中でも日本の立ち上がりは悪くなかった。だが、目指す”ボールに行くプレス”も効き、相手のスピードにギリギリのところで張り合いながら、ハマり始めたと感じた矢先に失点してしまう。
20分、クロスを入れさせまいとブロックに入った中島依美(INAC神戸)の手にボールが当たったことで、一瞬日本のプレーが止まってしまった。その隙にジャニン・ベッキーが豪快に逆サイド右隅へゴールを叩き込む。シュートも素晴らしかったが、日本が止まることなく対応していれば幾分コースを切ることができたはずで、なんとも悔やまれる瞬間だった。
2失点目も防げたはずのものだった。後半の立ち上がり、クリスティーネ・シンクレアのパスを最終ラインまで入っていた長谷川唯(日テレ・ベレーザ)がカットしてボールは力なく中へ。ここでピンチを切り抜けたかに思われた。GK山下杏也加(日テレ・ベレーザ)もクリアするために走り出していた。
熊谷もその姿を捉えていたが、自分もいくと「クラッシュしそうだな」と一瞬迷いが生じた。ところが、相手のアシュリー・ローレンスにはその迷いがなく、ボールに突進、熊谷と競りながら懸命に足を伸ばしてボールを押し出した。必死に山下が後を追うも届かず、ボールはゴールへ。「自分の判断が失点を招いた」と悔やむ熊谷。一声あれば何事もなく済んだ場面だった。
「どっちも崩されたわけじゃないし……でも”2”という数字がキツかった」
阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)のこの言葉通り、今の日本には連続失点後に巻き返すだけの逆襲力がない。その言葉に頷きつつも、同義のようで非なるものとして”0”の数字に不安を感じずにはいられなかった。
6ゴールを失ったオランダ戦ですら、敵陣をえぐった攻撃が多く存在した。内容では守備の崩壊に目が集まったが、攻撃については”決定力不足”と言うことができた。
ところがカナダ戦は、決定力のはるか手前の話しかできないくらい、フィニッシュに導くパスがほとんど通らなかった。このチームの攻撃を支えているのは多彩な個のカラーと、攻撃陣が繰り出すワンタッチパスで作るリズムだ。そのパスが出せないとは、由々しき事態だった。
好機を作る崩しがほぼ”0”という状態は、何より指揮官に少なからぬショックを与えていた。
「ゴール前に入っていくシーンを作り出せなかったことが一番悔しい」
枠を捉えたシュートはわずか4本。終了間際に得たPKすら決めることができなかった。日本のファーストタッチが少しでもブレれば、チャンスとばかりに2タッチ目で奪われる。それらは本来、日本がしなければならないプレーだ。日本は逆襲のタイミングを掴むことなく、封じられてしまった。
守備に関しては、主軸となる戦い方は共有することができていた。これは、この2年間で最大の収穫といっていい。5位以上に入らなければワールドカップ出場権が得られない4月のアジアカップでは、人数を割いて厳重な守備で失点を防ぎにくる相手か、パスミスを誘う強烈なプレスをかけてくる相手か、ほぼ2択だ。
現状、「日本らしいサッカーでリズムを作る」以外の有効策は見えていない。高倉監督は攻撃色を豊かにするために多くの時間を割いてきた。力の劣る相手にはその力を存分に発揮することができるが、世界大会ではそれほど簡単な相手に恵まれることはない。
「今までは久美(横山)の技術とか、ぶっちー(岩渕)のドリブルだったり、ミナ(田中)のターンだったり、個の力で点を取ってきたところもある。そこが引っかかり始めたり、マークがつき始めたりすると次の術(すべ)がない……」と攻撃の起点となる阪口は話す。個を封じられ、コンビがハマらなくなったときの打開策として、そろそろセットプレーにも着手したいところだ。
アルガルベカップでもなんとかセットプレーから活路を見出そうと、熊谷が大外を回って頭で合わせる形を2度トライしている。ショートコーナーを使いながら、工夫を凝らしてはいるが、なかなか得点に結びつかない。高倉監督はあえてセットプレーを詰めていないフシもあり、「まだやってないですから」と言葉を濁す。過去のなでしこたちの窮地を救ってきたのもセットプレーからの得点だった。ゴールを破れば、相手も動く。攻撃が停滞した際の突破口となるセットプレーがそろそろ見たい。
アジアの戦いは得失点も大いに関わってくるだけに、攻撃の失速は命取りになる。劇的に守備を立て直したように、”自由な攻撃”にも何か変化を与えるときが来ているのかもしれない。
「ただ転んで終わるつもりはない」と表情を引き締めた高倉監督。アジアカップまであと1カ月。こだわり続けた攻撃力をいかに花開かせていくのか。残された時間は少ない。