昨季のJ1王者が、崖っぷちに追い込まれた。 3月7日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ第3節が行なわれ、川崎フロンターレはメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)と2-2で引き分けた。 全6節のうち半分を終え、いま…
昨季のJ1王者が、崖っぷちに追い込まれた。
3月7日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ第3節が行なわれ、川崎フロンターレはメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)と2-2で引き分けた。
全6節のうち半分を終え、いまだ勝利のない川崎は、1分け2敗の勝ち点1でグループFの最下位。アジア制覇どころか、グループリーグ敗退の危機に瀕している。
土壇場で追いつかれて、勝利を逃したフロンターレ
「選手は勇気を持って戦ってくれたが、勝ち切れず、その悔しさしかない。スキを見せずに最後まで戦いたかったが、残念な結果になった」
2度のリードを奪いながら、2度とも追いつかれたうえ、2失点目は勝利目前のロスタイム。いつもは結果に左右されず、淡々と前向きな言葉を口にすることの多い鬼木達監督も、さすがにショックの色は隠し切れなかった。
2連敗を喫していた川崎がすでに苦しい状況にあったのは間違いないが、この試合をものにすれば、逆襲への足掛かりができるとの思いは、指揮官にも当然あっただろう。
3戦目の相手は、グループFで最も力が落ちると見られるメルボルン。しかも、川崎のホームゲーム。流れを変えるための条件はそろっていた。
ところが、結果は「求めていたものとは大きく違った」(鬼木監督)。
この試合、川崎は決して自分たちのよさを出せなかったわけではない。鬼木監督は「選手は自分たちらしさを出して戦ってくれた」と言い、先制ゴールを決めたDFエウシーニョも「自分たちのスタイルは出せている」と振り返った。
“川崎らしさ”が発揮できた要因のひとつは、メルボルンとのかみ合わせのよさだった。
メルボルンの特長は、川崎同様、しっかりとパスをつないで攻撃を組み立てるボールポゼッションにある。だからこそ、川崎のよさを消すために”寝技”に持ち込むようなサッカーをすることなく、堂々と組み合った。メルボルンのケヴィン・マスカット監督が語る。
「Jリーグも含めて川崎の試合は数多く見たが、いつも60%に達するほどボールポゼッション率が高い。だが、我々はそれに対して守備に回るのではなく、ポゼッションで対抗しようとした」
結果、お互いが特長をぶつけ合った試合は、「両チームともいいプレーで攻撃し合う、白熱したゲームになった」(マスカット監督)。
ボールポゼッションによる攻撃力を武器とする川崎にとって、メルボルンの姿勢はまさに”望むところ”だった。実際、キャプテンのFW小林悠は、「前半からやりやすかった。(J1優勝した)昨年みたいな感覚でやれていた」と、試合を振り返っている。
にもかかわらず、川崎は勝ち切れなかった。
自分たちのよさやスタイルを出せたことは、悔しい引き分けのなかに見出すことのできるポジティブな要素ではあるだろう。だが、その一方で、それを出せたのに勝てなかったことの痛手も決して小さくはないはずだ。
「チャンスはあったが、もうひと崩しできるところで、(ミドルシュートを)打ってしまったり、最後のところで(パスが)ズレたりした」
小林がそう語ったように、川崎は流麗なパスワークを随所に発揮したものの、なかなか点差を広げることができなかった。そのうえ、試合終了目前の失点で勝利を逃す、最悪の結末。感情をあらわにすることなく、淡々と口を開く小林の表情に、どうにか押し殺している苛立ちがにじむ。
「その(失点の)前の段階から、戦い方ははっきりしていた。みんなでずっと声を出し、『つなげなければ、裏に蹴っていいよ』と話していたが、ちょっとしたスキというか、油断というか……、それが出ちゃったのかなと思う」
不甲斐ない試合に、キャプテンの口からは厳しい言葉がこぼれる。
「勝てば(内容やスコアは)何でもよかった。人数は足りていたのに……。スキを見せないとか、勝ちへの貪欲さとかを、チームとしてもう一回考え直さないといけない」
もちろん、「まだ終わったわけじゃない。反省はしなければいけないが、(気持ちを)切り替えて前を向かなければいけない」(小林)のは、確かである。川崎は依然、自力で決勝トーナメントへ進出(グループ2位以上)する可能性を残している。
だが、続くACL第4節はわずか1週間後、南半球に乗り込んでのアウェーゲームとなる。その間にはJ1第3節のガンバ大阪戦も控えており、ACLだけに注力できない難しさもある。ショッキングな敗戦を引きずらずに、気持ちを切り替えるのは簡単なことではないだろう。
勝たなければいけない試合だった。だからこそ、小林は同じ言葉を繰り返した。
「勝てば何でもよかった」
川崎はあまりに大きな勝ち点2を失った。