アルガルベカップ3戦目にして、ようやくこのチームらしさが出始めた。ユーロ準優勝のデンマークを相手に2-0で完封勝利をおさめた日本。2戦目のアイスランド戦で見せた”自分たちのサッカー”が、一過性のものではないこと…

 アルガルベカップ3戦目にして、ようやくこのチームらしさが出始めた。ユーロ準優勝のデンマークを相手に2-0で完封勝利をおさめた日本。2戦目のアイスランド戦で見せた”自分たちのサッカー”が、一過性のものではないことを証明した。



後半、待ちに待った得点を決めた長谷川唯と岩渕真奈

「前から! 全員でね!」

 この日もキャプテンマークを巻いた熊谷紗希(オリンピック・リヨン)が、ベンチ前の円陣の中で鼓舞する。叩きのめされたオランダ戦を経て、チームの立て直しをかけたアイスランド戦では粘り勝ち。どん底から掴み取った手応えをここで失うわけにはいかない。

 するべきことはわかっている。未知な要素といえば、初となる阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)と市瀬菜々(ベガルタ仙台)とのボランチコンビだ。前日練習でいきなり指名を受けた市瀬のプレーに注目が集まった。

 代表ではセンターバックとしてチャンスを与えられてきたが、所属チームではボランチもこなしている市瀬。実際にこの試合では、培ってきた守備スキルをボランチでも発揮したが、それ以上に市瀬の予測力の高さを改めて知るらしめることになった。

 ボランチ2人のプレーエリアは、あまり芳しくないピッチコンディションだった。一度のスライディングで市瀬の半身は泥まみれ。それでも足場が悪い中、相手のこぼれ球、味方のパスミスといったイレギュラーなボールに対しても戸惑うことなく対応する。奪うまではいかずとも、遅らせることでカウンターの脅威を潰しているシーンが幾度もあった。

 28分には岩渕真奈(INAC神戸)からのマイナスパスを受けると、ドリブルでペナルティエリア付近まで一気に突き進んだ。「チャンスがあればペナ付近での崩しにも関わりたい」と描いていたイメージを実行してみせた形だ。

 本人曰くこの試合で、「あまり納得できるプレーはない……」とのことだが、カウンターに持ち込まれることはありながらも、ポジショニングを見失うことはなかった。市瀬がいることで、阪口が前線へ上がれた効果もあり、なでしこのボランチ一発目にしては十分な存在感を示した。

 59分に市瀬に代わってボランチに入ったのが、宇津木瑠美(シアトル・レイン)だ。

 ここからまたガラリと中盤の色が変化した。1対1に強い守備力と推進力を兼ね備えた宇津木は、中距離、長距離の縦パスを入れながら好機を生み出していく。交代直後からすぐ仕事ができる宇津木の入り方も完璧だったが、試合中にこれだけ中盤を一変させ、それぞれの色が出る展開になったことがなかっただけに、見応えのある市瀬と宇津木のコントラストだった。

 課題として残ったのは、やはり攻撃だ。後半、4-2-3-1としてトップに横山久美(フランクフルト)、右に岩渕、真ん中に長谷川唯(日テレ・ベレーザ)、左に中島依美(INAC神戸)と、現状もっともゴールを狙える布陣で勝負に出る。

 初戦から岩渕&横山のコンビプレーは頻度が上がり、さらに長谷川が随所に顔を出すことで、テンポが生まれる。横山と長谷川で裏を狙い、中島はボランチからの縦パスを引き出す。左サイドバックの鮫島彩(INAC神戸)が一気に駆け上がり、鋭いクロスを供給すれば、負けじと右サイドバックの清水梨紗(日テレ・ベレーザ)がフィニッシュに絡む上がりを見せる。

 バリエーションは確実に広がっていた。だが、それでもゴールが遠い。狙い続けた先制点は83分まで待たねばならなかった。阪口からのパスを受けた横山が強烈なシュートを放つ。ここで決めたいところだが、GKにまたしても弾かれてしまう。それをDFがクリアし損じたボールに詰めたのが長谷川だった。

「走り込んだら思ったところにボールが来なくて、真上だった。足を伸ばして……あとはどうなったか覚えてない(笑)」(長谷川)と、彼女の美学からは少し遠い、崩れながらのゴールだったが、その表情は柔らかかった。

 その長谷川も昨年は焦燥感を抱えていた。

「そろそろ攻撃も形が見えてこないとダメ」

 個での崩しはあっても、単純な攻撃の繰り返し。長谷川はもともとパスを駆使した崩しが得意で、イメージも持っている。しかし、それを共有できる環境は作り出せていなかった。

 昨年7月のブラジル、オーストラリア、アメリカとの3連戦ではフィジカルの差を見せつけられた。そこで相手のリーチの長さに対抗すべく、ドリブルの幅を広くすることを心がけた。それにより「去年に比べてボールを簡単に取られなくなった」。こうした努力が今、実を結ぼうとしている。

 そしてもうひとり、ゴールへの想いを募らせていたのが岩渕だった。

「とりあえず、ゴールが奪えてよかった……」

 ダメ押しのPKを決め、開口一番に安堵の言葉を漏らした。チャンスを量産していながら、得点に結びつけられていなかった責任を感じていた。経験値から見ても、岩渕はこの状況を打破しなければならない立場にある。

 人数をかけた厚みのある攻撃もできれば、数少ないタッチでゴール前に運ぶ攻撃も出てきた。あとはゴールのみ。「気持ちは持っているんですけど。最後の丁寧さなのかな。速く丁寧に(シュートを)打つ、パスを出すっていうのをやれるようにしなきゃいけない」と岩渕は悔しさを滲ませる。

 高倉麻子監督はそういう岩渕のプレーに期待を寄せている。この試合でも「岩渕が(ゴールを)決めそう」だと交代を引き延ばしていた結果、ロスタイムにまでズレ込んだが、自分で仕掛けて得たPKをしっかりと決めた。90分間出続けたからこそ生まれたゴールだった。

 初戦の壊滅的ダメージから抜け出し、新たなステージへ歩み出そうとしている今、どんな形でもゴールが欲しい。残るはカナダとの5位、6位決定戦のみ。攻撃陣の爆発を待つばかりだ。