北海道コンサドーレ札幌との開幕戦で勝利を収めたものの、サンフレッチェ広島の戦いぶりは大いに不安を感じさせるものだった。とりわけ、アイデア不足の攻撃には怖さがなく、どのように点を奪うかという意図がほとんど感じられなかった。ホームで逆転負…

 北海道コンサドーレ札幌との開幕戦で勝利を収めたものの、サンフレッチェ広島の戦いぶりは大いに不安を感じさせるものだった。とりわけ、アイデア不足の攻撃には怖さがなく、どのように点を奪うかという意図がほとんど感じられなかった。



ホームで逆転負けを喫し、険しい表情で引き上げる浦和の選手たち

 しかし、それからわずか1週間――。浦和レッズの本拠地に乗り込んだ一戦で、広島の攻撃は「劇的に」とまでは言わないものの、「着実に」良化していることをうかがわせた。

 その要因となったのは、MF川辺駿の存在である。右サイドからトップ下にポジションを移した後半に、この22歳のアタッカーが躍動した。相手の最終ラインとボランチの間でボールを引き出し、鋭いドリブルでエリア内に侵入していく。その果敢な仕掛けがふたつのゴールを導き、広島に逆転勝利をもたらしたのだ。

 昨季までジュビロ磐田に3年間、期限付き移籍していた川辺は今季、満を持して広島に復帰。しかし、開幕戦では本来の中央の位置ではなく右サイドに起用されたことで、その攻撃力を生かすことができなかった。この日も右サイドでの出場だったが、後半のポジション変更が転機となった。

「サイドハーフでは自分でもあまりよさが出ないと思っていますが、そこで守備をすることによってチームが崩れずにいけることが札幌戦でわかりました。ただ、今日は自分がトップ下に移った瞬間に勝負だと思いましたし、自分でものびのびできてギアが上がるのがわかった。アシストではないですけど、2点に絡めてよかったです」

 もともとはボランチやトップ下が主戦場の選手である。本来のポジションで生き生きとプレーした川辺こそが、間違いなくこの日の逆転勝利の立役者だった。

「開幕戦より少し進歩したかなと思うし、浦和レッズというすばらしいクラブにアウェーで逆転できたというのは、大きな自信になると思う」

 今季よりチームを指揮する城福浩監督にとっても、手応えを得られる一戦となったのは確かだろう。

 では、対する浦和はどうだったのか。昨年のアジア王者に漂うのは、拭うことが困難なほどの閉塞感だった。

 開幕戦ではFC東京と対戦し、1-1のドローに終わった。先制されながら直後にDF槙野智章のゴールで追いついたものの、内容は決してかんばしくなかった。守備には安定感があるものの、FC東京戦で露呈した攻撃の迫力不足は、この日も最後まで改善できなかった。

 前半から丁寧なビルドアップで広島に揺さぶりをかけた浦和だったが、いかんせん、縦パスがなかなか入らない。縦につけようとしても広島の激しいプレッシャーにさらされて、前を向くことができなかった。

 結局、中盤を飛ばしてサイドを走らす形が打開策となり、そこからいくつかチャンスを生み出した。とりわけ、右サイドFWのマルティノスの突破は破壊力を備え、前半終了間際の得点シーンも、この新助っ人のドリブルが突破口となった。

 もっともマルティノスの存在は、諸刃の剣でもある。単独で仕掛けられるものの、つぶされて逆襲を食らう場面も少なくなかった。多用しすぎるようだと、ピンチの数が増える可能性も否定できない。

 また、サイド一辺倒の攻撃では、相手に怖さを与えられないのも事実だろう。この日、左ウイングで出場したFW武藤雄樹は、サイドに張るだけではなく、あえて中目のポジション取りを意識したという。それは、中央から崩すという狙いを持っていたからだ。

「もう少し中から崩していくような形が作れればよかった。僕が中に入っているということは、中の枚数が増えているのに、そこで崩せなかったところは反省点だと思います。やはり前の選手としては、もっと縦パスを入れてほしい。もちろんカウンターのリスクは高くなりますが、現状はサイドにパスが流れることが多いので……」

 FW興梠慎三も同様の見解を示す。

「サッカーはリスクをかけて攻撃をしないと点は入らない。今はリスクを負ったパスはあまりないかなと思います。サイドから崩せればそれでもいいけど、うまくいっているわけではない。特にレッズは身長が高い選手があまりいないので、簡単にクロスを上げるだけでは難しい。しっかりと崩さないと、なかなかうまくいかないのかなと思います」

 本来の興梠は、裏への抜け出しやポストプレーで起点となり、2列目との連動からゴールを奪う形を得意とする。昨季もそのスタイルで20ゴールと結果を出した。しかし、今季は開幕2試合連続で不発に終わり、広島戦では1本もシュートを打てなかった。この日は司令塔のMF柏木陽介がケガのため不在だったことも影響しただろうが、興梠のよさが生かされる場面はほとんどなかった。

 そもそも今季は、昨季の得点源だったラファエル・シルバ(→武漢卓爾)が電撃移籍したことで、得点を奪う役割はさらにこのストライカーに求められるだろう。その興梠が機能しなければ、得点機を作り出すのは難しかった。

 アジアの強豪クラブを撃破した昨季のACLでは、堅守を軸に1点を守り切るサッカーだった。しかし、Jリーグでは実力上位チームである以上、ボールを持つ時間が増える。そのなかで、いかにアクションを起こしていくかが、今の浦和には求められる。ただ、リスクマネジメントの意識が強すぎる現状では、なかなか効果的な攻撃を仕掛けられない。

 面白いのは、槙野の見解だ。「追う立場のときのほうが、自分たちらしいサッカーができるかもしれない」。それはつまり、リスクを負わなければいけない状況とならなければ、アクションを起こせないということだろう。

 そんな現状を打破するべく、広島戦の翌日に浦和は新たな外国籍選手(オーストラリア人MFのアンドリュー・ナバウト)の獲得を発表している。もちろん、強力なアタッカーの個の力が勢いをもたらすこともあり得るだろう。しかしその個性も、確かな組織の上に成り立つものだ。根本的な部分を改善できなければ、閉塞感は打ち破れない。