水谷隼vs張本智和 写真:西村尚己/アフロスポーツ 約2カ月前の全日本選手権で辛酸をなめた日本のエースが借りを返した格好だ。駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場で3月3日に開かれた「LIONカップ 第22回ジャパントップ12卓球大会」…
約2カ月前の全日本選手権で辛酸をなめた日本のエースが借りを返した格好だ。駒沢オリンピック公園総合運動場 屋内球技場で3月3日に開かれた「LIONカップ 第22回ジャパントップ12卓球大会」(以下、ジャパントップ12)男子シングルス決勝は、今年1月の全日本選手権でも決勝で激突した水谷隼(木下グループ)と張本智和(JOCエリートアカデミー)の注目の顔合わせとなった。
水谷にとってこの一戦はいわばリベンジマッチ。わずか14歳の中学生に過去9度の全日本王座を奪われた雪辱を果たす場であり、一方の張本にとっても再び日本のエースの胸を借り真の実力を示すチャンスの場であった。
張本のチキータレシーブを封じた「シンプルなサーブ」
互いに火花を散らす再びの頂上決戦は蓋を開けてみれば、前週ロンドンで開催された「チームワールドカップ2018」でも、いまひとつ調子の上がらなかった張本がこの日もピリッとせず。試合後、「張本の調子はそれほど良くなさそうだった。そこに付け込めばチャンスはあると感じた」と指摘した水谷がゲームカウント4-2で勝利を収めた。
水谷とて自信があったわけではない。昨年の世界卓球ドイツ2017に続き、今年の全日本選手権でも張本に負けネガティブなイメージは拭えなかった。しかし、そこは百戦錬磨のベテランだ。全日本選手権から約2カ月の間に緻密な張本対策を講じてきた。その1つがサーブ。敗戦を喫した過去2回の対戦で「サーブで全く先手を取れなかった」という反省を生かし、今回は「すごくシンプルなサーブで組み立てていった」と話す。この"シンプル"なサーブとは強い下回転系のサーブをフォア前(相手のフォア側のネット近く)に多く出して張本の得意なチキータレシーブを封じ、そこから3球目攻撃を仕掛けるなどして先手を取ろうとしたことを指しているようだ。
そして、さらに秀逸だったのが第5ゲーム。ゲームカウント2-2の10-5で水谷がリードした場面で、張本が10-8と追い上げてきて水谷がタイムアウト。タイムアウト明けにはさらに張本の強烈なフォアハンドクロスが決まり10-9となって、今度は張本がタイムアウトを取った。この手に汗握る心理戦のタイムアウト明けに水谷が出したのが逆横回転系のYGサーブ(ヤング・ジェネレーション・サーブの略)だ。これで3球目攻撃を決めた水谷は第5ゲームを奪ってゲームカウントを3-2とし、主導権を握った。
水谷も「(今日の張本との試合で)唯一、10-9の1本だけはサーブを変えてYGサーブを出しました」とさらり。試合を通して「サーブで張本のチキータレシーブを封じたことが一番の勝因だった」と安堵の表情で語った。
リスクを負う前陣プレーと苦手なチキータレシーブを多用
水谷が張本に勝った要因の2つめに挙げたのはリスク覚悟のモデルチェンジだ。本来、水谷といえば後陣で強烈な回転をかけたドライブボールやロビングなどを駆使し、攻撃と守備を固めるのが特長だが、今回は明らかに違っていた。
「張本の強烈なバックハンドに対し、後ろに下がってしまっては対応できないので、リスクを負って前陣でカウンターを狙っていった。全日本選手権の時はフォアとバックどっちに来るかわからなかったが、今回はヤマを張って待つことができカウンターが上手くいった」
そう水谷が明かす一方で、張本も「水谷さんが前陣で全く台から下がらず打ってきて強かった。自分の簡単なミスが少し多くなった」と水谷の"異変"を口にしている。
さらに水谷が勝因に挙げたのが、張本のお株を奪うチキータレシーブ。「僕は他の選手に比べてチキータがすごく苦手。でも、今回は負けてもいいから練習を兼ねてチキータレシーブをたくさん使った。いつもより半歩前に出て、甘いサーブが来たら狙っていくぞとプレッシャーをかけた」と言う。さらに「僕の一番ダメなところはレシーブが消極的なところ。今回は結構ミスもあったが、相手にチキータレシーブがあると思わせることができただけで良かった」と自身の弱点克服に挑んだことも明かした。
近年は男子選手であっても女子選手のように、台から距離をほとんど取らず速いピッチで攻撃を畳み掛けていくプレースタイルが増えつつある。張本はまさにその一人だが、ベテランの水谷もこの現代の卓球を取り入れようと奮闘している。また、女子でも石川佳純(全農)が速い卓球へのモデルチェンジに挑戦しているように、日本の両エースは変化を恐れず、まだまだ進化を続けているのだ。
(文=高樹ミナ)
<LIONカップ 第22回ジャパントップ12 卓球大会>
【結果】
■男子
優勝:水谷隼(木下グループ)
2位:張本智和(JOCエリートアカデミー)
3位:神巧也(シチズン時計)、大島祐哉(木下グループ)
■女子
優勝:早田ひな(日本生命)
2位:橋本帆乃香(ミキハウス)
3位:長﨑美柚(JOCエリートアカデミー)、安藤みなみ(専修大学)
賞金総額 500万円
男女同額:
1位 1,000,000円
2位 500,000円
3位 200,000円(2名)
4位 100,000円(各リーグ戦 2位の4名)
5位 50,000円(各リーグ戦 3位の4名)