2015年からインディカーシリーズで始まった「自動車メーカーによる空力の開発・供給」は、3シーズンで終了した。ホンダとシボレーの2メーカーが提供したエアロキットには、当然のことながら実力差が生じた。コースによっては、一方の陣営は最初か…

 2015年からインディカーシリーズで始まった「自動車メーカーによる空力の開発・供給」は、3シーズンで終了した。ホンダとシボレーの2メーカーが提供したエアロキットには、当然のことながら実力差が生じた。コースによっては、一方の陣営は最初から勝負にならないようなケースもあった。出場全車が同一の空力パッケージで走っていた2014年までの方が競争は激しく、レースが面白かったとの結論に達したのだ。



インディ500連覇とシリーズ王者の期待がかかる佐藤琢磨

 しかも空力開発には膨大な費用がかかるため、自動車メーカーに負担を強いる。それ以上に深刻だったのは、毎年更新されるパーツを購入することで、出場チームの経営が圧迫されてしまったことだった。

 そこでインディカー(主催者)、ホンダとシボレーの自動車メーカー2社、シャシーの根幹となるモノコック・タブを作ったコンストラクターのダラーラが力を合わせ、よりルックスが魅力的で、安全性が高く、激しい競争を実現できる新しいエアロ=ユニバーサル・キットが作り出された。これなら新パーツの開発競争はなく、チームの負担も減る。そして何より、実力伯仲の見応えある戦いが繰り広げられることになる。

 昨年までの3シーズンは、各チームは2メーカーの作ったエアロの性能をどれだけ引き出せるかを競い合ってきた。それが今年からは共通エアロでの戦いに変わる。全チームに新しい空力パーツが行き渡った1月からテストが解禁され、テストはフロリダやカリフォルニア、アリゾナといった冬でも温暖な地で行なわれてきた。シリーズやファンの期待する通り、チーム間の実力差は縮まり、昨年以上の混戦模様となりそうな気配が漂っている。

 もっとも、歴史と実績のある強豪チームは、新エアロの特徴を把握する能力や、その性能をいかに引き出すかという戦いとなっても、高い実力を発揮するだろう。これまで強かったチームが今季も強いままである可能性はもちろんある。しかし一方で、優秀なエンジニアと開発能力の高いドライバーの組み合わせが新エアロのセッティングのツボをいち早くつかみ、思わぬアドバンテージを築き上げるケースも十分に考えられる。

 それをまさに狙っているのが、昨年のインディ500ウィナー、佐藤琢磨を迎え入れたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングだ。エンジニアリング部門の強化に努めてきた彼らは、琢磨とグレアム・レイホールのコンビを擁し、一気にチャンピオンシップ・コンテンダーとして確固たる地位を築こうと目論んでいる。

 琢磨にはインディ500連覇の期待もかかるが、彼自身としては2018年のシリーズチャンピオンの座も視野に入れているだろう。それだけの力をレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングも琢磨も持ち合わせている。

 もちろん、その夢を実現させるためには、昨年度チャンピオンのジョセフ・ニューガーデン、一昨年のチャンピオンのシモン・パジェノーらを起用するチーム・ペンスキーや、4回のタイトル獲得実績を持つチップ・ガナッシ・レーシング・チームズのスコット・ディクソンらを打ち倒さなければならないが……。

 一方、参戦自動車メーカーのホンダとシボレーは、純粋なエンジンのパワーアップ競争を再開することになる。まずは耐久性の確保が課題だが、少しでも大きなパワー、幅広い回転レンジでドライビングがしやすいキャラクター、そしてよりよい燃費を求めて開発競争は続く。実は空力についても両メーカーは研究を継続しており、ユーザーチームがパフォーマンスアップできるよう有用なデータを供給するように努めている。

 2018年もインディカーシリーズの年間レース数は17戦で変わらない。F1アメリカGPを1980年まで開催していたワトキンスグレンはカレンダーから落ちるが、西海岸のオレゴン州ポートランドがシリーズに再加入してくる。今年もインディカーはストリート、ショート・オーバル、スーパー・スピードウェイ、常設ロードコースと、使用コースはバラエティ豊かだ。海外イベントはカナダ・トロントでの1戦のみとなっている。

 出場チームの顔ぶれを見ると、チーム・ペンスキーが4台から3台、チップ・ガナッシ・レーシング・チームズは4台から2台に体制を縮小した。その一方で、昨年、3回のスポット参戦を行なったハーディング・レーシングなど3チームが新たにフル参戦する。ハーディング以外のカーリンとフンコス・レーシングはいずれもインディ・ライツでチャンピオンになった実力派で、新エアロ導入をチャンスと見てステップアップしてくる。

 また、ドライバーではアメリカだけでなく、カナダ、イギリス、オーストリア、ブラジルから生きのいいルーキーがチャレンジしてくる。その中には元F1チャンピオンで、インディカーでもチャンピオンとなり、インディ500でも2勝しているブラジルの英雄、エマーソン・フィッティパルディの孫=ピエトロの名前もある。

 開幕戦は今年もフロリダ州セント・ピーターズバーグのストリート・コース。決勝は3月11日に行なわれる。