湘南ベルマーレは昨季J2で優勝し、一昨季のJ2降格からわずか1年でのJ1復帰を果たした。今季J1の舞台に立つ湘南にとって、これが最近6シーズンで3度目のJ1昇格となる。 ひとたびJ2へ降格してしまうと、苛烈な昇格争いに飲み込まれてしま…

 湘南ベルマーレは昨季J2で優勝し、一昨季のJ2降格からわずか1年でのJ1復帰を果たした。今季J1の舞台に立つ湘南にとって、これが最近6シーズンで3度目のJ1昇格となる。

 ひとたびJ2へ降格してしまうと、苛烈な昇格争いに飲み込まれてしまう”元J1クラブ”が少なくないなか、湘南はいつも1年でJ1へ戻ってくる。「湘南スタイル」と称される運動量豊富なサッカーを武器に、J2のライバルたちをねじ伏せてきた戦いぶりは、内容的にも称賛に値する。



昨季J2を制して、J1に復帰した湘南ベルマーレ。photo by Yamazoe Toshio

 とはいえ、最近6シーズンで3度目のJ1昇格は、裏を返せば、その間に2度のJ2降格を味わってきたことを意味する。J2では「湘南スタイル=自分たちらしさ」を存分に発揮して勝ち上がるものの、J1になると、そうは勝たせてもらえない。湘南は近年、その経験を繰り返してきた。

 だが、湘南は決してJ1で自分たちらしさを出せなかったわけではない。それどころか、J1の舞台であろうとも、敵陣からプレスをかけ、奪ったボールを速攻につなげる。そんな湘南らしいハツラツとしたサッカーを繰り広げた試合のほうが、むしろ多かったかもしれない。

 にもかかわらず、なかなか勝てなかった。どんなに面白い試合をしても、負けは負け。最近6シーズンのうち、湘南がJ1で過ごしたのは3シーズン。そのなかでJ1残留圏内の15位以上につけられたのは、わずか1シーズンだけだった。

 もちろん、「自分たちらしさを出して勝つ」ことがベストなのは間違いない。しかし、それができないときにどうするのか。「自分たちらしさを出せたが、勝てませんでした」で、いつまでも満足していていいのか。

 これこそが、今季の湘南が取り組んでいる新たな挑戦である。

 さまざまなテクノロジーが進化した現在、対戦相手の分析をより細かく、かつ正確に行なえるようになった。湘南の曺貴裁(チョウ キジェ)監督は言う。

「相手が我々の特長を出させないようにするのは当たり前」

 相手が対策を講じてくるなら、自分たちはその対策に対策を講じ、すると相手はその対策の対策に対策を講じる。曺監督は、そうした現代サッカーを「いたちごっこ」と表現する。

 もちろん、相手がAでくるなら、我々はB。相手がBでくるなら、我々はCというように、相手の出方に応じてどんな手にも対応できればいいが、「すべてをよくしようとすると、特長がなくなる」と曺監督。いかに自分たちの魅力を失うことなく、勝利という結果に近づくか。ベストではなくとも、ベターを探す。

「その答えを今季見つけていきたい」

 湘南を率いて7シーズン目を迎えた指揮官は、そう語る。

 変化の萌芽(ほうが)は、すでに昨季から見えていた。

 例えば、攻守の切り替えが速く、スピードに乗って一気に攻め切るのは、従来の湘南らしさではある。だが、昨季の湘南は、落ち着いてボールを動かしながらでも攻め切れる。そんなシーンを確実に増やしていた。「動」の展開に持ち込むしかなかったチームが、「静」の展開にも対応できるようになっていた。

 3月2日に行なわれたJ1第2節、川崎フロンターレ戦。J1に復帰したばかりの挑戦者は、昨季チャンピオンと開幕早々、しかもアウェーで対戦することになった。だが、湘南は、もはや愚直に自分たちらしさをぶつけるだけのチームではなかった。曺監督が語る。

「(J1で戦った)2年前に比べ、矛(ほこ)と盾がしっかり出せるようになった。ただ前に速いとか、勢いがあるだけでなく、相手の時間帯になったときには盾を使うことが、昨年から少しずつできるようになってきた」

 この試合、湘南は川崎の巧みなパスワークに後手を踏み、どうにかボールを奪っても攻撃に転じることができない。そんな自陣で耐えるだけの時間が少なくなかった。

 しかし、「相手のリズムになったときも、ラインがズルズル下がらず、コンパクトに守備ができた」と語るキャプテンのFW菊地俊介は、こう続ける。

「内容がよくても結果が出ないのがJ1だが、(J1で戦っていた)2015、2016年のときよりも、結果にこだわっている自分たちがいる」

 その結果が、川崎に先制を許しながらも、同点に追いついての1-1の引き分けである。



同点ゴールを決めた新人の松田天馬。photo by Sano Miki

 貴重な同点ゴールを決めたルーキーのFW松田天馬(鹿屋体育大→)も、自身のプロ入り初ゴールについては「あまり実感がない」と初々しさを漂わせながらも、「勝ち点3を獲りにいったので、勝ち点1では満足できない。次は勝ち点3を獲りたい」とキッパリ。昨季J1王者相手の善戦にも、納得の様子は見せなかった。

 川崎戦を従来の湘南のイメージに照らせば、必ずしも”らしさ”が存分に発揮された試合ではなかった。だが、言い換えれば、それは湘南がただ勢いだけに頼るチームではなくなったことの証明でもある。

 菊地は「チャンピオンチーム相手でも勝ち点3を獲れるチャンスはあった。アウェーで勝ち点1は悪くないが、悔しさはある」と語りつつ、こうつないだ。

「自分たちのよさを出せれば、いい戦いができると思っていた。内容のあるゲームだった」

 J1復帰後の2試合は1勝1分け。新たな挑戦を始めた湘南が、上々のスタートを切った。