今シーズン、横浜F・マリノスは、アンジェ・ポステコグルー前オーストラリア代表監督を新監督に招聘。受けて立つリアクションサッカーから、攻めて勝つアクションサッカーに大きく舵を切った。ボールポゼッションで相手を圧倒し、多くのチャンスを作っ…
今シーズン、横浜F・マリノスは、アンジェ・ポステコグルー前オーストラリア代表監督を新監督に招聘。受けて立つリアクションサッカーから、攻めて勝つアクションサッカーに大きく舵を切った。ボールポゼッションで相手を圧倒し、多くのチャンスを作ってKOする。刺激的な変化だ。
「昨シーズンまでのマリノスと比べて、ここまで変わっているとは……。選手の意識が確実に変わっていた。ポゼッションのところでは、GKのところからつなげるのは大きい」
この日、対戦した柏レイソルのMF大谷秀和は敵をこう評価している。
横浜FMはボールを持てるチームになった。変化はカタルシスを生み出しつつある。それは対戦相手も認めるほどだ。では、横浜FMはこの”革命”を成功させられるのか?
新生横浜F・マリノスの攻撃のカギを握る遠藤渓太
3月2日、三協フロンテア柏スタジアム。開幕戦でセレッソ大阪と引き分けた横浜FMは、柏の本拠地に乗り込んでいる。
「ユニークな戦い方に映るかもしれないが、これは自分のメソッドで、信念。このやり方を20年間の監督生活でやってきた。今はそれを落とし込んでいるところ」(横浜FM・ポステコグルー監督)
ポステコグルー監督の号令のもと、横浜は徹底的に後ろからボールをつないでいる。昨シーズンまでのように安全に長いボールを蹴り、相手が攻めかけたところを跳ね返してカウンター、という特色は消えていた。GKも含め、とにかくボールを支配し、イニシアチブを握る。
システムは4-1-4-1とも4-3-3とも言えるが、アンカーを置いている点が特徴だろう。ただ、これはあくまで基本陣形で、攻めに入るとき(ボールを持ったとき)には、両サイドバックがMFのラインまで上がり、インサイドに寄る。2-3-4-1にも見える布陣で、後ろは2バックが幅を大きくとり、苦しくなったらGKも使ってボールを回し、極力、アンカーはバックラインに落ちないようにする。
この戦い方は、ウナイ・エメリ(現パリ・サンジェルマン監督)が発案したと言われるプレス回避方法で、センターバックをゴールから離すことで相手のプレスも引き延ばす。万が一、もつれてボールを奪われそうになっても、ゴールから遠いぶん、若干の猶予がある。なにより、サイドバックが前にポジションをとって中盤に人を増やすことで、ポゼッション力を上げる狙いだ。
一方の柏はこの日、4-3-1-2のような形で中盤の中央に人を増やし、このポゼッションに対抗した。だがむしろ、インサイドに入る横浜FMのサイドバックに(スペースの)ギャップを使われることになった。そこでボールを前から奪おうとするも、センターバックに蓋をした途端、GKを使われ、プレスを回避されてまたつながれてしまう。
「後ろからのビルドアップは問題なくできていた。プレッシャーも感じなかった」(横浜FM・GK飯倉大樹)
前半、横浜FMのポゼッションは65%。サイドを起点に攻め立てた。とりわけ、ユン・イルロク、山中亮輔が組んだ左サイドは圧力があった。
ところが、前半40分を過ぎたあたりで、目に見えて”失速”する。横浜FMはミスから後手に回ることが多くなった。そして後半に入った49分、プレー強度を上げた柏の伊東純也に、山中、イルロクがたて続けボールを奪い返され、小泉慶の侵入を防ぎきれずに先制点を奪われた。
「(後半は)自分たちがトーンダウンし、体力の問題もあった」(横浜FM・DF松原健)
横浜FMは攻めることに頭と脚を使っている。だが、わずかだが動きが落ち、判断が遅れ、技術的ミスがカウンターの呼び水となった。能動的サッカーをするチームの難しさが出た。75分にもミロシュ・デゲネクが伊東にパスをカットされ、そのままゴール前に入られて、最後は大谷のシュートがオウンゴールになった。
横浜FMはその後、交代カードを切ったが、精彩を欠き、2-0で敗れた。
ポゼッションで相手を圧倒するには、高い得点力が条件になる。例えば欧州を席巻するマンチェスター・シティは、レロイ・ザネ、ラヒーム・スターリングという、個人でも集団でも相手を切り崩し、ゴールまで行ける絶対的サイドアタッカーを擁する。両脇から万力で押しつぶせるような選手が必要なのだ。そしてその駒がない場合、連係で完全にサイドを崩し、中での選択肢を増やす必要がある。
その点、横浜FMには崩しきれるアタッカーはいなかった。実際、主導権を握っていた前半も、決定機と言えるシーンはないに等しい。クロスは質が高かったが、中の選択肢はウーゴ・ヴィエイラにピンポイントで合わせるしかなかったのだ。
それでも横浜FMはボールを保持し、勇敢に攻めていた。その気概は選手の成長を促すだろう。失敗を恐れなくていいからだ。事実、右サイドに入った遠藤渓太は、昨シーズンまでDFと対峙すると弱気が見えたが、柏戦では気後れしておらず、目覚ましい進化を遂げつつある。
「今は新しいチャレンジをしているところ。結果にこだわらないといけないが、負けて学ぶところもある。焦らずに……」(横浜FM・MF天野純)
待っているのは”吉”か”凶”か――。F・マリノスは帆を高く上げ、船出した。