ともに91年生まれ、日本女子のトップで長く活躍してきたのが奈良くるみと土居美咲だ。 07年のウィンブルドンジュニアでダブルスを組んで準優勝するなど、ジュニア時代はいつも一緒に遠征に出た。下の名前で呼び合う二人は、プロでも競うように成績を伸…

 ともに91年生まれ、日本女子のトップで長く活躍してきたのが奈良くるみと土居美咲だ。

 07年のウィンブルドンジュニアでダブルスを組んで準優勝するなど、ジュニア時代はいつも一緒に遠征に出た。下の名前で呼び合う二人は、プロでも競うように成績を伸ばした。10年の全仏でそろって四大大会初出場を果たした。翌11年のウィンブルドンで土居が四大大会初の3回戦に進出すると、奈良は13年の全米で3回戦に勝ち進んだ。ツアー初優勝は奈良が14年のリオデジャネイロ、土居は15年のルクセンブルクだった。相手の活躍を励みに、それを上回る好成績を出すという、好敵手同士だった。

 ともにプロ10年目のシーズンを迎えた。長くやっていれば成績にはアップダウンもあるが、二人のテニスに臨むマインドセット(基本姿勢)はどんどん研ぎ澄まされて、ブレがなくなってきた。

 奈良がいつも口にするのは「やらなきゃいけないことをやる」。勝った負けたより、こっちが大切、すべての基準、そう考えているようにも見える。

 昨年の全米では第8シードのスベトラーナ・クズネツォワを破った。トップ10選手からの初勝利だ。奈良は「自分がやらなきゃいけないプレーをコートで出そうと。それが落ち着いてできた」と会心の勝利を振り返った。3回戦でルーシー・サファロバに完敗したが、「やらなきゃいけないことをやろうとしたし、それができた部分が大半で、いいプレーができた。今の自分でやれることはやった」と充実感が見てとれた。

 この全米で、奈良はこんな話をしている。

「自分よりも才能があって、センスもある、パワーもある選手にうまくやっていくのも楽しみの一つです」

 自分にないものを求めても仕方ない、できることの中から最善の一手を探し、そこから勝機を探る--10年選手となった奈良の、あっぱれな勝負哲学だ。

 土居の場合は「積み重ね」とか「やり続ける」といった言葉がそれに当てはまる。

 順風ばかりではない。何度も苦い敗戦を味わった。14年全米では元世界ランキング1位のビクトリア・アザレンカから第1セットを奪いながら、逆転負け。15年全仏ではこれも元1位のアナ・イバノビッチに惜敗した。15年全米では当時12位のベリンダ・ベンチッチに、マッチポイントを3本逃して敗れた。真っ赤な目で会見場にやってきた土居は、動揺を抑えてこう話した。「手応えはかなりある。継続して何回も何回もチャレンジしたい」。

 16年の全豪1回戦でも、マッチポイントを逃してアンジェリック・ケルバーに敗れた。勢いを得たケルバーはこの大会で四大大会初優勝を飾る。土居は「トップに行くまでには、こういう競った試合が何回かくると思う。その積み重ねだと思う」と惜敗を前向きにとらえた。

"あと少し"が取れるか取れないかが上位選手との差、それを埋めるのは積み重ねしかないと、悔しさとともに心に刻んできたのだろう。昨年の全米が1回戦敗退に終わると、こう話した。

「なかなか勝てていないので、少なからず迷いもあります。やり続けるしかないので、腐らず頑張ります」

 昨年から勝ち星が増えず、土居のランキングは四大大会本戦出場の目安となる100位を割り込んだ。しかし、苦境を越えるには、やり続けるしかないと分かっているのだ。

 勝利の歓喜と惜敗の口惜しさ、完敗の不甲斐なさから、選手は自分なりの哲学を身につける。それが奈良の「やらなきゃいけないことをやる」であり、土居の「積み重ね」だ。

 奈良も土居と同じく、18年のシーズンはランキング100位以下からのスタートとなっている。二人は知っているはずだ。再浮上の秘策はどこにもない、と。自分の哲学で、一戦一戦、挑む以外にないのだと。(秋山英宏)

※写真は左から土居美咲(Photo by Al Bello/Getty Images)、奈良くるみ(Photo by Robert Cianflone/Getty Images)