【鈴木隆行が語るW杯とこの先 後編】(前編から読む) 2015年に現役引退を発表し、指導者としての道を進み始めた鈴木隆行。その名を聞いて思い出すのは、やはり2002年日韓ワールドカップ(W杯)でのゴールだろう。グループリーグ初戦のベルギ…

【鈴木隆行が語るW杯とこの先 後編】

(前編から読む)

 2015年に現役引退を発表し、指導者としての道を進み始めた鈴木隆行。その名を聞いて思い出すのは、やはり2002年日韓ワールドカップ(W杯)でのゴールだろう。グループリーグ初戦のベルギー戦で、0-1とリードされて迎えた後半14分、小野伸二からの少し長くなったパスをつま先に当ててゴールに押し込んだ。

 日本代表のW杯初の勝ち点獲得、ベスト16進出の足がかりを作った鈴木が見た、W杯の景色とは。また、今年6月にロシアW杯を控えた日本代表について、率直な意見を語ってもらった。


日韓W杯のベルギー戦で値千金のゴールを決めた鈴木

 photo by JFA/AFLO

――今年はロシアでW杯が行なわれます。鈴木さんといえば、2002年の日韓W杯での活躍が印象に残っているファンも多いと思います。

「それは、今でもよく声をかけていただきます。ただ、僕は過去に一切興味がない人間ですから。自分のプレーや、過去のことを映像で見ることがほとんどないんです。それに、当時はまったく余裕がなくて、ガムシャラにやってたので記憶が抜けているんです(笑)」

――当時の代表チームの印象は?

「すごく勝ちに貪欲なチームでしたね。それが選手たちに責任感を持たせることになった。チームとして絶対にグループリーグを突破するという目標があったので、僕自身も『とにかく責任を果たさないと』という思いしかなくて。だから、あの大会はサッカーを楽しめなかったというのもあります。

 大会が終わった瞬間、少しホッとしたのを覚えてますよ。チームの仲も良かったですが、ただの”仲良しチーム”というわけでなく、必要なことは意見もぶつけ合える厳しさもあった。僕はゴンさん(中山雅史)によく声をかけてもらって、有り難かったですね」


日本代表として国際Aマッチに55試合出場し、11得点を記録した鈴木

 photo by Kurita Shimei

――初戦のベルギー戦での”つま先ゴール”で一躍有名になりました。

「あのゴールを含め、日韓大会で僕のサッカー観は変わりましたね。具体的に世界との距離を掴めて、本当にすべてを変えないと上を目指せないと気づいたんです。『このままじゃダメだ』と。当時はフィジカルを評価されて起用されていた部分もありましたが、本当に当たりの強い環境でやれていなかった。

『この差を埋めるのは、日々の練習や考え方から変えていかないと一生埋まらない』と、気持ちの面も含めて、自分の課題が明らかになりました。もともとブラジルのクラブでもプレーしていたくらいですから、海外志向は強いほうだったんですけど、あの大会を経て、何が何でも海外に行かないと成長はない、と決意を固めたんです」

――生活面でも変化がありましたか?

「街を歩いていても、声をかけられる機会は圧倒的に増えましたよ。でも僕は、もう次の舞台のことしか考えてなかった。だから、ゲンク(ベルギー)からオファーをもらった際は、迷いはなかったです」

――現在の日本代表やヨーロッパのサッカーはご覧になっていますか?

「見てますよ。指導者の勉強の意味もありますしね」

――現在の代表チームに関して感じるところは?

「今の代表に関しては批判的な意見も聞きますが、現場はすごく努力を重ねてきている。ここまで急激にレベルが上がった国は、世界的に見ても珍しいと思うレベルです。『俺たちの時代から、すごくレベルが上がったな』と。

 昔はよくも悪くも適当な部分がありましたからね。それに、今は強豪国と戦えるベースが少しずつできていると思うんです。個々の能力に関してもそう。例えば、昔はまぐれでもブラジルと拮抗した試合をするなんて不可能だったと思うんです。それが今では、強豪国とガチンコで戦って、勝ってもおかしくないところまで成長を遂げたように感じています」

――ずばり、ロシアW杯の展望を聞かせてください。

「グループリーグで3勝する可能性もあれば、3敗の可能性もある。それだけ実力的には拮抗していると捉えています。日本のレベルも急速に上がりましたが、他の国のレベルも上がっている。これが現実だと思いますね。勢いに乗れればグループリーグを突破できると思いますが、それだけに初戦の入り方がカギになります」

――今大会で注目しているストライカーはいますか?

「ポーランドの(ロベルト・)レバンドフスキですね。突破もできて、ポストプレー、決定力、サイドに流れる動きもある。本当にすべてを兼ね備えたプレーヤーですし、総合力の高さは現役選手の中でも屈指でしょう。FWとしてプレーしていた身としては、『羨ましい』と思うくらい。日本は彼がいるポーランドと(グループリーグの3戦目で)対戦しますが、果たして彼をチームで止めることができるのか。それも含めて、レバンドフスキには注目しています」

――日本代表でサプライズを起こす可能性がある選手を教えてください。

「ポルティモネンセSCの中島翔哉選手ですね。ロシア大会でもジョーカーになり得ると見ています。最も注目しているポイントは突破力ですが、シュートの技術も高い。ポルトガルリーグで結果を残していますし、面白い存在です。あのプレーのキレは、海外の強豪国相手でも個人で局面を打開できるレベルかと」

――FWの選手では?

「やはり岡崎慎司には期待してしまいます。プレミアリーグの舞台で結果を出していることが一番大きい。それに、あの泥臭いプレーは相手が嫌がることは間違いない。自分も『泥臭さ』を信条にしていましたが、彼は僕よりもはるかに高い得点能力がある。経験値も高いので、ロシアで観たい選手です」

――ロシアW杯以降も、日本代表がさらに上を目指すために必要なことは?

「経験値だと思います。努力はしていますが、日本のサッカーの歴史は浅く、ヨーロッパや南米のトップとは差がある。今の若い選手たちの技術レベルは非常に上がっていますから、その差は縮まってきたと思うんですけどね。

 だから、代表クラスの選手や若手で力がある選手はどんどん海外リーグに挑戦してほしい。うまくいかなくても、長い目で見ればその経験は必ず選手としてプラスになります。若いときに世界のスタンダードを肌で感じること。これがないと、なかなか世界と戦うメンタルや意識の部分は埋まらない。技術や戦術の部分ではなく、そういった意識の部分を若い時に変化させていくことが、強化に繋がるのではないかと思っています」