元ラガーマンで熱烈なラグビーファンの俳優・高橋克典さん。ラグビーに学んだこと、チケットも発売開始となったラグビーワールドカップ2019へ期待することを、熱気に溢れる言葉で語ってくれました。この大会を見れば生きることの深み、そして刺激的な「世…

元ラガーマンで熱烈なラグビーファンの俳優・高橋克典さん。ラグビーに学んだこと、チケットも発売開始となったラグビーワールドカップ2019へ期待することを、熱気に溢れる言葉で語ってくれました。この大会を見れば生きることの深み、そして刺激的な「世界の戦い」を体験できると話す、高橋さんの真意とは?

——ラグビー経験者として、かねてより熱心なファンとして知られている高橋さんですが、ラグビーとの出会いはいつだったのでしょうか。

高橋:小学生のときでした。在学していた青山学院初等部には、「コアラーズ」というラグビー部(編註:1953年創設、日本で一番古い少年ラグビーチーム)があったのですが、彼らが楕円形のボールを追いかけているのを見て、初めてラグビーというものを知ったんですね。僕自身は文化系の家庭で育っていて音楽が好きだったもので、その時は部員になりませんでしたが、たしか体育の授業で、初めてボールを触らせてもらったのだと思います。 

それから中等部に上がったとき、エネルギーがあり余って、なんだか暴れたくなってきまして(笑)。そのエネルギーを燃焼させようと、ラグビー部に入りました。

——実際に自分の体で体験したラグビーは、どのようなものでしたか。

高橋:相手とぶつかるコンタクトの瞬間にしても、キックされたボールに飛び込むセービングひとつにしても、体全体で、まさに身を挺してボールを守るわけですよね。そして、そのボールを仲間に渡して、つないでいく。 

陸上競技の駅伝でも「襷(たすき)をつなぐ」ことが注目されていますが、ラグビーも、ボール自体が“意思の系統”です。「あそこまでいくんだ!」という気概と、チームワーク。怪我をした恐怖をぬぐい切れずに高校途中でやめてしまったことは今でも悔やまれるのですが、それでも“仲間”というものをとことん教えられた4年間でした。ポジションは、ウィングとフルバックを務めていましたね。

——ウィングもフルバックもスピードが求められるポジションですよね。

高橋:足が速かったので、相手と勝負して、そして置き去りにしていくのが楽しかったですね。独走態勢をつくって圧倒的なまでに相手を抜いていく、“完璧な抜き方”というのがたまにできるんです。それは本当に楽しかった。

——ラグビーに打ち込んだことで、自分自身が変わっていったというご発言も以前にありました。

高橋:中学生なりに、相手との非常に激しいフルコンタクト(ぶつかり合い)があるわけですよね。試合中でも練習中でも、常に自分の限界に挑戦していく。毎日筋肉痛はひどいんですけれどね(笑)。でもやはり今考えると、毎回「燃焼しきる」気持ちよさはなかなか他ではないな、と感じています。強いて言えばボクシングと撮影現場くらいですかね。 

あと、練習をしていていつも思っていたのは、みんな常に高みを目指している、ということでした。いつだって高みを、そして勝利を目指している。そうした仲間との日々のなかで、なんといったらいいんでしょうか——自分が“浄化”されていく感覚がありましたね。その後、無念ながら部を辞めてしまうわけですが、だからこそ逆にラグビーへの思いは残りました。ラグビーをしている人はどんな年代であれ、憧れというか、すごい人だと感じます。

——俳優としてのキャリアに対して、ラグビー経験が活きたことはありますか。

高橋:我々の世界というのは、ひとつの作品に多くの人間がかかわっていくわけですが、「みんなでひとつになってつくりあげていく」というラグビーの精神が、完全に根付いています。もう、どうしたってそうなっている自分がいる(笑)。他人は関係ない、スタンドプレーだっていいじゃないかということではなく、やはり“チーム”になろうとするんです。いい作品にしたい、みんなで感動を分かち合いたいと常に思っているところがありますね。

——オーストラリアでラグビーワールドカップ2003が開催された折には、テレビの中継番組でMCを務められましたね。

高橋:非常に光栄でした。僕がプレーしていたころに大スターだった、平尾誠二さんと大八木淳史さんのおふたりとご一緒させていただいて。緊張もしましたが、毎日毎日、ラグビーのトップ中のトップの選手たちが集うラグビーワールドカップの世界に浸っていられるのが嬉しかったですね。オープニングセレモニーのときに現地にもいったのですが、世界の選手たちの体の大きさには圧倒されました! 

平尾さんは、ラガーマンの憧れを形にした、象徴のような人でしたね。本当にかっこよかったし、ご自身の軸がハッキリしていて、ひとつひとつの言葉にブレがない方でした。ご一緒できたことは、大切な思い出です。

——高橋さんにとって、忘れられない大会だったのですね。そんなラグビーワールドカップの日本開催が2019年9月20日に迫り、このたびチケットの販売も開始されました。あと約1年半と、期待も高まってきていますが、高橋さんはいかがですか。

高橋:ヨーロッパ発祥のラグビー、その世界王者が決まるラグビーワールドカップが、アジアで初めて開催され、しかも日本でそれが見られるわけです。これは本当に、一生に一度あるかないかの出来事。今まで他のスポーツは、オリンピックなども含めて日本で世界のトップレベルの選手たちを目の当たりにする機会は多かったわけですが、ラグビーの“世界レベル”を見ることができる、またとないチャンスなんです。 

それは決して、ラグビーファンだけにとって「貴重」というだけにとどまらず、どんな人であっても、「世界を知る」ことの豊かさってあると思うんです。世界のトップの“真の姿”を見て、気概とプライドを知る。各国の代表選手たちはどんな存在感を示しながらそこにいるのか、それに対してどうやって戦っていくのか--刺激を受けることはたくさんある。そして、お互いの異なる良さもきっと見えてくるはずです。

——なるほど。普段からのラグビーファンでなくても、いろいろな楽しみ方ができそうですね。

高橋:そうですね。海外発祥のスポーツではありますが、日本でいう武道というか、“道”に近いスポーツだなとも思っています。先ほど駅伝に触れましたが、皆さんマラソンも好きですよね。あれもどこか“道”っぽいですし、ラグビーにもそういうところがある。 

選手たちが無心になっているんですよね。そうしたなかで、みんなでひとつになって、がむしゃらに前に向かっていく。小手先のテクニックだけではどうにもならない。そうした境地を感じさせてくれる、素晴らしいスポーツだと思うんです。

——お話を伺っていると、高橋さんご自身が、ラグビーに心底励まされている様子が伝わってきます。

高橋:選手たちに同調すると、パワーをもらえるんです。一言で、「やっぱりそうだった!」という思いなんですね。どういうことかというと、大人になると誰もが清濁併せ吞むこと、そうやって生きていくことも覚えていきます。でも、あのラグビーワールドカップ2015イングランド大会、日本代表対南アフリカ代表の最後のトライを見て、みんな思い出したことがあると思うんです。挑戦を避け、安全策をとるのではなく、真っ向勝負だという、あの気持ち良さ——。

——ラグビーを見ることは、どこか人生哲学を考えることにも似ていますね。

高橋:ルールなんて知らなくてもいいと思います。何も知らなくても、自分を重ね合わせてみることができる、そして何か大事なことを感じることができるスポーツだと思う。試合を見ながら一緒に時間を過ごすことで、世界レベルの選手たちが発する“力”が、きっと自分のなかにも湧いてくるのでは。 

文化系の方がラグビーをどう見るのかわからないのですが、仮にテレビで観戦するとしても、音を消して音楽などをかけて見てみると、泣けてくるかもしれません。がむしゃらに前に進む選手たちを見て、「人間って何なんだろう」と、深く感じ入るものがあるはず。ときに傷つき、ときに傷つけられながらも、前を向いて進みつづける——それは生きること、人生そのものだと思います。ラグビーはただのゲームを越えた、本質的な魅力があるスポーツだと思います。

——その意味では、全国12都市・12会場で、まさに“世界レベル”の試合を目の前で観戦できる今大会は、とても特別なものですよね。

高橋:相撲の力士のような大きな体躯のラグビー選手たち。しかし一瞬の勝負ではなく、前後半80分を戦い抜く。生で見ると、巨大なフォワード同士がぶつかり合う「ドンッ!」「ゴツン!」といった音も聞こえてきます。ラグビーは15人で戦いますが、僕たちはもう1人の選手として、感情移入して見ることができる。そうやって一緒になって戦えたらいいですね。 

世界トップの選手たちが必死にうごめき、ぶつかりあう姿は人間の原始的な姿のような気もするし、荒々しくありながら文学的なものもあると思う。その美しい姿を、2019年の試合会場でぜひ一度、生で見て、感じていただけたらと思います。

<プロフィール> 
高橋 克典
1964年神奈川県生まれ。
青山学院中等部時代にラグビー部へ入部。ラグビーワールドカップ2003オーストラリア大会ではテレビ中継番組のキャスターに。
1993年に歌手としてデビューした後、俳優としても本格的にデビュー。
人気テレビドラマ『サラリーマン金太郎』『特命係長 只野仁』ほか、映画・CMなどで幅広く活躍している。
現在、BSJAPAN「ワタシが日本に住む理由」でMCを、bayfm「GROOVIN' ON THE ROAD」でDJを務める。