レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2018年シーズンが2月2日、UAE・アブダビで開幕した。2017年の王者として新シーズンを迎える室屋義秀「やっぱここに来て、レーストラックを飛び始めると、(新しいシーズンが)始まっ…

 レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2018年シーズンが2月2日、UAE・アブダビで開幕した。



2017年の王者として新シーズンを迎える室屋義秀

「やっぱここに来て、レーストラックを飛び始めると、(新しいシーズンが)始まったなっていう感じがする」

 室屋義秀がニッコリと笑って話すとおり、シーズン最初のレースがアブダビで行なわれるのは毎年恒例。今季でエアレース参戦7年目となる室屋には、もはや見慣れた景色のなかでのシーズン開幕だろう。

 とはいえ、”おなじみの開幕戦”も、今季に関していえば、室屋が過去6度とは少々異なる心境で迎えるレースになるのかもしれない。それは言うまでもなく、室屋がディフェンディングチャンピオンとして初めて迎えるシーズンとなるからである。

「去年、年間総合優勝したことで周囲の反応は非常に大きく、セレブレーション(表彰式や祝賀会)もかなりのボリュームがあったので、忙しかった」

 そう振り返る室屋は、これまでで最も慌ただしいシーズンオフを過ごしたに違いない。と同時に多忙な日々は、自身が成し遂げたことの重大さをあらためて知るきっかけにもなったのではないか。

 例えば、オリンピックの金メダリストがそうであるように、一度頂点に立った者は常に勝つことを期待される。本人が望むと望まざるとにかかわらず、周囲が室屋を見る目も間違いなく変わる。表彰台に立ったからといって、おそらく大健闘と喜んではもらえまい。室屋も「周囲の見方はそうだろうと思う。期待が大きくなる分、例えば3位になってもガッカリする声が出てくるのかもしれない」と語り、自らが身を置く環境がどんなものかを理解している。

 でも、と続けて、室屋が言葉をつなぐ。

「それを気にしても速くなるわけじゃないので。こっちは別に気にしないというか、こっちはこっちのペースでレースの準備をするしかないし、基本は去年のペースを踏襲し、同じテンポで同じようにやっていくしかないと思っている」

 室屋は昨季、年間総合優勝を果たしたとあって、メディアでの露出も飛躍的に増えた。”時の人”に関心を示す、新たなファンも決して少なくはないだろう。

 そんな状況を考えれば、室屋の反応は少々つれないようにも思える。だが、これこそが室屋のアスリートとしてのスタンスなのだ。自分の手ではどうすることもできない外的要因は気にせず、あくまでも自分ができることを、やるべきことをやるだけ。言い換えれば、それを貫いてきたからこそ、世界の頂点に立てたのである。室屋が語る。

「僅差の勝負なので、去年は勝てたけど、今年はどうなるかわからない。去年のトロフィーはもう脇に置いておいて、今年は今年でまたイチからっていう感じだと思う。チームは熟成されてきている手ごたえはあるが、それで優勝できるかっていうと、そんなに甘くはないから。だから、1本ずつのフライトを大切にやっていくしかない。今年もギリギリの戦いになると思う」

 世界チャンピオンでありながら、控えめな発言を続ける室屋だが、しかし、だからといって自信がないわけではない。だからこそ、「今年はもうちょっと楽に勝ちたい(年間総合優勝したい)」と、単に連覇を目標に掲げるだけでなく、”勝ち方”にまで言及する。

 昨季の室屋は、全8戦のうち半分の4戦を制した。本来なら、ぶっちぎりでポイントランキングのトップになっていいはずの驚異的な勝率である。
 
 ところが実際は、年間2位のマルティン・ソンカとの差はわずか4ポイントしかなかった。「普通なら4勝もすればもっと楽勝のはずなのに、最後までもつれてしまった」と室屋。最終戦のソンカの結果次第では、室屋は4勝してもなお、年間総合優勝を逃していた可能性もあったほどだ。

 室屋が「見ている人にはドラマチックな展開でおもしろかったと思うけど」と苦笑しながら、「コンスタントに飛ぶこと」を連覇のカギに挙げる理由はそこにある。

「2勝くらいして優勝争いに絡み続け、3勝目を挙げたらそこで優勝が決まるような展開になるのが、戦い方としては理想でしょう」

 シーズンを通じて、いかに浮き沈みなく、コンスタントに上位に進出するか。その成否が連覇のカギを握ると考えている室屋は、今季のレッドブル・エアレースには注意しなければいけない重要なポイントがあると言う。

 そのポイントとは、今季がとりわけ「長いシーズン」だということである。

 今季のレッドブル・エアレースは昨季に比べ、およそ1週間早く開幕し、およそ1カ月遅く最終戦を迎える(今季最終戦は11月開催予定だが、日にちは未定)。2年前と比較すれば、開幕戦の開催は1カ月も早い。

 つまり、それだけ1シーズンの期間が長くなるということである。パイロットであると同時に、チームリーダーとしての役割も担う室屋は、少しばかり表情を曇らせて語る。

「(昨季より開幕が早く)オフが短くなるとはいえ、開幕日さえわかっていれば、それに合わせて準備するので問題はない。でも、シーズンが長くなると、チーム全体はけっこう疲れてくる。レースの間は休みがあるとはいっても・・・・・、今年はそのへんが課題になってくると思う」

 また、全8戦というレース数は変わらないにもかかわらず、シーズンが長くなるということは、レース間隔が長くなることを意味する。室屋曰く、「シーズン中でも、それだけ機体改良の時間ができるということ」になる。

「むしろシーズンオフの時間より、シーズン中(のレース間隔)のほうが長くなるので、こうなってくると、そこで何ができるかのほうが大事になる」

 それまで低迷していた機体が、あるタイミングを境に一気に改良される。そんなことも起こりえるのが今季のレッドブル・エアレースなのである。パイロットのみならず、チーム全体の総合力が、例年以上に試されるシーズンになると言えるのかもしれない。

 今季初戦の予選は3位。連覇を狙う室屋の、そしてチーム・ファルケンの、10カ月近くに及ぶ長いシーズンの幕が切って落とされた。