MotoGPの一年は、マレーシア・セパン・サーキットのプレシーズンテストから始まる。毎年、新年恒例のこの3日間のテストは、選手たちにとって、長かった冬休み中のテスト禁止期間が明けてバイクにまたがることのできる最初の機会だ。セパンテスト…

 MotoGPの一年は、マレーシア・セパン・サーキットのプレシーズンテストから始まる。毎年、新年恒例のこの3日間のテストは、選手たちにとって、長かった冬休み中のテスト禁止期間が明けてバイクにまたがることのできる最初の機会だ。



セパンテストを精力的にこなす中上貴晶

 選手たちの武器であるバイクを作る各メーカーにとっても、プレシーズンテストは長いシーズンを戦っていくマシンの方向性を定めるための重要な日程だ。いずれの陣営も、精力的な走り込みとテストメニューの消化を通じて選手からのフィードバックや走行データの収集に努め、最終的な仕様決めの絞り込みに慌ただしい3日間を過ごす。

 今回のセパンテストでは、2017年にライダー、マニュファクチュアラー、チームの三冠を達成したホンダが、チャンピオンのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)やチームメイトのダニ・ペドロサ、カル・クラッチロー(LCR Honda Castrol)のファクトリー選手3名それぞれのピットに、エンジンの異なるバイクを3台ずつ並べた。3選手とも順調にテスト項目を消化し、今季の方向性の評価についても見解が一致したようだ。

 昨年、車体開発でやや迷走してシーズン中盤以降に苦戦を強いられたヤマハは、モビスター・ヤマハ MotoGPのバレンティーノ・ロッシ、マーベリック・ビニャーレス両選手が捲土重来(けんどちょうらい)に向けた2018年のマシンで、テスト2日目にビニャーレスがトップタイム、ロッシが僅差の2番手を記録した。だが、3日目にはロッシ8番手、ビニャーレス18番手に沈んだ。

 最終日の走行を終えたロッシは、「予定していたプログラムをしっかりと消化できて、ラップタイムのペースもまずまず。タイヤの劣化も去年のようなひどい状態ではなかった」と手応えを強調しながらも、3日目にタイムを上げられなかったことについては、「(11月最終戦終了後の)バレンシアテストと似た状況だった。自分もマーベリックも上々の走りをできた次の日に、同じバイク、同じタイヤ、同じ温度条件で、前日よりも0.3~0.4秒ほど遅かった。そんなふうになってしまう原因をしっかり究明したい」と、現状ではやや課題含みであることも匂わせた。

 そして、この3日間のテストを終えて、自信を大きく取り戻しつつあるように見えたのが、ドゥカティ・チームのホルヘ・ロレンソだ。

 昨年はチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾがマルケスを相手に最終戦までチャンピオン争いを繰り広げ、おおいにシーズンを盛り上げた。一方、ロレンソはヤマハファクトリーチームから移籍してきた初年度で、何度か表彰台には登壇したものの、一年を通じてマシンの理解やライディングスタイルの順応などに費やすシーズンだった。

 今年は初日の走り出しから3番手タイムと好調な滑り出しで、2日目にはドゥカティ勢全ライダーの最上位を記録。この日トップタイムのビニャーレスから0.143秒差という充実したセッションになった。

 2日目の走りを終えたロレンソに、「ドゥカティ最速タイムを記録し、本来の力強さを発揮し始めたのでは?」と訊ねてみた。

 するとロレンソは、ニヤリ、と笑みを見せて、「僕は誰よりも速く走りたいんだよ。MotoGPでもっとも速いライダーでありたいんだ」と、落ち着いた口調で述べた。

「僕は今まで5回の世界チャンピオンになって、MotoGPでも3回タイトルを獲っている。目標はもう一度チャンピオンになることなので、ドゥカティ最速だからといって満足できるわけじゃない。昨日も今日も、ラップタイムにはあまりこだわらなかったんだ。明日は一発タイムを狙いにいくチャンスもあると思う。

 でも、明日最速だからといっても、それでいいわけじゃない。重要なのは、あくまでもシーズン開幕後にいつも安定して速さを発揮することだから。その意味では、ここまではいい調子でテストを進めているかな」

 その言葉どおり、テスト最終日にはサーキット非公式ベストタイム(マルク・マルケス/1分58秒867/2015年)を上回る1分58秒830のトップタイムを記録し、3日間のテストを締めくくった。

「いいラップタイムは、いいバイクであることの帰結だよ。今年のバイクは、いろんな部分が去年よりもよくなってきている」と話し、彼の武器である高い旋回性を発揮しやすくなってきたと説明した。

 ところで、今シーズンのMotoGPは、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)が4年ぶりの日本人選手として最高峰クラスに参戦することでも話題のシーズンだ。中上は初日に12番手タイムを記録し、日々着実にテストメニューを進めていった。3日目には決勝レースを想定し、灼熱の条件下でMotoGPマシンの長いロングランも初めて実施した。

「2分00秒台後半から01秒台前半で、安定してずっと走れました。肉体的にはやや厳しかったので、もっと余裕を持って走れるように今後もトレーニングにいっそう励みます。この3日間でさらにバイクに慣れてきた感覚はありますが、まだ70パーセントや80パーセントにも達していないので、これからもこの調子でタイムを詰めていきます」

 現在の自分のレベルを確認した中上は、充ち足りた笑顔と口調でこれから取り組むべき課題を述べた。

 たった一度のテスト、しかもシーズン最初の3日間だけで一年の帰趨(きすう)を占うのはあまりに時期尚早ではある。とはいえ、これから始まる2018年シーズンに向けてどんどん高まっていく期待だけは、裏切られることがないだろう。

 次回のMotoGPクラスプレシーズンテストは、タイのチャーン・インターナショナル・サーキットで2月16日から18日の3日間にわたって行なわれる。