「まずまず、いい復帰が飾れたと思う」と穏やかに語った西岡良仁は、真夏のメルボルンで復活の第一歩をたしかに踏み出した。 西岡(ATPランキング168位、1月15日付け、以下同)は、全豪オープンテニスの1回戦で、第27シードのフィリップ・コ…

「まずまず、いい復帰が飾れたと思う」と穏やかに語った西岡良仁は、真夏のメルボルンで復活の第一歩をたしかに踏み出した。

 西岡(ATPランキング168位、1月15日付け、以下同)は、全豪オープンテニスの1回戦で、第27シードのフィリップ・コールシュライバー(29位、ドイツ)を、6-3、2-6、6-0、1-6、6-2で破り、ケガから復帰の公式戦2戦目でいきなり大きな仕事をやってのけた。

「今、実際どれぐらい自分ができるのだろう」と疑問を持っていた西岡だったが、強風が吹き荒れるなかで、できるだけ自分のミスを減らしつつ、試合巧者のコールシュライバーから55本のミスを引き出した。

「コートに立てるのが嬉しかった」という西岡にとって、何よりも自信につながる勝利となったが、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。



全豪1回戦でシード選手を破った西岡良仁

 西岡の左ひざのケガは、突発的なアクシデントだった。

 2017年3月下旬のマスターズ1000・マイアミ大会、ジャック・ソックとの2回戦はナイトセッションで行なわれていた。第1セット第5ゲームの最初のポイントで西岡がバックサイドへのボールを追いかけた時に、左足で音が鳴った。メディカルタイムアウトを取った後に、西岡はプレーを続行したが、雨によって第7ゲームで試合が中断。その直後に、西岡は棄権を申し出た。会見には自力で歩いてきて質問に応じ、日本で詳しい診断を行なうと話してマイアミを後にした。

 診断結果は、左ひざの前十字靭帯の単独断裂。西岡にとっては、上り調子の時に襲われたタイミングの悪すぎるケガだった。

 マイアミ大会直前のマスターズ1000・インディアンウェルズ大会で、西岡は快進撃を見せていた。厳しい予選を勝ち上がり、本戦3回戦ではトマーシュ・ベルディヒ(当時14位、チェコ)を破って、初のベスト16進出。次の4回戦では、スタン・ワウリンカ(当時3位、スイス)をあと一歩のところまで追い詰めながら、ファイナルセットのタイブレークの末惜敗した。

 グランドスラムに次ぐグレードのマスターズ1000大会で初のベスト16、ATPランキングも2017年3月20日付けで自己最高の58位を記録して、今でも西岡にとっては、この時のテニスが自分の中の一番いいイメージになっている。そんな時に起こったケガだった。

「ケガをしてそんなに落ち込むことはなかった」という西岡は、歩くことはできたが、再びプロテニスの試合ができる左ひざに戻すために、2017年4月4日に手術を行なった。術後は、JISS(国立スポーツ科学センター)で1日6時間におよぶ下半身のリハビリをした。

「本当にリハビリはつらかった。最初は歩く練習から始まって、力の入れ方を覚え、ジャンプしたり、少しずつ走ったりした。本当に少しずつ戻していくという状況でした」

 リハビリと並行して、上半身のフィジカルトレーニングも行なったという。

 リハビリが中盤に入り、少し動けるようになった時、他の選手が普通に練習しているのを見て、自分が思うように動けないことにショックを受けた。さらに、杉田祐一、添田豪やダニエル太郎ら日本男子選手の活躍を見ると、落ち着いていられなかった。

「もどかしい気持ちが、めっちゃ出てきた。悔しい気持ちになるから、テニスを見るのをやめるようにして、あんまり考えないようにした。とりあえず、ケガを治すことだけを意識するようにした」

 昨年11月に約8カ月ぶりにテニスをした際は、早稲田大学の学生を相手にポイント練習で圧倒されて、西岡は心の底から悔しがった。だが、その姿を見た高田充ナショナルコーチは、西岡のテニスを支えている”負けず嫌い”の気質がそのままであることに安心したのだった。

 西岡の”負けず嫌い”は、全豪2回戦でアンドレアス・セッピ(76位、イタリア)に1-6、3-6、4-6で負けた直後の会見でも早速見られた。

「正直、僕としては悔しいです。セッピ選手が強かったので、難しい部分はありました。全豪で相性のいいセッピ選手にくらいついていけなかったのがショックでした」

 だが、西岡の全豪はまだ終わらなかった。シングルス敗戦直後に、繰り上げ出場で、マートン・フチョビッチと組んだ男子ダブルスでも急きょプレーすることになり、1回戦で第6シードのブライアン兄弟と対戦した。「思った以上にできた」という西岡ペアは第1セットを奪う健闘を見せたものの、7-5、5-7、1-6で敗れている。

 負けたとはいえ、1日で単複合わせて6セットを戦い、左ひざも問題なかったことに、西岡の表情からは充実感がうかがえた。

 西岡は、自分の動きに関しては8~9割、ショットに関しては6~7割戻っていると感じている。ただし、フォアハンドストロークがしっかり振れていないことにはまだまだ納得がいかず、さらなる改善を期す。

「(シングルス)1回戦を勝てたことは嬉しいですし、勝った相手もシード選手でしたから。しかも5セットも戦えて、ひざが治ってきたという自信もあるし、喜びもある。(単複含めて)すごい上出来の全豪オープンで、まずまずいい復帰が飾れたと思う」

 今後、西岡はプロテクトランキング(公傷による特別ランキングで、ケガをした大会直後のランキング)66位を活用して、次はATPドバイ大会(2月26日~)、さらに3月のマスターズ1000の2大会に出場していく予定だ。

「このレベルに戻ってきたい」と意気込む22歳の西岡は、まずはトップ100復帰を目指し、世界の強豪と再び競い合えるポジションを取り戻すために戦う。そして、日本男子テニス界で錦織圭(24位)の次代を担う、若い選手の先頭に立つことが期待される。
 
 メルボルンで見せた西岡の勝利は、復活への序章であり、これからツアーレベルへ駆け上がっていくための起爆剤になるだろう。