男子シングルスで、ロジャー・フェデラー(スイス)が大会最多に並ぶ6度目の優勝を飾った。四大大会通算では、マーガレット・コートの24勝などに次いで、男女を通じて歴代単独4位となる20勝目となった。王者らしい威厳、落ち着いた言動と紳士的な振る舞…

男子シングルスで、ロジャー・フェデラー(スイス)が大会最多に並ぶ6度目の優勝を飾った。四大大会通算では、マーガレット・コートの24勝などに次いで、男女を通じて歴代単独4位となる20勝目となった。

王者らしい威厳、落ち着いた言動と紳士的な振る舞い、試合以外での、いや試合の中でも周囲に見せる気配りや優しさ、そして、圧倒的な成績。このあたりが、フェデラーが世界中で人気と尊敬を集める理由だろう。

だが、忘れてはならないのが、圧倒的な技術力だ。史上最強のオールラウンダーと呼ばれるように、どのショットも、またコート上のどこからでも超一流の技術を繰り出し、ファンを魅了する。この決勝では、多くの引き出しの中からサーブ力という武器を披露した。

「全豪オープン」独自の酷暑対策ルール「ヒートポリシー」が適用され、ロッド・レーバー・アリーナの屋根を閉めて試合が始まった。風の影響を受けない屋内ではトスが安定し、サーブの精度が高まる。フェデラーの最も得意なプレー環境だ。

フェデラーは今大会での自身最多となる24本のエースを決め、3-6で失った第4セットを除けば一度もサービスゲームを落とさなかった。

なかでも第1セットが圧巻だった。ファーストサーブ時のポイント獲得率は92%。サービスゲームの圧倒的な強さで挑戦者マリン・チリッチ(クロアチア)の出鼻をくじいた。

第2セットは59%、第4セットは36%とファーストサーブの確率が落ち、2つのセットを失ったが、最終セットは持ち直し、4度のサービスゲームをキープ。チリッチのサービスゲームを2度ブレークして、粘る相手を振り切った。

大事な決勝で最多のエースをマークするのもさすがだが、注目すべきはエースだけではない。

並外れたサーブの技術で、狭いエリアに狙いを定め、外さない。その精度、威力によって、常に最初から優勢に立ってラリーを進める。タイミングの早いグラウンドストロークでさらにたたみかけ、相手の時間を奪ってプレッシャーをかけていく。そこが彼のサーブ力であり、サービスゲームの強さだ。だから、エースを連発するタイプではなくても、フェデラーはツアーで有数のサーバーなのである。

圧倒的な技術力を披露したフェデラーのひとり舞台にならなかったのは、チリッチの頑張りによる。

昨年の「ウィンブルドン」以来の四大大会決勝だったが、この時もやはりフェデラーにグランドスラム2度目の優勝を阻まれていた。左足のマメが悪化してプレーに精彩を欠き、第2セットにはベンチで涙を流した。その半年後、雪辱の機会が訪れたが、フェデラーに返り討ちにあい、「いつかはトロフィーを手にしたい」と唇を噛んだ。

精密なプレーを披露したフェデラーだったが、表彰式では人間らしさが顔を出した。スピーチで「(故障から復帰の『全豪オープン』でいきなり優勝した)去年の夢物語がまだ続いている」と話すと、言葉に詰まった。

陣営に向かい「みんな、愛しているよ。ありがとう」と言うと、たちまち涙声になった。涙は、あとからあとからあふれ出た。

四大大会優勝で、すべての苦しさ、王者の責任から解放されたとき、フェデラーはこうして感情を解き放ち、涙を見せることがある。王者から無防備な一人の男となって、祝福を受けるのだ。

だが、これだけ感情を高ぶらせたことは過去にはなかったのではないか。ファンは、彼がそんな人間くさい部分を持っているのを知っている。このことも、彼が絶大な人気と尊敬、共感を集める理由である。(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」表彰式で涙するフェデラー

(Photo by Michael Dodge/Getty Images)