シングルスの日本男子が早めに敗退してしまったこの大会で、日本のファンを楽しませてくれたのが男子ダブルスのマクラクラン勉(日本)だった。四大大会初出場にもかかわらず、ベスト4進出の快進撃には驚かされた。準々決勝では第1シードのルーカシュ・クボ…

シングルスの日本男子が早めに敗退してしまったこの大会で、日本のファンを楽しませてくれたのが男子ダブルスのマクラクラン勉(日本)だった。

四大大会初出場にもかかわらず、ベスト4進出の快進撃には驚かされた。準々決勝では第1シードのルーカシュ・クボト(ポーランド)、マルセロ・メロ(ブラジル)のペアを破った。「全豪オープン」で日本男子の4強入りは史上初。四大大会でも1955年の「全米オープン」で優勝した宮城淳、加茂公成組以来63年ぶりの快挙となった。

マクラクランはニュージーランド人の父クレーグさんと日本人の母、夕利子さんの間に、ニュージーランドのクイーンズタウンで生まれた。兄とともにテニスに親しみ、アメリカの名門、カリフォルニア大学バークレー校に進学。カレッジテニスで頭角をあらわし、プロの道に進んだ。

シングルスでは芽が出なかったが、ダブルスに専念したことが飛躍のきっかけとなった。昨年春、デビスカップ日本代表のトーマス嶋田コーチに声を掛けられ、ニュージーランドから日本に登録変更、9月にデビスカップ初出場を果たした。

翌10月には内山靖崇(日本/北日本物産)とのペアで「楽天ジャパンオープン」のダブルスに優勝。数ヶ月前までは下部ツアーの「チャレンジャー」を転戦していた選手が、デビスカップ代表抜擢のチャンスを生かし、あっという間に世界レベルに浮上した。

さらに、「楽天ジャパンオープン」の優勝でランキングが急上昇、この「全豪オープン」で四大大会初出場を果たし、いきなり準決勝進出と、シンデレラボーイさながらのステップアップとなった。

彼の武器はサーブとネットプレー。ヤン レナード・ストルフ(ドイツ)とは今大会で初めてペアを組んだが、強烈なサーブとリターンを持つパートナーとの相性は抜群で、そのコンビネーションが躍進の原動力となった。

それにしても、自分を信じることの大切さを改めて思い知らされる。自信と信念を持つことは、選手にどれだけ大きな力を与えるのか。

デビスカップでは「デビスカップでプレーすることは夢だった。二人のトップ10プレーヤーに対し、チャンスもあり、大きな差があるとは感じなかった」と初出場を振り返った。その手応えが、初めて出場したATPワールドツアー本戦の「楽天ジャパンオープン」優勝につながった。それまで四大大会出場は目標あるいは「プラン」でしかなかったが、優勝でさらに自信を得て、この「全豪オープン」でも臆するところはまったくなかった。

準決勝では第7シードのペアに惜敗。初出場で決勝進出の夢物語とはならなかった。

しかし、チャレンジはまだ始まったばかりだ。ナショナルチームの嶋田コーチは「リターンなど、まだまだインプルーブ(向上)の必要なところがある。レベルアップしないと今のレベルをキープできない」と指摘した。

ビギナーズラックと言っては悪いが、プレーの特徴を周囲に知られていないことも、今大会ではアドバンテージになった。しかし、今後はダブルス専門の猛者たちに研究されるのは間違いない。マクラクランも「これがうまい、ここが弱いのかと分かったら、大変だと思う」と自覚している。

それを上回るだけの自信があるか、と聞くと、マクラクランが即答した。「(この大会で得た)自信のほうが強いと思います。僕が自分のゲームをインプルーブして、メンタリティをインプルーブしたら」。

彼の信じる力を持ってすれば、不可能も可能にしてしまうかもしれない。シンデレラボーイは、この次はどんな奇跡を起こすのか。(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」で快進撃を見せたマクラクラン勉

(Photo by Darrian Traynor/Getty Images)