個人的な感想だが、ラファエル・ナダル(スペイン)がいる大会と、そうでない大会は雰囲気が違うように思えてならない。骨惜しみせずにコートの端から端まで走り、大量の汗を飛ばしながらラケットをフルスイングし、全身を震わすようなガッツポーズを見せる。…

個人的な感想だが、ラファエル・ナダル(スペイン)がいる大会と、そうでない大会は雰囲気が違うように思えてならない。

骨惜しみせずにコートの端から端まで走り、大量の汗を飛ばしながらラケットをフルスイングし、全身を震わすようなガッツポーズを見せる。華麗なロジャー・フェデラー(スイス)とは別の形で、この競技の素晴らしさを体現する存在だ。

だから、四大大会を取材していて、何かひと味足りないなと思い、改めてナダルの不在を思い知ることが何度かあった。この日、主催者が報道陣に配布する資料には、「全豪オープン」は「全仏オープン」の次にナダルが得意とする大会、とあった。ただしそれは、通算55勝、ベスト8進出が10回、という2点に限っての話だ。

「全豪オープン」での優勝は2009年の一度だけで、10度栄冠を掲げた「全仏オープン」には遠く、優勝3回の「全米オープン」、2回の「ウィンブルドン」にも及ばない。

その資料は、ナダルがこれまでに四大大会の準々決勝で喫した6度の敗北のうち4回が「全豪オープン」でのものだった、と不吉なデータを載せていた。

ハードコートの大会は、ただでさえ足腰に負担がかかる。そして、1ポイントを奪うために誰よりも走り、力をセーブするということを知らないナダルには、時に気温40度近い過酷な環境で試合を行う「全豪オープン」は、相性のいい大会とは言えないのかもしれない。

マリン・チリッチ(クロアチア)との準々決勝。セットカウント1-1で迎えた第3セットをタイブレークで制し、両拳を握り、力いっぱいのガッツポーズを見せたナダルだったが、第4セットを落とし、最終セットも0-2となったところで主審に棄権を申し出た。このゲームでは0-40と追い込まれたが、そこからデュース4度を繰り返し、最後まで彼らしい粘りを見せた。

第4セット途中、右足付け根から太もものマッサージを受ける場面があった。試合後、ナダルは「右足の付け根付近だが、どの筋肉かは分からない。明日、検査を受ける」と話した。

苦しみながら、だからこそ持てる力を出し尽くし、限界まで戦う。だから、その姿がファンの心を打つ。両手を掲げて退場するナダルの背中に大歓声が降り注いだ。棄権のショックか、ざわめきは退場後もしばらく収まらなかった。

勝者となったチリッチは「ラファは本当に気の毒だった。彼は驚くべき競技者だ。いつもベストを尽くす。こんな形で試合が終わるのはまったく気の毒だ」と同情した。

記者会見場にあらわれたナダルは、歩くのもつらそうだったが、「この状況を受け入れるしかない」と絞りだした。ディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)との3時間51分かかった4回戦ではラリーの楽しさを堪能した。そして、ハードコートの申し子のようなチリッチとの準々決勝でも、持ち味を出し尽くした。

だが、これから先は、ナダルのいないトーナメントになる。(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」準々決勝で棄権し退場するナダル

(Photo by Michael Dodge/Getty Images)