1月13日、東京・秩父宮ラグビー場にて「日本選手権兼トップリーグ総合順位決定トーナメント」の決勝戦が行なわれた。ラグビー日本一を決めるこの舞台に駒を進めたのは、サントリーサンゴリアスとパナソニックワイルドナイツ。今年度からサンウルブズ…

 1月13日、東京・秩父宮ラグビー場にて「日本選手権兼トップリーグ総合順位決定トーナメント」の決勝戦が行なわれた。ラグビー日本一を決めるこの舞台に駒を進めたのは、サントリーサンゴリアスとパナソニックワイルドナイツ。今年度からサンウルブズの活動期間を確保するため、昨年まで行なわれていた日本選手権がトップリーグのプレーオフを兼ねることになった。



サントリーの2冠達成に攻守で貢献したCTB中村亮土

 結果はサントリーが12−8でパナソニックを下し、2年連続で日本選手権とトップリーグの2冠を達成。日本選手権では通算2位の新日鐵釜石(現・釜石シーウェイブス)に並ぶ8回目の頂点となり、トップリーグでは東芝ブレイブルーパスに追いつく最多タイ5度目の優勝を飾った。

 この試合では「アグレッシブアタッキングラグビー」を標榜するサントリーが、「堅守速攻」を持ち味とするパナソニックのディフェンスをどうこじ開けるかが焦点だった。

 そのなかで輝きを放ったのは、ゴールド&ブラックジャージーの「12番」。サントリーが誇る日本代表CTB(センター)の中村亮土(なかむら・りょうと)だ。

 試合早々、サントリーにチャンスがやってくる。前半4分にオーストラリア代表のレジェンドSO(スタンドオフ)マット・ギタウがグラバーキック(ゴロキック)を放つと、そのボールに反応した中村がボールをキャッチし、そのままインゴールを駆け抜けてトライを挙げた。

「(ひとつ外にいたCTB)村田大志さんが(グラバーキックのサインを)コールして、それにギッツ(ギタウ)も僕も連動して動き、僕の前にたまたまボールが転がってきた。(お互いに)コミュニケーションが取れていたからこそのトライです」(中村)

 さらに中村は前半33分、ボールキャリアとしても強さを発揮する。そのプレーがチャンスのキッカケを生み、決勝点となったWTB(ウイング)江見翔太のトライへと結びついた。

 そして印象的だったのが、後半33分。6分間にわたる約40次にもおよぶ連続攻撃の中心選手として落ち着いたゲームメイクを見せ、それが試合の流れを大きく決めた。帝京大時代から鍛えてきたフィジカルをどう生かすか――サントリーに入社して4年目、フットワークやボディーコントロールといった細かいスキルを突き詰めてきた成果と言えるだろう。

「勝つチームはディフェンスがいい。しっかり前に出た」

 試合後、サントリーの沢木敬介監督が勝因のひとつとして挙げたように、リーグ最多得点を誇るパナソニックの攻撃を1トライに抑えた点も大きい。

 中村は80分間、常に身体を張り続けた。身長2m・体重100kgを超える相手FWをタックルで仕留め、後半9分には相手SO山沢拓也を倒した後にターンオーバーに結びつけるなど、ディフェンス面でも大きく貢献していた。

「今季はタックルにこだわってきた。全体練習後にチームで一番タックルのうまいWTB長友(泰憲)さんとタックル練習をやってきて(コツや感覚が)掴めてきた」(中村)

 ようやく大舞台で存在感を示せた中村だが、過去には悔しい経験を何度も味わっている。昨季はリーグ戦で15試合中11試合に出場したものの、日本選手権・決勝への出場は叶わなかった。今季もギタウが加入し、リーグ戦に出場したのは13試合中8試合。先発はわずか3試合だけだった。

 また、日本代表でもつらい経験を重ねた。昨年はサンウルブズのメンバーに招集されず、3月に行なわれた代表候補合宿に追加招集されるも、当初はメンバー外だった。

 昨年秋のテストマッチシリーズでは、「SOとCTBの両方でプレーできる選手」として日本代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)から声がかかり、世界選抜戦では「12番」を背負った。だが、指揮官を満足させるプレーができず、その後の強豪国との3試合で出場時間をもらうことはできなかった。

 だが、中村はクサることなく、努力を続けた。

「悔しい気持ちをエネルギーに変えて、もう1回、自分を改めて見つめ直し、サントリーで練習しました。確実にレベルアップしていると思います」(中村)

 その成長を見続けてきた沢木監督は、中村をこう評する。

「今季、僕に一番怒られた選手だと思います。だが、すごく向上心がある」

 そして、厳しい意見も忘れずこう付け加えた。

「(まだ)サントリーのレギュラーを獲得できたとはいえない。(小野)晃征もいますし、(田村)煕(ひかる)もいる」

 指揮官は中村のさらなる成長を期待している。

 一方、今季怒られ続けた中村は決勝戦を終え、シーズンをこう振り返った。

「毎回(監督に)『一貫性を持ってパフォーマンスしろ』と言われ続けた。だから、ひとつのミスもなくすように意識してプレーしてきました。そういうこだわりを持つことがチーム内での信頼になるし、自身の価値にもつながってくる。(監督にそう)言っていただいたから成長できた」

 日本代表のジョセフHCやトニー・ブラウン・コーチは決勝戦の中村のパフォーマンスを見て、どう感じただろうか。中村は2月からスーパーラグビー3年目を迎えるサンウルブズのメンバーに呼ばれておらず、2019年のラグビーワールドカップに向けてはやや厳しい立ち位置にいる。

 それでも、中村の心が折れることはないだろう。

「(サンウルブズの)スコッドに入れなくても、何かチャンスは回ってくると思う。確実にレベルアップしているので、もう1回(日本代表に)呼ばれたら、今の自分をフルに出したい」

 中村はふたたび桜のジャージーへの挑戦を心待ちにし、努力と準備を続けていく。