伊達公子さんが現地メルボルンから熱戦の模様を伝える シーズン最初のグランドスラムである全豪オープンテニスが、1月15日から28日までオーストラリア・メルボルンで開催される。日本から真夏の南半球へ、2018年のテニスシーズンの開幕を告げる…



伊達公子さんが現地メルボルンから熱戦の模様を伝える

 シーズン最初のグランドスラムである全豪オープンテニスが、1月15日から28日までオーストラリア・メルボルンで開催される。日本から真夏の南半球へ、2018年のテニスシーズンの開幕を告げるテニス4大メジャー大会の初戦となるこの地を、元プロテニスプレーヤーの伊達公子さんが再訪する。伊達さんは、2017年9月に46歳で”2度目”の引退をし、2018年からは”WOWOWテニス アンバサダー”を務めることになった。

「選手としてではなく、形を変えたけど、グランドスラムにまた行けることは純粋に嬉しい。素直に感じたままを伝えたい」

 かつて伊達さんにとって、全豪は「戦いやすい場所。勝てる可能性のあるグランドスラム」という位置付けだったという。そのなかでも、特に1994年大会が印象に残っている。

「やっぱりセミファイナルに進出した94年が印象に残っています。あの年は、大会に入る前から、誰と対戦したとしても負ける気がしなかった。ボールをミスする感覚がなかったので、ラケットを振れば入る、そんな感覚があった年でしたね(笑)。

 それでも、(シュテフィ・)グラフにはかなわなかったという現実はありましたけど(94年全豪準決勝で、当時世界ランク9位の伊達は、第1シードのグラフに3-6、3-6で敗れた)」

 また、全豪のコートサーフェスは、1988年から2007年までリバウンドエースというハードコートだったが、2008年からはプレキシクッションになり、伊達さんは選手時代に両方のサーフェスを経験したことになる。

「暑さも影響しますが、プレーをしていてプレキシクッションは、ちょっと弾力のあるグニュッという感じがある。ボールのスピードも昔より遅くなっていて、そのぶん跳ねる。リバウンドエースは嫌いではなかった。私は速い方が好きだったし、自分が強かった時期でもあったので、やりやすい印象が強かった。ただ同じ(年齢条件の)体で戦っていないだけに、(比較は)難しいです」

 2018年の全豪オープンに話を移そう。まず伊達さんは、日本男子エースで右手首のリハビリ中である錦織圭(ATPランキング24位、1月8日付け、以下同)の欠場について、彼の判断を尊重した。

「出られないことをいちばん残念がっているのは本人。ベストコンディションにはほど遠いだろうし、出たら無理をしてしまうのが選手。グランドスラムを欠場する決断は簡単ではないと思いますけど、勇気ある決断だったのではないかなと思います」

 1月第1週から開幕しているワールドテニスシーズンだが、選手はいきなりメルボルンでトップコンディションになることを求められる。そのため、全豪特有の難しさがあると伊達さんは指摘する。

「シーズン最初で、戦い方や調節の仕方、選手同士も探りながら大会に入ってきていることが多い。前哨戦から全豪に向け、また全豪期間中に確実に試合をしながら調子を上げてくる選手が出てくるのが面白い」

 女子のディフェンディングチャンピオンのセリーナ・ウィリアムズ(WTAランキング23位)が欠場したことによって、絶対女王が不在となり、伊達さんも優勝争いはかつてないほどの混戦必至と予想する。

「誰にでもチャンスがあると思いますね。前哨戦で優勝したからといって、全豪で勝つ可能性が高くなるとは言えないと思います」

 一方、男子では2017年大会で優勝したロジャー・フェデラー(当時35歳)と、準優勝したラファエル・ナダル(当時30歳)が成し遂げた予想外のカムバックが、伊達さんの中でも鮮烈な印象として残っている。

「あの2人だからできた。昔だったら、あの年齢でグランドスラム優勝は不可能に近かったと思う。2人は断トツの強さを持っている。カムバックも含めて経験から余裕すら感じます」

 そして、強さを持続しているディフェンディングチャンピオンのフェデラー(2位)を「今のところは可能性が高い」と優勝候補の筆頭に挙げる。

 また、前哨戦のATPブリスベン大会で初優勝した、地元オーストラリアの期待選手であるニック・キリオス(17位)については、その潜在能力は認めつつも、グランドスラム初優勝には物足りなさを感じている。

「オーストラリアって、見えないプレッシャーが大きいのか、地元の選手はなかなか勝てないところがありますよね。ま、調子さえよければキリオスは関係ないかもしれないですけど(笑)。一発のものを持っていても、グランドスラムで優勝するには2週間キープするだけの安定感はないように思います」

 日本女子勢では、大坂なおみ(WTAランキング70位)に注目し、相手が強ければ強いほど力を発揮できると伊達さんは評価する。これに対して、WOWOWで解説を務める松岡修造氏は、大坂の爆発力が発揮されれば、もしかしたらグランドスラムで初優勝できるのではないかという見方をする。爆発力と安定感のバランスをどうするべきなのだろうか。

「それは全体のレベルを上げない限りは、当然ですけど厳しいですね。彼女の強みは、ファーストサーブとフォアハンドストロークの一発があることです。今でも十分パワーがあるわけだから、それが必要な時に決まれば、大きいですね。

 あとは、トッププレーヤーではないけれど同じようなランキングの相手に負けないこと。無駄な力を使わない。まだ(大坂は)トップではないから、パワーを強調させて自分の強みを見せることも大事な時期ではあると思うんですけど、無駄にアピールする必要がない時は温存して、楽に勝てるテニスを覚えた方が、ランキングを上げることにつながる。

 やっぱりツアーでもまれていくと、ミスしてはいけない時はミスできないということを覚えていく時期が必ずきて、その中で戦い方が身についてメンタル的にもレベルが高くなっていく。

 昨年は、一昨年に比べると一発で勝たせてもらえないレベルを見たから、少しずつ我慢強くなる部分も出てきて、一発の出しどころをわかって、メリハリがついてきたように感じます」

 2015年に伊達さん(当時173位)は、17歳の頃の大坂(当時203位)と、WTAスタンフォード大会予選1回戦で対戦したことがあり、6-7(3)、6-4、6-3で伊達さんが勝っている。その後、大坂がツアーへ駆け上がった成長スピードをどう見ているのだろうか。

「もうちょっと最初は時間がかかるかなと思っていました。対戦する前にも大会が一緒の時には幾度か練習を(一緒に)していたし、スタンフォードの大会会場に入った時にも練習をしたうえで試合をやって、当時はプレーが粗すぎるぐらい粗かった。それが変われば、怖い存在になるだろうとも思っていました。

 もったいないのは、サーブひとつを見ても、改善の余地があること。あれだけの身長(180cm)とパワーがあって、もっとセカンドサーブがよくなる可能性はあるし、今の年齢だったら改善できるので、さらに大きな武器になるのでは、と思います」

 日本女子勢にはもっと上位を狙ってほしいと、伊達さんは後輩たちにエールを送る。

「何か際立ったものがないなかで、立ち向かっていくのは簡単ではない。ただしつこいだけだったら、他にもたくさんいる。その辺をどうするか、どうしてもぶち当たる課題がずっとあります。今からテニスを大きく変えるのは難しいと思うので、継続的に我慢強くやるしかないでしょう」

 さらに、現役時代にコート上での駆け引きに長(た)けていた伊達さんは、かわいい性格の後輩たちに、伊達さんらしい興味深いアドバイスもする。

「今の時代、ある意味みんなまじめですよね。ずるいことをする人がいない(笑)。やれって言われたことは絶対やるし。私たちの時代は、ずるいことをいかにしようかって(笑)。それがいいのか悪いのかは別として」

 最後に、伊達さんは今回の全豪で絶対見ておきたい注目選手として、杉田祐一(41位)の名前を挙げる。

「日本人選手の中でも、自分の独特な世界を持っている。今は登り続けている。(今季も)杉田くんの勢いが続いているか、ですね」

 はたして今回の全豪では、どんな戦いが見られるのか。若手選手の勢いがさらに加速するのか、あるいはベテラン勢の経験が勝るのか。そして、日本勢の上位進出はあるのか。暑さの中で戦う選手の体力、精神力も試されるだろう。

 2018年シーズンを占う意味でも、非常に大切な戦いとなる全豪オープンの戦いに注目したい。

【全豪オープンテニス】
1/15(月)~28(日)WOWOWにて連日生中継
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