加藤未唯インタビュー 後編テニスに対する熱い思いを語ってくれた加藤未唯前編はこちら>> 2017 年シーズンに、加藤未唯(みゆ)の名前が一躍有名になったのは、1月のオーストラリアン(全豪)オープン女子ダブルスでベスト4に進出した時だ。穂…

加藤未唯インタビュー 後編



テニスに対する熱い思いを語ってくれた加藤未唯

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 2017 年シーズンに、加藤未唯(みゆ)の名前が一躍有名になったのは、1月のオーストラリアン(全豪)オープン女子ダブルスでベスト4に進出した時だ。穂積絵莉とのダブルスには”えりみゆ”というニックネームも付けられた。

 ただ、加藤は喜んでいるだけではなかった。ダブルス選手の境遇や、テニス自体が日本ではまだメジャースポーツとは言い難い現実に対して、さらに2018年シーズンの目標について、心に秘める思いがたくさん詰まっていた。ふだん、不思議系キャラに見られがちな加藤だが、今回はあまり見られない”熱い加藤”を見ることができた。

――2017年オーストラリアンオープンでは、穂積絵莉さんと組んだ女子ダブルスで初のベスト4進出と素晴らしい結果を残しました。あらためて振り返ってどうでしたか?
 
(2017全豪女子ダブルス)
1回戦    7-6(3)、7-6(3)ペレス/タンドラムリア
2回戦   3-6、6-3、6-3  コルネ/リネッテ
3回戦   6-3、2-6、6-2 ミルザ/ストリコバ
準々決勝  6-3、6-3  ルチッチ-バローニ/ペトコビッチ
準決勝   2-6、6-4、4-6  マテックサンズ/サファロバ

加藤 正直、私、シングルスでは予選1回戦で負けて、ダブルス(1回戦)まで1週間ちょっとあったんで、始まるまでは、ん~、そこまで乗り気ではなかったんですよ。次の大会のシングルスのことも考えていたけど、まっ、グランドスラムやし、頑張ろうって。
 
 1回戦はいいプレーができなくて苦しい展開で勝てた。2回戦も劣勢で負ける寸前だったんですけど、いいプレーができました。コルネはシングルス(大会時28位)で上の選手ですけど、打ち合っていても負けている気はしなかったし、ダブルスでは通用するなと感じたので、勝てて嬉しかったです。

 3回戦では、(マルチナ・ヒンギスとのペアを組んだ)ミルザに過去3回負けていたので、今回はパートナーが違うので、今回こそ勝とうよと話していました。引かずに押していこう、自分から仕掛けないと、また同じ目に遭(あ)う。強くそう思って試合に入ったけど、初めてミルザからセットを取ることができたし、ファイナルセットでも自分たちのプレーができた。あれはすごく嬉しかったですね。

 準々決勝では、ルチッチ(32位)もペトコビッチ(98位)もシングルスでは強いけど、ダブルスプレーヤーじゃないというのが、すごく私たちには自信になったし、打ち負けないようにしました。
 
 1回戦以外は、すごくいいプレーができていて、すごくよかった印象が残っています。私たちが、そこまで実績がなかったので、もしかしたら一体何者だというのもあっただろうけど。あの感覚は絶対忘れてはいけないと思っています。あの感じでやれば、優勝も見えてくるだろうし、ポーランドでツアー初優勝(2016年4月WTAカトヴィツェ大会)した時より5倍ぐらいはよかった。一大会通して調子がいいなんて、ほぼなくて、よい日もあれば悪い日があるものですから。

――シングルスとダブルスで違いますけど、感覚としては、2017年ジャパンウィメンズオープンのシングルス(準優勝)より、全豪ダブルスの方がよかったんですか?

加藤 心地よかったのは、もちろん全豪ですね。ジャパンウィメンズでは自分を抑えていたので。どっちが嬉しいかといったら、ジャパンオープンですけど、気持ちを表に出していたのは全豪だったので、心地はよかったですね。

 喜びたい時に喜んだ方が、次の入り方も結構気持ちがいい。怒りの感情は出さない方がいいと思いますけど、やっぱりそれでも、そこ(試合中の感情の揺れ動き)がテニスの面白いところでもあると思うんですよね。

――基本的に加藤さんは感情を表に出した方が、いいプレーにつながることが多いタイプの選手なんですね。ジャパンウィメンズの時は、怒りを抑えていたのですか。



昨年の全豪オープンダブルスで快進撃を見せた加藤(左)と穂積絵莉

加藤 怒りだけでなく、全部抑えていたんです。(マッチポイントを決めた瞬間以外は)大きなガッツポーズをしていなかったと思います。

――ダブルスに話を戻しますが、全豪女子ダブルス準決勝は、第2シードのマテックサンズ/サファロバ組を相手にして、本当に惜しかったですよね。

加藤 相手が第2シードでしたけど、自分たちが引かなかった。(マテックサンズ/サファロバ組は)ずっと組んでいて、グランドスラムでも優勝しているペアですが、私たちのような初めてグランドスラムの準決勝に来たペアに対しても、素晴らしいプレーを見せてくれた。

 しかも彼女たちも絶対勝ちたいという思いから、マテックサンズがサーブの時に、サファロバがベースライン上で構えるツーバック(守備的な陣形)をした時があったんですけど、第2シードでもこういう手段を取ってくるんだと、そこはすごいねって、試合後にふたりで話したんです。変なプライドを捨てて、格下の私たちに、そういう手段でやってくることにすごいと思いましたね。

 私のサービスゲームが悔やまれるかな。ファイナルセット4-5の時に、初めてちょっと引いちゃったかな。そこが一番の反省点です(ファイナルセット第10ゲーム、加藤のサービスをブレークされて、2時間8分の接戦の末敗れた)。

――”えりみゆ”というペアのニックネームが付けられましたが。 

加藤 嬉しかったですけど、そこまで浸透していないので……。シングルスでの(錦織)圭くんの報道に比べると、ダブルスなので、やっぱりまだまだですね。私は、欧米ではテニスがメジャーであることを見て知っているので、テニスが日本でもっとメジャーであってほしい。海外だと、ダブルスでもすごく評価されるんです。それに、あの時の全豪では圭くんが4回戦で(先に)負けていたので、私たちが注目されたのかなとも思います。
 
 日本では一般の人が知っているテニス選手の名前って、圭くん、松岡修造さん、伊達公子さんぐらいだと思います。昨年に36位まで上がった杉田(祐一)さんですら、以前よりは知名度が上がったけど、プロ野球選手に比べると、まだまだそこまで知られていない。私からすれば、杉田さんが松岡さんを抜いたことはすごいことだと感じていますが、みんなに知られていない。

(昨年の)11月に、杉田さんと一緒にある賞をいただいたのですが、その時に彼が、「テニスは、海外と比べると日本ではマイナーで、よく知られていない」という話をしたんですが、それにすごく共感したんです。

 もしグランドスラムが世界選手権だったら……ピンとくるのかもしれないですね。知っていてもウインブルドンだけとか。4大メジャーとして、野球は、日本でメジャースポーツなので、国内試合でもたくさん取り上げてもらって、うらやましいなと思う。

――話題を変えますが、8歳の時に、どんなきっかけでテニスを始めたんですか。

加藤 私はちょっと特殊で、家族は誰もテニスをやっていませんでした。当時の家が小学校の目の前にありまして、学校は8時半始まりなんですけど、7時半に登校していたんです。教室でボーッとしていたら、陸上部の顧問をしていた担任の女の先生から、一緒にどう?と言われて、次の日から小学5~6年生が走っている中に入った。体格差がある中でも、私、足が速かったんですよ。

 その後、理由は定かではないんですが、なぜか担任の先生に「テニスか、スノボをしたらどう?」と言われたんです。それで私が母に相談したら、「スノボは危ないし、冬しかできないから」と母が言って、テニスをやってみよう、と。それがきっかけです。兄と一緒に東山テニスクラブ(京都)に行きました。

 テニスは見たこともやったこともないスポーツでしたけど、楽しかったですね。まずフォアを習ったんですけど、その次にバックで、「左側でも打つの?」というレベルだったので。最初は週に1回(のレッスン)だったのが、だんだん増えていってはまりましね。

 当時、私の体が小さくて、ラケットが重たかったんで、最初はフォアが両手打ちだったんですけど、だんだん窮屈になって、勝手に片手打ちに変えてました。ちっちゃい頃から足は速かったですね。(現在の)日本の現役女子選手全員で、1回競走してみたいですね。たぶん誰にも負けないですよ。

――テニスを続ける中で、なぜプロテニスプレーヤーになろうと思ったんですか。

加藤 小学校の後半にはプロになりたいと思っていましたし、中学でも変わりませんでした。高校生になって、ある程度の成績があって、申請すればプロになれるという仕組みがわかったのが一番大きかったです。そして、やっぱりグランドスラムに出たかったので、プロになるんだろうなと思いましたね。

――ジュニア時代からプロになった現在まで、一緒に戦ってきた同期の”1994年組”の存在とは、加藤さんにとってどういうものでしょうか。

加藤 私はジュニア時代からわりと早くITFの大会や、グランドスラムの予選に出たので、自分よりひとつ、ふたつ上の先輩選手と一緒になることがあったんですけど、彼女たちには同期が1~2人しかいないというのを見ていました。自分たちの代には7人もいたので、お互いすごく刺激をもらえた。いないよりは、一緒に頑張った方がいいに決まっているので、存在は大きかったですね。
  
 今、竹内映二さんのラボ(みんなのテニス研究所・兵庫)で練習していて、そこには(日比野)菜緒(WTAランキング97位)がいて、ランキング的にも彼女が引っ張っている感じで、そこに早く追いつきたいというのもありますし、彼女とならつらい練習も乗り越えていける。だから、他の”94年組”よりも、菜緒と一緒に上へ行きたいといちばん思います。

――尾崎里紗さん(119位)、日比野さん、穂積さん(169位)は、女子国別対抗戦フェドカップ日本代表にすでになりましたが、加藤さんは日本代表にいつか入りたいという思いはありますか。

加藤 その思いは、かなり強かったです。でも、ジュニアの時、フェドカップ代表に選ばれたんですけど、サッカーと違って誰にも全然知られていない。一般のフェドカップ日本代表(サッカーでいうA代表)でも、日本だとサッカーとは比べものにならないほど注目度が低くて差がありますね。

 でも、やっぱり日本代表って経験したいですし、国のために戦うって、すごい気持ちのいいことだと思う。23歳になっても呼ばれないので、選ばれないのかなという不安はあります。2020年の東京オリンピック出場には、フェドカップ出場経験が必要なので、やはり気にします。

――2020年の東京オリンピックへの加藤さんの思いは?

加藤 日本人選手なら、誰でもオリンピックに出たいと思いますし、年齢的にもチャンスだとは思うので、出たいという強い思いはあります。特に外国選手の中には、オリンピックに出ない選択をする人もいるので、(ランキング的に繰り上がるため)よりチャンスはあると思うので、やっぱり出たいですね。

――2018年シーズン、プロ5年目の目標は?
 
加藤 シングルスに関しては70位に行くのが目標なんです。早くトップ100に入って、早くグランドスラムの本戦から出場して、1回戦や2回戦を突破したいです。2017年は、ツアーで準優勝だったので、それより上、優勝を目指していきたいです。

 ダブルスも2017年より上に行きたいという思いがあるので、ベスト4以上、早く決勝の舞台に行きたい。チャンスはあると思います。ランキングはダブルス40位ぐらいはキープしたいと思っていて、いつかWTAファイナルズ(女子ツアー最終戦)に出たいという夢があります。

――シングルスとダブルスのバランスが難しそうですね。

加藤 難しいですね。シングルスが129位で、ダブルスが43位(2017年12月25日付け)で離れているので、シングルスだと出られる大会と出られない大会があります。シングルスをやっていると、ダブルスができなくなるので、2017年のローマ大会のように、ダブルスだけで行くこともあるかもしれない。

 でも、そういう時でもシングルスの練習をして、常にシングルスのことは頭に入れておきたい。ダブルスからも多くのことを学べていて、シングルスに活かせているので、ダブルスも大切にしていきたい。

――グランドスラムでは、どの大会が一番好きですか?

加藤  一番雰囲気が好きなのは、US(全米)オープンです。勝って嬉しいのはフレンチです。

――2018年オーストラリアンオープンでは、女子ダブルスでやはり”えりみゆ”に注目が集まると思います。そういう状況で成績を出すことも大切だと思いますが。

加藤 2017年がすごくよかっただけに、注目はされるし、それに応えたい気持ちはあります。同じ成績は難しいかもしれないけど、2017年と一緒か、それより上を目指していきたい。あんまり気負わずにリラックスして、いつもどおりあまり意識せずにできたらなと思います。