「昨季は、賞金女王になった鈴木愛選手や、(キム・)ハヌル、(イ・)ミニョンがすごくがんばっていました。(それぞれ)練習量もすごかったと聞いていますし、メンタル的にも強さを発揮していましたよね」 2017年シーズンについて、そう振り返った…

「昨季は、賞金女王になった鈴木愛選手や、(キム・)ハヌル、(イ・)ミニョンがすごくがんばっていました。(それぞれ)練習量もすごかったと聞いていますし、メンタル的にも強さを発揮していましたよね」

 2017年シーズンについて、そう振り返ったイ・ボミ(29歳/韓国)。他の選手の活躍と自らの成績とを比べて語ることで、改めて悔しさが蘇ってくるようだった。

 それも、そのはずである。2011年から挑戦してきた日本ツアーにおいて、2017年シーズンは最も苦しい戦いを強いられたからだ。



昨季は苦しいシーズンを送っていたイ・ボミ

 8月のCAT Ladiesで1勝したとはいえ、シーズン4回の予選落ちは自己ワースト。優勝争いできた試合もほとんどなく、賞金ランキングは23位にとどまった。想像以上に心と体が疲弊していて、その姿からは、2015年、2016年と2年連続賞金女王に輝いた面影が完全に消えていた。

 苦悶の表情を浮かべて、イ・ボミが語る。

「いい状態からいきなりすべてがダメになる、という経験は初めてでした」

 そして、彼女はこう続けた。

「全体的な数字を見ると、パーオン率がすごく低くなりましたし、やはりそれは、スイングの感覚が落ちてしまっているのが影響したと思います」

 イ・ボミが言うとおり、2017年のパーオン率は68.1992%(23位)と低かった。ともにランキング1位だった2015年(74.5880%)、2016年(74.4694%)の数字と比べれば、その差は歴然である。

 さらにもうひとつ、不調の要因がある。専属キャディーの清水重憲氏が挙げたのは、パットだ。

「体力が落ちれば落ちるほど、その影響が出やすいのがパットなんです。パターを打つときは、体を動かしてはいけません。でも、疲れているときほど、『動くな』と言われるとしんどいですよね? 疲れがあると、パットはブレるのです」

 疲れがたまると、体の動きに微妙なズレが生じて、それがパットに影響していたと清水氏は言う。

 数字を見ても、パットが不振だったことは明らかだ。2017年のイ・ボミの平均パット数は、1.8081(17位)。これは、日本ツアーに参戦して以降、自身ワースト記録であり、「1.8」台を記録するのも初めてのことだった。

 そうしたショットの乱れやパッティングのズレは、心と体の疲れからくるものだった。イ・ボミを間近で見守ってきた母のファジャさんが語る。

「2016年にボミが2年連続で賞金女王のタイトルを獲ったあと、(彼女は)オフもすごく疲れていました。加えて、2017年のシーズンが始まっても調子が上がらなかったのは、相当な重圧があったからだと思います。試合で勝たなければいけないというプレッシャーもそうですが、一番は『ファンの期待に応えなければいけない』という責任感です。それが強すぎて、結果が出ないと(彼女は)どんどん落ち込んでしまって……」

 キャディーの清水氏もこう振り返る。

「ボミは、ストレスを発散して調子を上げるタイプではありません。(逆に)成績を上げたり、優勝したりして、ストレスを発散していくタイプ。(彼女は)スコアが悪いと、ゴルフを楽しめていないことがよくわかりました」

 ゴルフを楽しめていなければ、試合をしていても楽しくないのは当然だった。昨季は、イ・ボミのトレードマークである、弾けるような笑顔があまり見られなかったのもよくわかる。

 それでも、イ・ボミは苦しいシーズンを最後まで戦い抜いた。そして12月初旬には、実家がある韓国・水原で開催された韓国のファンクラブ主催の忘年会に参加した。

 イ・ボミだけでなく、母ファジャさんら親族も参加し、食事を楽しみながら多くのファンとの交流を図った。数々の余興も行なわれ、会場内は終始笑いが絶えなかった。

 その中で、イ・ボミも非常にリラックスしていた。日本では見られないような、柔らかい表情で、眩いばかりの笑顔を振りまいていた。多くの方々から声をかけられ、彼女の人徳の高さ、誰からも愛される姿がとても印象的だった。

 大いに盛り上がった会が終わりを迎える頃、イ・ボミに少し話を聞いた。2018年はどのようなシーズンにしていきたいのか、それだけはどうしても聞いておきたかった。

「(2017年シーズンは)他の選手たちが試合に全力投球しているのに、私ひとりで『これぐらいでいいいかな』と言ったら大げさですが、そうやって自分のプレーに満足してしまう部分がありました。そんな状態でしたから、他の選手よりも、私の成績や結果が落ちるのも当然です」

 2017年シーズンは、戦いの舞台におけるイ・ボミと他の選手との意識が違った。にもかかわらず、自らを奮い立たせることができなかったことを、彼女は悔やんでいた。

 ただ、そうした状況にあっても、新たに気づいたこともあったという。

「ゴルフを楽しむ」ということだ。

 苦悩のシーズンの中で「ゴルフを楽しむ」という言葉の意味、その概念を再認識した。そして2018年シーズンでは、そのことをきちんと意識していきたいという。

「もちろん、今までも『ゴルフを楽しみたい』という気持ちはありました。でも、これまで自分が思っていたことと、本当の意味での『ゴルフを楽しむ』ということとは少し違いがあったかもしれません。試合をすることにおいては、もっと自分に厳しくしていかなければ、試合をする必要がないような気がしますし、『ゴルフを楽しむ』こともできないと思います。(2017年は)そのことを強く感じた1年でした」

 ゴルフを楽しむ――そのためには、練習でも、試合でも全力を出し切らなければいけない。そして、自らに厳しくなければいけない。他人よりも楽をして、集中して戦うことができなければ、本当に楽しむことなどできない。その重要性に、イ・ボミは改めて気づいた。

 周囲では、「イ・ボミはもう燃え尽きた」という声も囁かれている。だが、彼女にはまだまだ戦う意欲がある。勝ちたいという欲求も強い。

 2018年シーズンでの巻き返しへ、イ・ボミは密かに燃えている。