「紅き王者」がその優勝回数をさらに積み上げ、前人未踏のV9を達成――。 1月7日、全国大学ラグビー選手権の決勝が東京・秩父宮ラグビー場にて行なわれた。8連覇中の帝京大は19年ぶりに決勝進出を果たした明治大と対戦。予想外の苦戦で前半リード…

「紅き王者」がその優勝回数をさらに積み上げ、前人未踏のV9を達成――。

 1月7日、全国大学ラグビー選手権の決勝が東京・秩父宮ラグビー場にて行なわれた。8連覇中の帝京大は19年ぶりに決勝進出を果たした明治大と対戦。予想外の苦戦で前半リードを許すものの、後半に入って13点差をひっくり返し、9年連続9回目となる大学日本一の栄冠に輝いた。



帝京大の9連覇に貢献したWTB竹山晃暉(左から3人目)

 勝敗を分けたのは、勝負どころの集中力と、そしてこの決勝が大学最後の試合となる4年生の底力だった。

 リードされた状況から1トライを返して14-20で迎えた後半20分、帝京大はミスを犯してゴール前まで攻め込まれるものの、No.8(ナンバーエイト)吉田杏(よしだ・きょう/4年)が相手のボールを奪って反則を誘う。そこからクイックタップ(チョン蹴り)で一気に攻め込み、連続攻撃から副将のFB(フルバック)尾崎晟也(おざき・せいや/4年)が抜け出すことに成功した。

 そして、最後も4年生。大学生活の多くをケガで苦しみ、初めて決勝の舞台を踏んだCTB(センター)岡田優輝(4年)がピック&ゴーで中央に飛び込み、明治大との勝負を決した。

「あれが帝京大の4年生の姿です。まだまだ自分とは差があります。来年、(決勝の舞台で)後輩に『竹山がいてよかった』と言ってもらいたい」

 4年生の活躍を目の当たりにした3年生のWTB(ウイング)竹山晃暉はこう語る。

 帝京大の主軸を担う竹山は、決勝でのゴール成功率が100%だったにもかかわらず、試合後に満足した表情を見せることはなかった。なぜならば、前半15分には相手WTBにかわされてトライを許し、得意のアタックでも相手ディフェンスのプレッシャーの前にいい場面を作ることができなかったからだ。

「9連覇を目標にして、それを達成することができたのはうれしいです。ですが、個人として外を切られる部分が2~3回あり、いいパフォーマンスができなかった。チームのために身体を張ることができなかったことが反省点です。チームのみんなに助けられたゲームになりました」

 1年生から主力として試合に出場している竹山は、今年度も圧巻のパフォーマンスを見せ続け、春から公式戦負けなしで優勝まで駆け上がった。関東大学対抗戦では9トライ&140得点でトライ王と得点王に輝き、大学選手権でも決勝の3ゴールを含めて3試合で計65得点(6トライ・16ゴール・1ペナルティゴール)。突出した数字を叩き出し、大きな存在感を示した。

 昨年3年生となった竹山には、ふたつの大きな変化があった。まずひとつは、昨年度までSO(スタンドオフ)/CTB松田力也(現パナソニック)が務めていたキッカーに指名されたことだ。

 その役割は、この決勝でもきっちりと果たしたといえる。

「(トライ後の)2点の重みというプレッシャーはありました。ただ、今日のトライはどれもゴールに近かったので、もうちょっと難しくてもいいと思うくらいにハングリーで、ゴールはどんな状況でも決めよう、ペナルティがあれば(ペナルティゴールを)狙ってやろうと思っていました」

 毎日のキック練習が、大舞台でも揺るがない自信の礎(いしずえ)になったという。

 そしてもうひとつは、「ボード」と呼ばれる3年生の学年リーダーになったことだ。

「後輩は自分の発言や行動を見ているので、(指示が)口だけになってしまうと信頼は得られない。上級生になって、帝京大ラグビー部をもっとよくしていきたいという考えが生まれてきました」

 3年生になって、練習前後のグラウンドの掃除を率先して行なうようになった。また、後輩3人と一緒に暮らしている寮の部屋でも毎朝の点呼後に掃除し、常に綺麗な状態にしているという。

 さらにオフには、「あまり好きではなかったですが、負けず嫌いなので後輩に負けたくない(苦笑)」と、ウェイトトレーニングにも積極的に取り組んだ。その結果、体重84kgで体脂肪12%という理想的な身体となり、入学直後は70kgほどしか上がらなかったベンチプレスも135kgまで上げられるようになった。

 つまり、常勝軍団を引っ張るリーダーのひとりとしての自覚と責任感が、心身ともに成長をうながしたというわけだ。

 そんな竹山は来年度、最上級生となる。3年前、御所実業(ごせじつぎょう/奈良県)の一員として全国高校ラグビー選手権に出場し、決勝で東福岡(福岡県)に敗れたとき、悔し涙を見せながらこのように語っていた。

「この悔しさを晴らすために、帝京大に進学して10連覇を達成します!」

 来年度は竹山にとって、いよいよそのチャレンジが始まる。

「やっと10連覇に向かっていくスタートラインに立つことができました。口には言えないくらいのプレッシャーはあると思いますが、初優勝から先輩たちがつないでくれた連覇を『10』につなげていきたい」

 そして個人的な課題として、竹山はこう語る。

「自分のいいところとダメなところを徹底的に分析して、来季に向かっていきたい。また、ディフェンスを克服しないと10連覇は見えてこないので、自分に厳しくいきたい」

 この決勝戦が学生最後の試合となった4年生の尾崎も、最上級生となる竹山に大きな期待を寄せている。

「プレーとしては文句の言いようがないので、チームの先頭に立って引っ張ってほしい」

 4年生となった竹山にはプレー面だけでなく、リーダーとしての役割も要求されるだろう。来年度、竹山は高校時代の発言を有言実行し、V10を達成して優勝カップを掲げることができるか。