レギュラーシーズンの4分の1が消化した2017-2018シーズンのNBA。連日、激しい順位争いが続いているが、今回は昨今の「あるトレンド」について触れてみたい。ナイジェリア人の両親を持つギリシャ出身のアデトクンボ「108/450」 これは…

 レギュラーシーズンの4分の1が消化した2017-2018シーズンのNBA。連日、激しい順位争いが続いているが、今回は昨今の「あるトレンド」について触れてみたい。



ナイジェリア人の両親を持つギリシャ出身のアデトクンボ

「108/450」

 これは、2017-2018シーズンの開幕ロスター登録選手数のうち、海外出身選手の占める割合だ。開幕ロスターの海外出身選手登録が100人を超えたのは4季連続で、今季の登録選手の出身国数42ヵ国はリーグ最多記録になる。

 海外出身選手はNBA全30チームすべてで登録されており、トロント・ラプターズとユタ・ジャズには最多7人もの海外出身選手が在籍。さらに、今季から各チーム2名までGリーグ(※)でシーズンを過ごしながらNBAチームでも45日間プレーすることができる「2ウェイ契約」が結べるようになり、5人の海外出身選手がこの契約を結んでいる。

※Gリーグ=NBAゲータレードリーグの略称。将来のNBA選手を育成する目的で発足。

 この108人のなかには、オーストラリア生まれのカイリー・アービング(ボストン・セルティックス/PG)など、アメリカ国籍を有する選手も含まれている。それでも、いまや世界のどこで生まれても能力さえあればNBAへの道はつながる時代になったと言っていいだろう。

※カッコ内は昨季レギュラーシーズン成績。ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 過去5年間でドラフト全体1位指名された選手も、3人は海外出身選手だ。

 2013年のアンソニー・ベネット(ノーザンアリゾナ・サンズ/Gリーグ/PF)と、2014年のアンドリュー・ウィギンス(ミネソタ・ティンバーウルブズ/SF)は、ともにカナダ出身。2016年のベン・シモンズ(フィラデルフィア・76ers/PG)はオーストラリア出身だ。2015年にドラフト全体1位指名されたカール=アンソニー・タウンズ(ティンバーウルブズ/C)はアメリカ生まれだが、母親はドミニカ人で、ドミニカ共和国のナショナルチームに選出されたことがある。

 さらに、2019年ドラフトで全体1位指名が最有力視されている選手もカナダ出身。R.J.バレット(SG)は17歳ながら今夏に開催されたU19世界選手権の準決勝で38得点を記録してアメリカ撃破の立役者となり、カナダを初優勝に導いて大会MVPにも輝いた。現在、バレットはカメルーン出身のジョエル・エンビード(76ers/C)や前述のベン・シモンズらが輩出したフロリダの名門モントヴェルデ・アカデミー高校に通っている。

 海外出身といっても、世界中の有望選手は早くから渡米し、アメリカの名門高校や大学でプレーする流れがすでに定着している。また、アメリカ以外で育った選手であっても、最先端のテクニックやトレーニング法などあらゆる情報は世界中に瞬時に拡散される。こんな時代に出身地で選手をカテゴライズするのはナンセンスなのかもしれない。

 ただ一方で、世界中の技術やトレーニング法が画一化したことに一抹の寂しさを覚えるオールドファンもいるのではないだろうか。

 かつては、そのプレースタイルと強烈な個性で、出身国もしくは出身地域が想像できる時代があった。

 アメリカの大学でのプレー経験がなく、最初に名を馳せたヨーロッパ出身選手の代表といえば、1989年にNBAデビューを果たしたドラゼン・ペトロヴィッチ(クロアチア/SG)とサルナス・マーシャローニス(リトアニア/SG)だ。両選手はテクニックに優れ、かつ激しい闘争心を持ち合わせおり、「ヨーロッパ出身アウトサイドプレーヤー」のイメージを定着させたと言っていいだろう。

 初期のヨーロッパ出身のガードが「うまくて強い」という印象なら、ヨーロッパ出身のビッグマンは「デカくてうまい」というイメージがしっくりくる。

 1989年にロサンゼルス・レイカーズに入団した旧ユーゴスラビア出身のブラデ・ディバッツ(セルビア)は、216cmながらミドルレンジからもシュートを放ち、ガードのようなパスをさばく技術も持ち合わせていた。「ヨーロッパ史上最高のセンター」と呼ばれ、1995年にNBA入りしたアルヴィーダス・サボニス(リトアニア)も、221cmの長身ながら秀でたパスセンスと高いバスケIQを兼ね備えた選手だった。

 一方、アフリカ出身のビッグマンでは、1984年にヒューストン・ロケッツに入団したナイジェリア出身のアキーム・オラジュワンが有名だろう。オラジュワンは俊敏なステップで得点を量産し、のちに殿堂入りも果たした名センターだ。

 ただ、アフリカ出身センターのイメージといえば、1985年にワシントン・ブレッツ(現ウィザーズ)に入団した南スーダン出身のマヌート・ボルや、1991年にデンバー・ナゲッツに入団したコンゴ民主共和国出身のディケンベ・ムトンボといった「ディフェンス特化型センター」を思い浮かべるファンも多いかもしれない。ちなみに、オラジュワンのライバルだったパトリック・ユーイングはジャマイカ出身だ。

 そして1990年代に入ると、さまざまな国々出身の多彩な選手がNBAでプレーするようになる。1993年には全ポジションをこなすことができた万能型のトニー・クーコッチ(クロアチア)がシカゴ・ブルズに入団。1996年にはカナダ出身(生まれた場所は南アフリカ共和国)のスティーブ・ナッシュ(PG)がフェニックス・サンズに加入し、2005年と2006年に2年連続でシーズンMVPを獲得している。司令塔であるポイントガードのポジションも、ついにアメリカ出身選手の聖域ではなくなった。

 その後、1998年には大きくてシュートのうまい「近代ヨーロッパバスケの典型的選手」プレドラグ・ストヤコヴィッチ(クロアチア/SF)がNBAデビューを果たす。そして1999年、抜きん出たシュート技術と高さと強さを兼ね備えたドイツ出身のダーク・ノビツキー(ダラス・マーベリックス/PF)が登場する。

 21世紀に入ると海外出身選手特有のプレースタイルは徐々に影を潜めていったが、最後に異文化の香りを放ったのは、2002年にヨーロッパ経由でNBA入りしたアルゼンチン人のマヌ・ジノビリ(サンアントニオ・スパーズ/SG)ではないだろうか。NBAデビュー早々、「ジノビリステップ」と呼ばれた進行方向を瞬時に変える独特のステップで異彩を放った。今では「ユーロステップ」と呼ばれるようになり、世界中の選手が使うテクニックとなっている。

 現在、ヨーロッパ出身ビッグマンの「デカくてうまい」というDNAは、パウ・ガソル(スパーズ)とマーク・ガソル(メンフィス・グリズリーズ)のスペイン出身のガソル兄弟や、セルビア出身のニコラ・ヨキッチ(ナゲッツ)に引き継がれている。また、ペトロヴィッチやマーシャローニスの系譜も、スロベニア出身のゴラン・ドラギッチ(マイアミ・ヒート/PG)が継いでいるように思える。

 しかし近年のNBAは、いよいよ新時代に突入した感が強い。大きく、強く、速いのは当たり前。シュート力のみならず、パス、ドリブル、さらにはディフェンスにおいても高いスキルを持ち合わせる、まさに過去の海外出身選手のすべての個性を持ち合わせたような3人の怪物がリーグを席巻しようとしているのだ。

 まずは、ラトビア出身のクリスタプス・ポルジンギス(ニューヨーク・ニックス/PF)。2015年のNBAデビュー時からノビツキーと比較されることも多かった選手だ。

 ノビツキーが213cmなのに対し、ポルジンギスは221cm。ポルジンギスは今季リーグ8位の平均25.5得点を記録している(12月12日現在)。第3週にはプレーヤーズ・オブ・ザ・ウィークに初選出され、11月5日のインディアナ・ペイサーズ戦ではキャリアハイの40得点を挙げた。

 もちろん、まだノビツキーのテクニックには及ばないが、22歳という年齢を考えれば伸びしろしかない。ノビツキーと同等の技術を身につけた日には、ポルジンギスはまさにアンストッパブルな存在となるだろう。

 一方、カメルーン出身のジョエル・エンビード(76ers/C)は今季リーグ15位の平均23.5得点を記録。11月15日のレイカーズ戦では46得点・15リバウンド・7アシスト・7ブロックという驚異のスタッツを残している。

 オラジュワンを彷彿とさせる「ドリームシェイク」で相手ディフェンダーを翻弄するだけではなく、リングに正対した状態からドリブルで1on1を仕掛けることもできる。また、ミドルレンジからのシュートも得意で、時にはスリーポイントシュートも放つ。そのプレーエリアは、オラジュワンよりも格段に広い。

 最後に、今季のNBAをもっとも沸かせているといっていい存在がヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/PF)だ。

 ナイジェリア人の両親を持つギリシャ出身のアデトクンボは昨季、得点・リバウンド・アシスト・スティール・ブロックの主要5項目のスタッツすべてで上位20位に入るというNBA史上初の快挙を成し遂げた。今季は得点力がさらに向上し、現在リーグ2位の平均29.8得点を記録。10月21日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦ではキャリアハイの44得点をマークしている。

 好不調の波は激しいものの、まだ23歳。211cmの身長ですべてのポジション、すべてのプレーをリーグ最高クラスのレベルでこなす究極のオールラウンダーだ。「グリーク・フリーク(ギリシャの怪物)」と呼ばれるアデトクンボについて、ケビン・デュラント(ゴールデンステート・ウォリアーズ/SF)は「彼のような選手は見たことがない。彼なら史上最高の選手になれるかもしれない」と評価する。レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ/SF)も「彼は非常に力強く、技術も才能もある優れた選手。偉大な選手になる道を間違いなく歩んでいる。シーズンMVP受賞に導いてくれる、すばらしい指導者(ジェイソン・キッド)にも恵まれている」と絶賛している。

 NBAへの門戸は世界中に開かれている。しかし、だからこそ、あらゆる国からその門をくぐろうとする怪物たちが集結し、より狭き門となっている。しかし、そうだとしても近い将来、出身国の欄に「JAPAN」と書かれた選手が出現することを願ってやまない。