12月3日に幕を閉じた、全日本バレーボール大学男子選手権大会(インカレ)。第70回を迎える今大会は、全日本のエース・石川祐希と、同じく全日本の大型新人である大竹壱青(いっせい)が共に4年生となった中央大学の「4連覇達成」が確実視されて…
12月3日に幕を閉じた、全日本バレーボール大学男子選手権大会(インカレ)。第70回を迎える今大会は、全日本のエース・石川祐希と、同じく全日本の大型新人である大竹壱青(いっせい)が共に4年生となった中央大学の「4連覇達成」が確実視されていた。
準決勝で筑波大に敗れ、呆然とする石川
ただ、今年は過去3年の大会とは状況が違っていた。そのひとつは、石川と大竹が10月から海外のリーグにレンタル移籍しており、インカレのためだけに一時帰国したということ。もうひとつは、石川が今年9月に行なわれたグラチャンバレーで負傷し、そのケガが完治していないまま大会を迎えたことだ。
石川は1年時と3年時もイタリアへのレンタル移籍を経験しているが、どちらもインカレが終わってからの移籍だった。だが、インカレ後の参加では、イタリアリーグ(セリエA)の開幕に間に合わずにレギュラー争いで不利になることから、今年はグラチャン終了後すぐにイタリア入り。シーズンを通して勝負するために、石川は同期の中央大のチームメイトに了解を得てインカレに参加しない予定だったが、結局は4連覇のために帰国を求められた。
大竹も石川と同様の動きをとることになり、ふたりはインカレ開幕の約1週間前に帰国して本番に臨んだ。今年のインカレはシードがなく、大会3連覇中の中央大も1回戦から登場。ケガが完全に治っていなかった石川は、1回戦では第1セットのみ、2回戦では第2セットまで出場。3回戦でも第4セットは温存されるなど、プレーしながら感覚をつかんでいく状態だった。
準々決勝の東京学芸大に勝利した後、石川は「4連覇ということは、あまり考えていません。今のメンバー、スタッフでやれる最後の大会を優勝するということだけを考えてプレーしています」と語り、続けて「最大であと2試合しかできないので、明日勝って、しっかり2試合できるように頑張ります……あれ?(準決勝で負けたら)3位決定戦ってあるんでしたっけ?」と笑いながら頭をかいた。3位決定戦があることすら知らない、もしくは忘れていたという事実からも大会3連覇の重みが感じられた。
準決勝が行なわれる12月2日の朝、中央大との対戦を控えた筑波大の秋山央監督に話を聞くと、「四面楚歌ですが、頑張ります」と、にこやかな笑顔が返ってきた。その言葉通り、会場の大田区総合体育館を埋め尽くす大観衆のほとんどが”石川祐希がいる中央大の4連覇”を望んでいただろう。大声援に後押しされた中央大は、第1セットをデュースの末に取り、第2セットも筑波大の5点のリードをひっくり返した。決勝進出がかかった第3セットも序盤をリードし、中央大がこのまま4連覇に突き進むと思われた。
だが、筑波大の選手たちは諦めなかった。高校時代に石川のチームメイトとして史上初となる2年連続の高校3冠を達成した、主将でセッターの中根聡太は、「中央大は祐希がいて強いけど、今年こそは絶対に負けない」という強い気持ちで試合に臨んでいた。サイド攻撃とクイック、バックアタックを織り交ぜて中央大のブロックを分断。第3セット中盤で大竹のスパイクがネットを越えないなどのミスも重なり、一気に逆転する。
その後はジリジリと差をつけ、25-20で1セットを取り返した。第4セットは中盤までシーソーゲームだったが、筑波大がサーブで攻め続けて18-12とリードしたところで、中央大の松永理生監督は石川を下げて第5セットに備えた。Ⅴ・プレミアリーグや国際大会でもよく見られるこの采配は、「次のセットに備えてエースを温存したほうがいい」「いや、緊張の糸を切らさないよう、点差のついたセットでも可能な限り出し続けたほうがいい」と意見が分かれるところだが、今回は裏目に出てしまう。筑波大の選手たちは、第4セットを取った勢いで第5セットもモノにした。
中央大との試合ですべてを出し尽くした筑波大は、決勝で早稲田大にストレート負けを喫した。試合後、秋山監督は「本当に、漫画のスラムダンクのようになってしまいましたね。でも、学生たちは精一杯やってくれたので悔いはないです」とコメントを残し、晴れやかにインカレを終えた。
一方、準決勝でのまさかの逆転負けに、中央大の選手たちはしばらく呆然としていたが、石川は「筑波大の粘り強さにスキをつかれた。明日は大学最後の試合なので、勝って終わりたい」と必死で気持ちを切り替えた。そして翌日の試合で東海大をストレートで下し、3位入賞を果たした試合後、顔を両手で覆って泣き崩れた。
3位決定戦に勝利した後に目を潤ませる石川
3位決定戦の勝利者インタビューでも、「チームメイトのために、スタッフのために……」と、答えている途中で言葉に詰まり、嗚咽が漏れた。これは1年前のリオ五輪最終予選で敗退したときにも見られなかった光景で、その涙に石川の4年間の全てが凝縮されていた。
「大学最後の試合を勝って終われてよかったです。これまではチームメイトやスタッフのためにプレーしてきましたが、これからは自分のためにプレーしようと思います。イタリアに戻って今季はラティーナで活躍し、他のチームからも声をかけられるような選手になりたいです」
海外でプロ選手として活動することを目指すという石川は、卒業式には出ず、そのままセリエAでプレーするという。東京五輪で日本代表を勝利に導く絶対エースとなるために、世界を相手に戦う石川の今後に注目したい。