バスケットボール日本男子にとって、2019年に開催される、ワールドカップの出場権をかけたアジア予選の最初の戦いが11月24日と27日に行なわれた。アジアにある『7枠』の切符をつかむために、1年3カ月をかけてホーム&アウェーで戦う新方式…

 バスケットボール日本男子にとって、2019年に開催される、ワールドカップの出場権をかけたアジア予選の最初の戦いが11月24日と27日に行なわれた。アジアにある『7枠』の切符をつかむために、1年3カ月をかけてホーム&アウェーで戦う新方式の予選は、ホーム東京でフィリピンに71-79、アウェーでオーストラリアに58-82で完敗し、2連敗する厳しい船出になった。



エースとして厳しい戦いを目の当たりにした比江島慎

 フィリピンはFIBA(国際バスケットボール連盟)ランキング30位、オーストラリアは9位。50位の日本にとっては格上の相手である。どちらの試合も激しい攻防でのぶつかり合いに体力が削られ、終盤にはガス欠になる様子が明らかに見て取れた。

 また、「全員でボールをシェアして動いてチャンスを作り、全員でリバウンドを取りにいく」(フリオ・ラマスヘッドコーチ/以下HC)という攻防を目指してはいるものの、組織的には攻められず、結局はエース比江島慎の1対1頼みになってしまう問題も解決されてはいなかった。

 とくに、この一戦にかける思いで臨んだホームのフィリピン戦で、警戒していたエースガードのジェイソン・ウィリアムに勝負どころでシュートを決められ、帰化選手のアンドレイ・ブラッチが持つ210cmの高さの前に苦戦した展開は、2年前のアジア選手権と変わらぬ光景だった。

 選手たちがフィリピンに対し「勝てた試合だった」というのは分析が甘すぎる。「やられてはいけない時間に、やられてはいけない選手(ウィリアム)にやられた」(比江島)のだから、勝利を手繰り寄せるだけの力は及んでいない。オーストラリアに対して33分間、食らいつけたことは前進に見えたが、2試合を終え、代表強化を統括する東野智弥技術委員長は「集中力も出てきたし、進歩はしている。でもまだチーム力が浅い」という言葉で現状を示した。勝負どころで自ペースに持っていく両国の成熟度を前にして、日本のバスケはまだ若い、と言わざるを得ない。

 日本は何が足りないのだろうか。格上の相手から見せつけられた執念がその答えを示していた。この2連戦でこんなシーンがあった。

 フィリピンは、残り1分を切って勝利を目前とした中で、ビンセント・レイエスHCが悔しそうに脚を蹴り上げた。8点差で勝っていたにも関わらず、残り0.2秒で日本にボールを奪われたうえに、フリースローまで与えた終わり方に納得がいかず、指揮官は激高したのだ。そして残り0.2秒のタイムアップ寸前に作戦タイムを請求。順位がもつれた場合は得失点差が関係してくるだけに、もうワンプレーで得点を取るためのものだった。

 フィリピンはバスケットボールを国技としている。プロリーグのファイナルに5万人以上の観客を集める熱狂ぶりは、世界有数のバスケ大国といっていい。ワールドカップに絶対に出なければならない使命と、国民の期待を背負っている重圧が感じられたシーンだった。

 今回からアジア予選に加わったオーストラリアは、NBA選手が不在だったとはいえ、アジアでは頭ひとつ抜けている。2013年から采配を振るうアンドレイ・レマニスHCのもと、8月のアジアカップ時より強くなったコンタクトプレーを押し出して日本を退けにきた。そんな強豪国が、日本以上にボールに執着心を見せて奪ったシーンには感服するしかなかった。

 日本にも国際大会のキャリアを積んできた選手はいる。けれど一向にチームが熟さないのは、これまでの代表の歴史に『継承』されるものがないからだ。

 2014年から昨年までの2年間、指揮官を務めた長谷川健志時代には、戦う集団になることをモットーとし、アジア4位まで上りつめることはできた。しかし、自国で開催した2006年の世界選手権(現ワールドカップ)以後、指揮官が変わるたびに強化策が途切れたことにより失われた10年を取り返すまでには至らず、2016年のオリンピック世界最終予選では、強豪相手にまったく太刀打ちできない姿に、失われた時間の長さを感じるしかなかった。

 今回対戦したフィリピンを例にとれば、チーム力が継承されてきた歴史が日本とは違う。

 フィリピンは2000年代中盤まで国内で内紛があったが、FIBAの制裁が解けた2007年のアジア選手権に復帰すると、日本の8位とほぼ同位置の9位から再出発し、そこからは急激な発展を遂げている。セルビアから指導者を招き入れ、そのコネクションを生かして海外遠征を積み、リーグと協力体制を作ってアジアの様々な国際親善大会に選手を送り出しては育成し、国内外にいるアメリカ系フィリピン選手を発掘し、最終的にはインサイドに強力な帰化選手を呼び入れた。

 そうして急速にチーム力をつけていったフィリピンが、簡単にアジア上位にのし上がったわけではない。フィリピンの行く手を阻んだのは、これまたアジアの強豪である韓国だ。何度も何度も韓国に跳ね返されながらも立ち向かい、ようやく勝てたのが、ホームで開催した2013年アジア選手権の準決勝。現在30代の選手たちは、フィリピンが躍進する過程の生き証人として今のチームに引き継いでいる。だから簡単には崩れない。日本にはそうした強化の積み重ねがない。これが『チーム力の浅さ』に出ている。

 今年の夏に就任したフリオ・ラマスHCは、2012年のロンドン五輪で母国アルゼンチンをベスト4に導いた実績の持ち主である。しかし就任してまだ4カ月。本人も「今は日本の全選手、全チームのバスケを見て、日本のバスケを知るプロセスの最中」だと話す。ベンチ采配を見ても、まだ選手との共通理解は明確ではなく、試行錯誤といったところである。それでも、南米からやってきた指揮官はこの数カ月で日本選手の生真面目な取り組みを見て、確信を持ったという。

「日本は今ようやくプロリーグができたところ。国内リーグで競い合うことで必ず実力を上げていく。アルゼンチンもそうだった。またオフには海外遠征を積んで強化するプランを立てている。専門のフィジカルトレーナーも加わり、体を強くしていく。このような正しいやり方を積んでいけば、力は必ずついていく。ただ、結果を出す時期がいつなのかはわからない。今はとにかく、努力し続けることだ」

 バスケットボールのオリンピック競技は12カ国しか出場できず、開催地枠を保証していない競技である。日本が開催地枠を得るには、まずアジアで結果を出す必要があり、ワールドカップへの出場は最低条件とされている。何より、開催国が五輪に出ないという事態は、競技の普及や育成のためにも、立ち上がったばかりのBリーグの発展のためにも避けなければならない。

 どこの国も躍進の陰には積み上げてきた歴史があるように、日本も1年3カ月をかけた試練に立ち向かうことで成長物語を築いていく必要がある。ファンはホームで成長を分かち合い、進歩がない場合は叱咤激励すればいい。そしてその成長の先には、2019年2月の最終決戦で『出場権獲得』という結果が求められる。次の決戦は2018年2月22日と25日。絶対に負けられないチャイニーズ・タイペイをホームに迎え、フィリピンとはアウェーで戦う試練が待ち受けている。