“大鵬3世”がアマチュア相撲日本一に挑む。 12月3日、両国国技館で行なわれる「全日本相撲選手権」には、「全国学生選手権」で学生横綱に輝いた日本大4年の中島望ら、2017年のアマ相撲で好成績を残した68選手が参加…
“大鵬3世”がアマチュア相撲日本一に挑む。
12月3日、両国国技館で行なわれる「全日本相撲選手権」には、「全国学生選手権」で学生横綱に輝いた日本大4年の中島望ら、2017年のアマ相撲で好成績を残した68選手が参加予定だ。そんな最高峰の大会に、埼玉栄高3年の納谷幸之介(なや・こうのすけ)が出場する。
愛媛国体(少年男子)で、個人と団体の2冠を達成した納谷
祖父が昭和の大横綱・大鵬で、父が元関脇・貴闘力。まさに最強の遺伝子を持つ納谷は、10月の愛媛国体の少年男子個人で優勝し、全日本選手権の出場権を獲得した。卒業後は、祖父が興した「大鵬部屋」の流れを汲む「大嶽(おおたけ)部屋」への入門が決定している。高校生活の集大成となる大会を前に、「やることはやってきたので、それだけを出せるようにしたい」と力強く語った。
今年で66回目を迎える全日本選手権。過去に高校生で優勝したのは、32回大会(1983年)の当時、新宮高3年だった久嶋啓太(後の幕内・久島海=先代の田子ノ浦親方)ただひとり。43回大会(1994年)で鳥取城北高3年の田宮啓司(元大関・琴光喜)が準優勝、34回大会(1985年)の明大中野高3年・齋藤一雄(現日体大相撲部監督)と、53回大会(2004年)の埼玉栄高3年・澤井豪太郎(現大関・豪栄道)が3位に入ったのみだ。
それだけ、高校生が勝ち抜くのは厳しい戦いである全日本選手権は、予選で優秀な成績を収めた16選手によるトーナメントで日本一を決める。納谷に目標を聞くと、社会人や大学生を相手に高校生が苦戦してきた歴史も踏まえて、「まずは予選突破できるように頑張っていきたい。そこからは流れでいきたい」と謙虚に答えた。
一方で、納谷を中学1年から指導してきた埼玉栄高相撲部の山田道紀監督は、「目標は優勝です」と断言する。「優勝の可能性はゼロではない。足で持っていけば勝負になると思います」と、34年ぶりとなる高校生アマ横綱の誕生に大きな期待を寄せた。
山田監督の自信の理由は、納谷の目覚ましい進化にある。今年8月のインターハイでは決勝トーナメント1回戦で敗れたが、「インターハイが終わってから一気に伸びてきました。インターハイでは、『勝たなくてはいけない』というプレッシャーがあったんでしょう。それから解放されたことで、一気に肉体が進化しましたね」と振り返る。
進化の礎(いしずえ)は、中学1年から6年計画で取り組んできた筋力トレーニングにある。埼玉栄高の相撲部は、プロトレーナーの岡武聡氏と15年前から契約し、土俵での稽古と筋力トレーニングの両方を部員に課している。
相撲の特性に合わせたトレーニングを徹底的に研究した岡武氏は、立ち合いに必要な瞬発力、一気に相手を土俵の外に持っていくための筋力を強化するために、独自のメニューを考案してきた。そのひとつである、タイヤを押しながらのすり足は、単純に長い距離を長い時間かけて押すのではない。タイヤの重さを150kgに設定し、土俵の直径4m55cmの距離を想定した短い距離を一気に押すことで、瞬発力と筋力を同時に鍛えるメニューとなっている。
そういったトレーニングのおかげで、納谷は中学2年の3月で55kgしか上げられなかったベンチプレスを、今では170kgをクリアするまでに進化した。さらに、中学1年時に身長170cm、体重134kgだった体は190cm、162kgと成長。体脂肪率は64.8%から40%を割るまでに減り、脂肪は筋肉に変わった。
「中1のときは体が大きいだけで、中身はない子供だった。そこから中学3年間で自分の体をコントロールできる筋力を作り、高校に入ってから体に負荷をかけるトレーニングを積んだことで、去年の秋頃から成果が出て、今は二次曲線のように進化している」
そう話す山田監督は、自らが指導してきた豪栄道、妙義龍、貴景勝らと比べても、「高校3年時のパワーは、比較にならないぐらい納谷がすごい」と賞賛する。納谷は、相撲部の合同でのトレーニングに加え、1年ほど前から独自に考案したメニューも行なっており、インターハイ後に「体重が10kg増えた」と明かす。
「立ち合いで当たったときの感覚も全然違います。手を伸ばしても相手に力が伝わるし、引かれても足がついていくようになりました。(優勝した国体は)筋力もすごくついていたので、自信はありました。最後まで自分の相撲を取り切れたと思います」
納谷は、全日本選手権後に高校在学のまま大嶽部屋に入門した後は、新弟子検査を経て来年1月の初場所で初土俵を踏む予定だ。ちなみに、全日本選手権の優勝者は、大相撲の幕下15枚目格付け出しでのデビュー資格を得ることになる(ベスト8で三段目付け出し)。
したがって、もし納谷が優勝すると、初場所で史上初となる”高校生での幕下付け出しデビュー”が実現する。「強さは(他の大相撲の力士に)引けを取らないと思います」と期待する山田監督に対し、「気持ちだけは負けないように。期待に応えられるように頑張りたい」と意気込む納谷。九州場所では不祥事で大きく揺れ動いた角界に、大鵬3世が新たな希望を届けられるか。