日本バスケットボール界の期待の星である渡邊雄太は、カレッジ生活最後のシーズンでまずまずのスタートを切っている。最上級の4年生を迎え、ジョージ・ワシントン大学のエースを担う。3人いるキャプテンのひとりにもなった22歳のサウスポーは、開幕…

 日本バスケットボール界の期待の星である渡邊雄太は、カレッジ生活最後のシーズンでまずまずのスタートを切っている。最上級の4年生を迎え、ジョージ・ワシントン大学のエースを担う。3人いるキャプテンのひとりにもなった22歳のサウスポーは、開幕からの4戦で平均13.5得点、9.3リバウンド、3.5ブロックという好成績をマークした。



ジョージ・ワシントン大学のエースとして活躍する渡邊

 日本人選手として稀有(けう)な才能の持ち主である渡邊は、得点を取るだけではなく、守備、リバウンド力も備えたオールラウンダーとしての力をアピールしている。過去3年間で、平均得点も7.4→8.4→12.2と順調に伸ばしており、今季も素晴らしい成績を残すだろう。

 しかし――。ジョージ・ワシントン大はここまで2勝2敗。渡邊が19得点、11リバウンド、7ブロックと大爆発したハワード大との開幕戦は84-75で快勝したものの、FG(フィールドゴール=フリースロー以外の得点)が17本中5本しか決まらなかった11月10日のフロリダステイト大、15本中6本の成功に終わった11月20日のライダー大との試合は惜敗した。

「今年は、ディフェンス面では常に相手のエースをマークして、さらに自分が点を取って、リバウンドも取って、アシストもして……ベストプレーヤーとしてすべてに取り組んでいくつもりです」

 開幕前の時点で渡邊がそう語っていた通り、今季のチーム内での負担が大きいことは明らかだ。多くの選手が新たに加入したジョージ・ワシントン大は”再建途上”にある。それだけに、ベスト・ディフェンダーであり、最高のスコアラーでもある渡邊が大黒柱にふさわしい活躍をしなければ、勝利は遠ざかる。ここまでFG成功率38.5%、3ポイントシュートの成功率23.5%という数字は、まだ物足りない。勝ち星を増やしていくためには、渡邊には”まずまず”以上のプレーが義務づけられている。

 2014年にジョージ・ワシントン大でデビューし、日本人男子としてはNCAAのディビジョン1(1部)でプレーする、史上4人目の選手となった渡邊。 身長206cmながら、左右の動きは極めてスムーズで、シュート力、パスセンス、スキルまで備えた万能タイプだ。日本バスケットボール界の未来を担う素材であり、アメリカでも”NBAに最も近い日本人プレーヤー”と評されることが多い。

 しかし、アメリカでの階段を順調に上ってきた渡邊にも、まだ成し遂げていない目標がある。すべてのカレッジボーラーの夢、 NCAAトーナメントへの出場だ。

 バスケットボールファン以外も巻き込み、尋常ではない盛り上がりを見せることから、通称”マーチマッドネス(3月の狂気)”と呼ばれる同トーナメント。日本の甲子園に例えられることも多いが、アメリカでは大統領が公に優勝予想を展開するほどだから、その熱気はNCAAトーナメントのほうが一段上かもしれない。

 渡邊もこの”マーチマッドネス”への出場を1年生の頃から熱望してきたが、未だに実現できていない。昨季も惜しいところで届かず、ゴンザガ大の控え選手として決勝に進んだ八村塁に先を越される形となった。

「過去3年は本当に惜しいところまできて、出場できないままに終わっています。今年が最後のチャンス。これを逃したら、僕の人生の中でもう2度とNCAAトーナメントに出るチャンスはないので、なんとしてもトーナメントに出場したいですね」

 そう決意を述べる渡邊が悲願に近づくためには、間違いなく自身の”大活躍”が必要になる。個人の目標として、渡邊は「アトランティック10カンファレンスのプレーヤー・オブ・ジ・イヤー(MVP)」「ディフェンシブ・オブ・ジ・イヤー(最高守備選手)」の獲得を挙げていた。大きな目標にも思えるが、それくらいの覚悟が必要だということだろう。今季のジョージ・ワシントン大は決して前評判が高くないだけに、大黒柱がそのタイトルに値するほどの働きをしなければ上位進出は難しいのだ。

 もちろん、アメリカ大学バスケの層の厚さを考えれば、日本人選手がチームのエースとしてNCAAトーナメント出場に近づくだけでも快挙と言える。結果として出場に手が届かなくても、シーズンを通して優れた数字を残すことができれば、すでに高い評価を得ている八村とともに、渡邊もNBAのスカウトたちの視界に入ってくるはずだ。

「渡邊にもNBA入りのチャンスはある。そのために、まずは3ポイントシュートを高確率で決められるようにすること。また、守備面で左右により素早く動けるように、クイックネスを高めなければならない。今よりさらに筋肉をつけ、体力面でもこれまで以上に成長したことも示す必要がある」

 アメリカ東海岸を拠点にする代理人のひとりは、”NBAスカウトから注目されるための条件”としてその3つを挙げていた。今季の序盤戦での渡邊には、ディフェンス、フィジカルの面では確実な向上が見られるが、3ポイントシュートの成功率はそれほど高くない。渡邊本人も、自身の課題をしっかりと自覚している。

「上を目指すためにはシュート力が不可欠です。特にNBAにはいいPGがいるので、彼らが空けたスペースからオープンシュートを必ず決められるようにしなければいけません。あとはディフェンス面ですね。NBAではピック&ロールが多いなかで、PG(ポイントガード)からPF(パワーフォワード)まで守れるとなれば、(その多才さは)武器になると思います。それを僕の売りにしていきたいですね」

 より大きな舞台に向けて、自らの課題をひとつずつ克服していくと同時に、生き馬の目を抜くようなNCAAのディビジョン1で、 ひとつでも多くチームを勝利に導く。その2つをハイレベルで融合させることが、バスケットボール・プレーヤーとしての渡邊の明るい未来につながっていくことになる。

 マーチマッドネス出場やNBA入りという目標を達成することは険しい道だが、不可能ではない。日本が生んだ大器のキャリアを左右する重要なシーズンは、まった始まったばかりである。