往年のラグビーファンであれば、誰でも「日本の翼」として世界を駆け抜けたWTB(ウィング)吉田義人の勇姿を思い出すことができるだろう。 明治大学やラグビー日本代表のフィニッシャーとしてトライを量産し、世界選抜での伝説的なトライは今も語り…

 往年のラグビーファンであれば、誰でも「日本の翼」として世界を駆け抜けたWTB(ウィング)吉田義人の勇姿を思い出すことができるだろう。

 明治大学やラグビー日本代表のフィニッシャーとしてトライを量産し、世界選抜での伝説的なトライは今も語り草となっている。さらにプロ選手としてラグビー界の先駆者としてフランスリーグにもチャレンジするなど、常にラグビー界の先頭を走り続けた。

 そして、2004年に現役を引退した後は横河電機、明治大学で指導者としても辣腕を振るってきた。

 現在も2019年ラグビーワールドカップ日本開催を控えて、テレビの解説やコーチングなど積極的にラグビーに関わり続けており、このたび、自伝である『矜持 すべてはラグビーのために』(ホーム社)も上梓した。その吉田氏に、現在のラグビー日本代表はどう見えているのか、そして現在、どんな思いを抱いてラグビーに携わっているのかを聞いた。



ラグビーW杯の会場となる神奈川県・横浜市の特別サポーターを務めている吉田義人氏

――まず日本代表の話を伺う前に、このたび『矜持 すべてはラグビーのために』を出版されました。ご自身に関する本を出されたのは初めてかと思いますが、どのような心境からでしょうか?

 実は本の話は大学生だった頃から何度もいただく機会がありました。ただ、その時代のラグビー選手の本といえば、松尾雄治さんや平尾誠二さんのような、素晴らしい先輩方のものばかりだったので、20歳そこそこの自分は、出版の話をいただいても実感が湧かず遠慮させてもらっていました。

 それから、フランスでプロラグビープレーヤーとなったり、現役引退後に指導者として新たな活動に歩み始めた時など、その時々のターニングポイントでお話をいただくこともありましたし、「自分の人生でいつかは……」という気持ちは持っていました。

 今回、やはり2019年に初めてアジアそして日本でラグビーワールドカップが開催されることが決まったことや、編集の方の熱意に打たれたことがとても大きかったですね。

加えて僕は、明治大学で指揮をしていた恩師の北島忠治監督が94歳まで長生きされたので、僕もそれくらい、できれば100歳まで生きられればと思っているのですが、いまちょうどその半分くらいの48歳です。それで人生半ば、半生を振り返るよいタイミングじゃないかと思ったこともありました。
 
――タイトルの”矜持(きょうじ)”にはどんな思いが込められているのでしょうか?

 2009年に母校である明治大学ラグビー部の監督に就任した時の記者会見で僕の第一声が、「明治の矜持を取り戻すために吉田義人は来た」と発言させていただきました。

多くの明治大学のラグビーファンの期待を背負っているという思いがあって発した言葉だったのですが、その時から、今でもとても大切にしている言葉です。ですから、『矜持』を本のタイトルに決めました。

――多くのスポーツファン、ラグビーファンが吉田さんの話に関心を持っておられると思いますが、ご自身はどのような方々に読んでもらいたいですか。

 まず、子供を愛してやまないお父さん、お母さんに読んでほしいですね。いずれ自分の子供を世界にチャレンジさせたいという時に、なにかヒントやきっかけになるものになればいいなと思っています。もちろんなにかに挑戦しよう、世の中に貢献しようという気概や目的を持っている人達にも読んでもらいたい。僕自身が、実際に常にいろんなことにチャレンジしてきたので、この本を読んでさらにやる気を感じ、活力を持ってもらうことができれば嬉しいですね。

 あとがきにも書きましたが、ずっと応援してくださっている方々にも、ぜひ読んでほしいです。きっと僕のことはずっと見ていただいているからご存知でしょうし、いろいろなインタビューなどで自分を語ってはきましたが、どうしてもそれだと断片的になってしまうので、この本で「吉田義人はこういう人間だ」と再認識してもらえれば、嬉しいですね。 ですが、「えっ?」と驚かれることも、もしかしたらあるのではないでしょうか(笑)。

 また、僕の息子が大きくなった時にこの本を読んで「いろいろ話はしてきたけど、親父はこういう考えを持ってラグビー人生を歩んでいたんだな。息子として生まれてきてよかった」と感じてほしいという気持ちもありますね。
 
 ――先ほど、吉田さんの話にも出ましたが、2019年にラグビーワールドカップが日本で開催されます。日本代表でも2度ワールドカップに出場し、解説もされている吉田さんには今の日本代表はどう見えていますか?

 2015年のラグビーワールドカップで前ヘッドコーチのエディ・ジョーンズが結果を出しました。彼は自身が日本人の血を引いていることもありますが、日本のことをよく理解し、さらに勉強していたと思います。

 それで、『侍アイ』や『忍者ボディ』、そして『ジャパン・ウェイ』とオリジナリティのあるわかりやすい言葉で、チームの強化に励み、すごくいい流れを作ったと思います。

 そして、2016年、指揮官はニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフに変わりました。僕は日本で在籍していたサニックスのチームメイト(現・宗像サニックス)だったり、世界選抜に共に選出されてプレーしたこともあり、彼のことをよく知っています。ジェイミーらしい色を出していければ強くなっていくと思いますが、あとワールドカップ開幕まで2年を切りました、少し時間が足りないのではないかと心配もしています。

 他のライバル国も『エリス杯』を目指し、日本と同じか、もしくはそれ以上のスピードで強化を進めていると思いますので、決勝トーナメントに進むためには、選手とスタッフが心をひとつにして、すべての皆様の期待と応援を励みとし力に変えて、これから急ピッチでチームを確立させていかなければならないでしょう。

――選手選考や選手層はどうお考えでしょうか?

 キャプテンのリーチ マイケルなど、2015年のワールドカップで活躍した選手がリフレッシュして、いい緊張感を持ってやっているなと思います。彼らの経験値を軸に、成長してきた若手選手、さらにはラグビー先進国出身の外国人選手も加わって、選手層は厚みを増してきていると感じていますね。

――2019年にワールドカップが開かれるだけでなく、2020年には東京オリンピックと日本で大きなスポーツイベントが続けて行なわれます。

 ラグビーに関して言えば、真の意味で、ラグビー文化が日本に根付くことが大切だと思っています。世界中からたくさんのラグビーファンが訪れます、試合はもちろん、「日本自体が盛り上がっていた」「日本は素晴らしかった」と思ってもらえることが重要です。ワールドカップだけでなく、翌年は7人制ラグビーが開催されるオリンピックもあるので、一緒に日本全体で盛り上げていければよいのではないでしょうか。

――吉田さんは、15人制だけでなく、オリンピックの正式種目である7人制ラグビーの日本代表のキャプテンとしても活躍しました。

 両方プレーヤーとして世界で戦ってきた経験者の立場から言えば、同じグラウンドで行なうこの2つの競技は、サッカーとフットサルのように別ものだと考えています。ニュージーランドやオーストラリアなどの強豪国は、7人制と15人制と分けて強化しています。

 2019年のワールドカップ終了後は、日本においても、オリンピックを目指す選手とラグビーワールドカップを目指す選手がそれぞれ存在することになることと想像していますし、そうなるべきと思っています。
 
 僕自身はフランスでもプレーしましたし、ワールドカップや世界選抜など、世界の舞台を経験させてもらいましたが、今回はそういったワールドカップやオリンピックという世界のビックイベントが日本にやってきます。こんな機会は本当に滅多にないこと。ぜひ、日本の人たちにも”生”であの雰囲気を感じてほしいですよね!

――明治大学の監督を明治大学の監督を4年間務められた後、吉田さんは、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

 現在、横浜市に住んでおおよそ10年になります。そんな縁もあり、2019年ラグビーワールドカップの開催都市である神奈川県・横浜市の特別サポーターに就任させていただきました。横浜はワールドカップの準決勝、決勝を含め、7試合が行なわれるので、少しでも大会盛り上げのお手伝いができればと思って、精力的に活動しています。
 
 また、神奈川県と横浜市と一緒に、しんよこフットボールパークで子供から大人まで老若男女すべての人がラグビーボールに触れてもらうことでラグビーを楽しんでもらいたいと思い、ラグビー体験会を実施しています。もちろんグラウンドで頑張っている人たちの応援のみでも大歓迎ですよ(笑)。

 ラグビーが教育の柱となるスポーツになっていけば、子供たちの裾野も広がっていくのではないでしょうか。そして、2019年、2020年には世界中からラグビーファミリーがやってくるので、子供たちにはひとりでも多くの友だちを作るきっかけになることを期待しています。

――今後もこうした活動を続けていかれるのでしょうか。

 昨年、一般社団法人日本スポーツ教育アカデミーを発足し、理事長に就任しました。スポーツを通して、教育と健康という観点で未来の可能性を伸ばしていければと思っています。

 音楽とラグビーを融合させた「ラグビーリトミック」や、幼少期からラグビーに親しむプログラムからトップアスリートを目指す子供向けまで、ラグビーの楽しさを伝える「ラグビースカイパラダイス」。そして、陸上やレスリングなど、さまざまなスポーツも取り入れ、身体動作のバランス感覚を養成し、豊かな心を持つ人の育成を目的とする「ジュニアスポーツアカデミー」などを運営しています。

 僕は、子供たちは未来の財産だと思っています。2019年のワールドカップ、2020年のオリンピックに向けて、ラグビーの普及活動を続けることはもちろんのこと、今後はどんどん日本の子供たちがスポーツそして、ラグビーを通じて世界に果敢にチャレンジしていってほしい。その後押しをこれからも、し続けていきたいと思っています。

 日本から世界へ、常に新たなチャレンジを続けてきた吉田義人氏。その口から語られる未来を担う子どもたちへのメッセージには、世界を経験したからこそのものがある。ラグビーの魅力を伝え、そして子供たちが世界へ羽ばたく背中を押すことが、今の吉田さんの新たなチャレンジとなっている。



 

 

『矜持 すべてはラグビーのために』吉田義人

定価 ¥1600+税

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