「前半の日本の戦いを見る限り、各選手に一定の評価を与えられるような出来ではなかった」 ブラジル戦の感想を、ミケル・エチャリはそう言って端的に語っている。「チームとして無秩序だった。ブラジルのほうが明らかに格上だというのはあるにせよ、FW…
「前半の日本の戦いを見る限り、各選手に一定の評価を与えられるような出来ではなかった」
ブラジル戦の感想を、ミケル・エチャリはそう言って端的に語っている。
「チームとして無秩序だった。ブラジルのほうが明らかに格上だというのはあるにせよ、FWとDFのラインが間延びし、自分たちはスペースを有効に使えず、相手にはいいように使われてしまった」
ブラジル戦前半、押し込まれた日本は次々とゴールを破られた
エチャリの戦術眼はスペイン国内でも高く評価される。FIFA非公認ではあるが、バスク代表を率い、2015年12月にはバルサ中心のカタルーニャ代表をカンプノウで撃破している。その後、多くのクラブがバルサ対策としてエチャリの守備戦術をコピーしたほどだ。
「日本はプレッシングには精力的だったと言うことはできる。だが、プレッシングの捉え方そのものに誤りがあるのだ。気力、体力の問題ではない」
エチャリの分析は、今回も鋭利だった。
「立ち上がり、日本は高いプレー強度で挑んでいる。まずはブラジルのコンビネーションを崩そうと、敵陣内でプレッシングをかける。それによって、序盤はチャンスを作らせていない。
しかし、ブラジルはスモールスペースでプレスを回避できるスキルが日本の選手たちよりも上だった。その精度の高さによって、次第にボールをつなぎ、リズムを生み出していく。一方で、ブラジルが日本の選手にプレスをかけると、日本の選手はそれを回避できない。単純な技術の差が浮き彫りになった。
やがて、日本はプレッシングが機能しなくなる。前半10分、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定でのPK献上は不運だったが(プレー自体はファウルだが、それなら他にも適用されておかしくない場面があった)、守備は秩序を欠いていった。前線から激しく追い立てるだけになってしまい、その消耗は甚大だ。一方、バックラインは後方に残ったままで、前線との間にぽっかりとできたスペースを相手に使われることになった」
エチャリはスペインの監督養成学校でライセンスを与える教授でもあるが、プレッシングについて大事な指摘をしている。
「プレスは強度ばかりが語られる。しかし、これは明らかな間違いだ。プレッシングで大事なのは、スペースをバランスよく支配することにある。
まず、相手のボールの出どころにフタをする。最前線の選手はボールを奪うのが役目ではない。出どころにフタをし、ミスを誘発させることにある。そのためには、味方選手との連係とスペースの均衡が取れたプレッシングが欠かせない。
なぜなら、ブラジルのようにスキルの高い選手を集めたチームを相手に、1人や2人が猛烈に寄せても、それによって空いたスペースを使われるだけだからだ。有能なチームは、むしろ相手のプレッシングを自陣に誘い込む。そうやって、ディフェンスラインの裏に広がるスペースを突いてくるのだ」
エチャリは守備に関しては完璧主義者で、どんなミスも見逃さない。
「日本はプレッシングだけでなく、リトリートの守備でも問題を抱えていた。
ブラジルは日本のFWがボールを追い立てるのを巧妙に利用している。食らいつかせた後に、前線の選手が中盤に落ちてボールを受け、そこでタメを作った。ガブリエル・ジェズス、ネイマール、ウィリアンは高い技術を持ち、前を向いてボールを持てばなかなか止められない。そこにダニーロ、マルセロというサイドバックが上がって、攻撃の厚みを増した」
圧倒的な劣勢に立たされた日本だが、エチャリは後半の戦いに関しては一定の評価を与えている。
「後半、日本のプレッシングは前半よりも改善されていた。リードしたブラジルがペースダウンしたのもあるだろうが、日本の選手のポジショニングは前半に比べて論理的で無理がなく、ゴール前に迫る機会が増えていた。ブラジルのラインが間延びしたのを日本は見逃していない。前半とはほぼ逆の展開になった。
交代出場した乾貴士は、杉本健勇のゴールアシスト(オフサイドで取り消される)だけでなく、日本の攻撃を活性化していた。同じく森岡亮太も、井手口陽介よりは攻撃面での可能性を感じさせた。そしてコーナーキックからの槙野智章のヘディングゴールは文句のつけようがないものだった(その直前には、エリア内で吉田麻也が明らかなファウルを受けている)」
最後にエチャリは改善策を明らかにし、リポートを締め括った。
「W杯に向け、日本は抱えている問題の詳細を修正していく必要がある。7人もの選手がプレッシングで引きずられ、3人が残る。そうしたスペース支配の不均衡が起これば、敵に易々と利用されてしまう。W杯に出てくる相手は、戦術的にも技術的にもその隙を見逃さない。スペースをバランスよく支配する戦い方に立ち戻るべきだろう。相手のバランスが崩れるのをしたたかに誘い、辛抱強く待つのだ」
(ベルギー戦リポートに続く)