◆報知プレミアムボクシング ▽激闘の記憶 第10回 日本バンタム級タイトルマッチ10回戦 〇山中慎介(TKO10回1分2…
◆報知プレミアムボクシング ▽激闘の記憶 第10回 日本バンタム級タイトルマッチ10回戦 〇山中慎介(TKO10回1分28秒)岩佐亮佑●(2011年3月5日、後楽園ホール)
日本バンタム級チャンピオン・山中慎介(帝拳)の初防衛戦は、日本レベルを超え、世界タイトル級の注目を集めた。挑戦者の日本同級1位・岩佐亮佑(セレス)は千葉・習志野高で3冠を達成し、プロ入りしてからは8戦全勝(6KO)のテクニシャン。挑戦者やや有利といわれる中、ゴングが鳴らされ、結果は山中が最終10回に猛攻を仕掛けTKO勝ち。世界挑戦権をかけた一戦で真価を発揮した王者は、次戦で世界王座を獲得。ボクサー人生での大きな分岐点となったのがこの岩佐戦だ。一方、プロ初黒星を喫した岩佐も遠回りはしたものの、その後は2度にわたって世界王座を手にした。勝者にも、敗者にも価値のあった一戦は、年間最高試合の候補にも挙がる激闘となった。(敬称略)
無敗のサウスポー同士の一戦は、2011年チャンピオンカーニバル屈指の好カードと注目を集めた。前売りチケットは発売開始から2時間で完売。会場は立すいの余地もない2300人のファンで埋め尽くされた。
プロ16戦目で7連続KO勝利中の王者か、それとも高校3冠の挑戦者か。両陣営の声援が交差するリング上で、2人は初回から打ち合った。定石通りジャブの差し合いから始まるが、お互いストレートのような威力でダメ―ジを与えていった。2回には岩佐の左が当たり、山中の膝が笑った。前半を互角の内容で終え、迎えた6回だった。山中の伝家の宝刀「左」が挑戦者の顔面を捉え出す。そして、上かと思わせボディーを打つ。7回、岩佐の顔に腫れが目立ち始める。青コーナーの元WBA世界スーパーフライ級王者・セレス小林こと小林昭司会長は、ジム初のチャンピオン誕生を願い、疲れの見え始めたまな弟子・岩佐へ声を張り上げ、鼓舞し続けた。
21歳の挑戦者は、若さと無敗の勢いを武器に突っ走ってきた。しかしだ。9戦目の岩佐に対し、28歳の王者は16戦目。直線的に動く岩佐に対し、山中は前後左右に足を運び、常に自分の距離を作り、手を出した。ラストもやはり、このパンチが決め手となった。左ストレートで動きを止め、連打に持ち込む。必死のクリンチでその場をしのいだ挑戦者だったが、王者の勢いは止まらない。再開後も連打するとレフェリーが試合をストップ。同時に青コーナーからは棄権を告げるタオルが投げ込まれた。山中は最後まで沈着冷静に戦い、キャリアの差にものをいわせる見事なTKO劇に持ち込んだのだ。ちなみに山中の左といえば、相手を一撃で仕留める「神の左」が有名だが、その名が付いたのは2012年11月3日のトマス・ロハス(メキシコ、7回KO勝ち)戦後。岩佐戦の時はまだ「神の左」という名は存在していなかった。
激闘から約15年。山中にとって、岩佐戦はどんな意味合いがあったのか、改めて聞いてみた。
「キャリアの中で一番のターニングポイントとなった試合。勝ったことでジムにも世界挑戦を認めてもらった。岩佐の前評判は非常に高かったが、勝つ自信はありましたから」と述懐した。日本タイトル戦ながら、フィリピンからスパーリングパートナーを招き、「すごく充実した準備ができた」という。浮足立つことなく冷静でいられたのには、ジムでの万全の準備があったことを強調した。次戦で世界タイトルを手にすると、史上2位となる12連続防衛に成功、歴史に名を刻む王者へと上り詰めていった。そして、こうも続けた。
「もしあの時、岩佐が勝っていたら、立場は逆転していたと思う」
敗れた岩佐はプロ初黒星に挫折を味わった。「色んなことを学んだ試合だった。チャンピオンになるのは簡単じゃないと思ったし、あの試合(山中戦)があったから、その後、世界チャンピオンになることができた」と振り返った。再起すると日本、東洋太平洋バンタム級王者となり、ついにその時が訪れる。山中の世界奪取から5年10か月後の17年9月、チャンピオンの小国以載を破りIBF世界スーパーバンタム級王座を獲得。2度目の防衛戦で敗れ無冠となるが、19年12月には暫定ながら王座返り咲きにも成功した。チャンスがあれば、海外だろうがどこにでも足を運び試合に挑む、鋼のハートを持った侍ボクサーだった。第二の人生は、ボクシング中継の解説者などをメインにする山中とは対照的に、車両運送レッカー事業の会社を起業し、社長として現場に立ち、日々充実した日々を過ごしている。
◆山中 慎介(やまなか・しんすけ) 1982年10月11日、滋賀県湖南市生まれ。元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎(大阪帝拳)に憧れ、南京都高入学後にボクシングを始める。専大ではボクシング部主将を務める。2006年1月にプロデビュー。11年11月にプロ17戦目でクリスチャン・エスキベル(メキシコ)とWBC世界バンタム級王座決定戦を行い、11回TKO勝ちで世界王座を獲得。日本人史上2位となる12連続防衛に成功。18年3月に引退。プロ戦績は27勝(19KO)2敗2分け。身長170センチの左ボクサーファイター。ニックネームは「神の左」。
◆岩佐 亮佑(いわさ・りょうすけ) 1989年12月26日、千葉県柏市生まれ。中学2年の時に元WBA世界スーパーフライ級王者・セレス小林氏が会長を務めるセレスジムに入門。高校は名門・習志野高に進学して3冠を達成。2008年8月にプロデビュー。17年9月にチャンピオンの小国以載を破りIBF世界スーパーバンタム級王座を獲得(1度防衛)。19年12月には米ニューヨークでIBF世界同級暫定王座を獲得し、王座返り咲きに成功。23年4月の試合を最後に引退。プロ戦績は28勝(18KO)5敗。身長170センチの左ボクサーファイター。ニックネームは「イーグルアイ」。