サッカー女子SOMPO・WEリーグの三菱重工浦和が、サッカー界では前例のない革新的な取り組みを行っている。25年11月…

 サッカー女子SOMPO・WEリーグの三菱重工浦和が、サッカー界では前例のない革新的な取り組みを行っている。25年11月にStoryHub(ストーリーハブ)社とパートナー契約を締結。同社の最先端の生成AI(人工知能)技術とメディアの専門家の知見をかけ合わせた「オールインワンAI編集アシスタント」を活用してクラブの情報などコンテンツ発信を行っている。このほど選手に向けた「生成AI講座」も実施。同社の渡辺真洋COO(35)の言葉から、アスリートにもたらす新たな可能性をひもとく。(取材・構成=後藤 亮太)

 21年9月に開幕したWEリーグで2度のリーグ優勝を誇る三菱重工浦和は、クラブのビジョンとして「Beyond WE! みんなで想像の先へ」を掲げている。今以上の存在価値となり、スポーツの未来を切り開く。そんなクラブの思いを加速させるべく、AIを使った“発信力”強化に乗り出した。

 タッグを組んでいるのがStoryHub社だ。「価値あるストーリーを共創するハブになる」をミッションに掲げる同社は、良質なコンテンツ制作には人間の創造性が必要不可欠という考えの下、「AIに全てを丸投げせず、アシスタントとして活用する」というコンセプトでプロダクトを提供している。

 チャット機能で企画の相談ができ、インタビューは録音データをアップロードすれば自動で文字起こしされ、理想に近い記事はわずか1分で作成される。また文体などを変えることも可能。既に100社以上のメディアや企業で導入され、サッカーチームでは初めて導入した浦和も作業効率が格段に上がったことで、自社で発信する記事本数が前シーズンの13本から、前半戦だけで43本に激増した。

 アスリートとの親和性も高いという。渡辺COOは「やっぱりサポーターの方が何を知りたいかというと、選手の裏側や思考など深い1次情報。ただ、そこに人を割けないというのもある中で、AIがその可能性を開放してくれた。海外だと個人の選手の話は、すごくメインストリームになってきています」と説明する。

 実際に選手に向けて行われた講座では、なでしこジャパンDF高橋はな(25)が講座前に受けたインタビューが、完成した記事として提示された。短時間で完成度の高いものに仕上がった記事に、高橋も「すごく驚きました。あれを書くとなるとやっぱり時間もかかる。本当にすごいです」と感嘆していた。

 選手の発信が増えることは、知ってもらう機会の創出、日本女子サッカー界が課題としているファン獲得につながる。また、セカンドキャリアを見据え、クラブ関係者は「書くことのハードルが下がって、発信量が増えたら、もしかしたら彼女たちの人生が変わるかもしれない。女子サッカーを見てくれるきっかけになるかもしれないので、そういう機会を提供してあげたかった」と狙いを明かした。

 StoryHubにはファクトチェック(正確性のチェック)の素材も入っており、スマホ一つで発信が可能になる。高橋も「生成AIを活用すれば、自分たちの発信の幅も種類も広がると思いました。サッカー以外の情報が入ることで、人としての幅も広がる。勉強の機会を頂いて、すごく感謝しています」と前向きに捉える。AI利用の波は、プロスポーツの現場までやってきている。

【取材後記】 スマホがあればわずか数分で記事作成が可能になる。数年前までは想像もしなかった世界がそこにはあった。今後について渡辺COOが「AIが出したものを良いか悪いかを判断するのは最終的に人間。作業の効率化でそういうものを養うために足を運んで探求するとか、より人間らしいことができるんじゃないかな」という言葉は印象的だったが、同時に記者という仕事も変化するのではないか…という不安も覚えた。

 しかし、渡辺COOは「この人にしか話したくないみたいな人もいると思います。関係性の構築や、その人を理解した上でできる質問もある。記者の仕事がなくなるのではなく、仕事の価値の本質が変わっていくことなのかな」と言う。作業の効率化で時間が生まれれば、新たに足を運び、話を聞く機会が増えるのかもしれない。本質を見失うことなく、AI時代を生きていきたい。(亮)

 ◆従来のメディア戦略 Jリーグのクラブではチーム、選手の魅力を発信するために、数人ほどの「メディアチーム」を編成。独自のSNSなどで記事化するケースが多い。取材、編集、執筆の時間と、チームに帯同するなどの経費、人件費をかけて発信してきたが、AIの導入によってスリム化が期待できそうだ。

 ◆スポーツ界とAI 米プロバスケットボールNBAではAI技術を導入し、分析データを基に戦術に反映させている。試合中のリアルタイムで選手、ボールの動きのデータを可視化し、戦い方に生かしている。サッカー界では、スペイン1部Rマドリード、ドイツ1部バイエルンが、選手のコンディション管理に導入。負傷歴、睡眠、食事面などを総合的に分析し、けがの早期検出、予防などに利用している。