11月12日、国内のモータースポーツで最高峰の人気を誇るスーパーGTの第8戦が栃木・ツインリンクもてぎで行なわれた。このレースをもって、2017年シーズンは閉幕。例年以上の激戦となったGT500クラスでは、ナンバー37のKeePer TO…

 11月12日、国内のモータースポーツで最高峰の人気を誇るスーパーGTの第8戦が栃木・ツインリンクもてぎで行なわれた。このレースをもって、2017年シーズンは閉幕。例年以上の激戦となったGT500クラスでは、ナンバー37のKeePer TOM’S LC500(平川亮/ニック・キャシディ)がドライバーズチャンピオンに輝き、チームタイトルもLEXUS TEAM KeePer TOM’Sが獲得した。総合優勝を果たしたふたりのドライバーはともに23歳。スーパーGT史上最年少、そして初の「平成生まれのチャンピオン」が誕生した。



2017年のスーパーGT王者に輝いたニック・キャシディと平川亮

 第7戦・タイを終えた時点で、平川/キャシディ組は2位に対して6ポイントのリードを保って最終戦に乗り込んできた。今シーズンは開幕戦から安定したパフォーマンスを発揮し、ここまで2勝をマーク。最終戦のもてぎはレクサス勢が得意としているサーキットで、さらにはウェイトハンデも全車ゼロにリセットされる。彼らにとって、この上ない好条件が揃っていた。

 広島県出身の平川は2012年、弱冠18歳という若さで全日本F3選手権に参戦。デビュー戦からいきなり2連勝を果たし、計7勝でシリーズチャンピオンを獲得した逸材だ。スーパーGTには2015年からフル参戦している。まだ23歳という年齢ながら、レース後に感情を爆発させるようなこともなく、いつも冷静にコメントする姿が印象的な青年だ。

 そんな平川も、さすがにチャンピオンのかかる最終戦ではプレッシャーを感じている様子だった。レース前の金曜日に取材したときには、「サーキットに入るまでにいろいろ考えたりしましたね。ただ、サーキットに入ればいつも通りの感じだったので、リラックスして臨めそうです」と語ったものの、その表情はいつもと違って緊張した雰囲気を漂わせていた。

 同じく23歳のキャシディはニュージーランド出身。平川とは今年からコンビを組んでいる。2015年に全日本F3選手権でチャンピオンを獲得し、スーパーGTにフル参戦を開始したのは2016年。もちろん、キャシディもチャンピオン争いをするのは初めての経験だ。

「これだけ大きなチャンピオンシップだからね、正直いつもよりプレッシャーはある。でも、今回はすごくいいチャンスなので、この瞬間を楽しむことができているよ」。いつになく言葉少なめにそう語るキャシディも、落ち着きがない様子だった。

 そんな緊張感の高まるなか、予選の幕が切って落とされた。ポールポジションを獲得したのは日産勢の1台、ナンバー23のMOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)。37号車が今予選でも有利と見られていただけに、今回と同じくノーウェイト勝負だった開幕戦・岡山での23号車(予選14位)を考えると、多くのファンや関係者が予想していない結果となった。

 8ポイント差のランキング3位につけている松田/クインタレッリ組は、2014年と2015年に2年連続でチャンピオンに輝いた名コンビだ。また、クインタレッリは史上最多となる通算4度のスーパーGT王者に輝いている。チャンピオンへの挑戦が初めてという平川/キャシディ組とは対照的に、松田とクインタレッリはこれまで何度も総合優勝争いを経験している。予選後の記者会見で松田は「優勝を狙いにいく」と落ち着いた表情で語り、逆転でのチャンピオン獲得に意気込みを見せていた。

 一方、37号車の予選はどうだったか。Q1はキャシディが走って順当に突破し、続くQ2は平川が担当。しかし23号車だけでなく、6ポイント差でランキング2位につけるナンバー6のWAKO’S 4CR LC500(大嶋和也/アンドレア・カルダレッリ)にも先行も許し、3番グリッドとなってしまった。

「できる範囲でベストは尽くせたかなと思います。でも、ちょっと日産勢の動きが恐いです」

 予選を終えた平川は、ポールポジションを獲得した23号車の存在を警戒していた。

 シーズン序盤はレクサス勢が圧倒的な強さを発揮していたが、最後の最後になって流れは日産勢に傾き始めたのか--。予選後のサーキットにはそんな空気も漂ったが、初の年間王者を目指す若いふたりは浮き足立つことなく、圧し掛かるプレッシャーに挑んでいった。

 決勝レースのスタート直前、思わぬハプニングが発生する。なんとポールポジションの23号車(クインタレッリ)と、2番手の6号車(カルダレッリ)がスタートラインへと向かうフォーメーションラップの最終コーナーで交錯。真後ろを走っていた37号車(キャシディ)もこれに巻き込まれそうになった。だが、キャシディは飛び散るパーツを冷静に避け、無事にスタートラインを越えていった。

 その後、キャシディは接触の影響でペースの上がらない6号車をパスして2番手に浮上。このポジションを守り切れば、初のシリーズチャンピオンが確定する。スタート前のアクシデントにも関わらず23号車のペースは予想同様に速く、徐々に差をつけられていった。それでも、21周目にキャシディからバトンタッチされた平川がミスのない堅実な走りを見せて、そのまま冷静に2位フィニッシュ。23歳の最年少コンビが名門チーム・トムスに2009年以来となるタイトルをもたらす結末となった。

 レース後、プレッシャーから解放された平川は、パルクフェルメでようやく笑顔を見せた。

「チェッカーを受けて喜ぶのかなと思ったら、ホッとして言葉が出なかったです。1年間を通してチームもミスがなかったですし、ニック(・キャシディ)もすごくいい仕事をしてくれました。率直に完璧なシーズン。LC500は常に速くて強いクルマで、僕たちが履いているブリヂストンも難しいコンディションのなか、毎回すごくいいパフォーマンスを発揮してくれました。みなさんに感謝しています」

 同じくキャシディも、感謝の言葉を述べた。

「僕はGT500に参戦してまだ2年目なのに、チームのみんなが大きな信頼を寄せてくれたことに感謝している。この信頼を裏切らないように、僕もがんばらなければと思って全力で攻めたよ。今シーズンは、マシンに乗り始めた最初の日から手応えを感じていた。シーズン中はミスをしないこと、接触などをしないことが重要になると感じ、全力で攻めなきゃいけないところがあった一方で、抑えるところは抑えて確実に走らなければいけないところもあった。我々は1年間、冷静にがんばれたと思う」

 若いふたりには、チャンピオン決定の大舞台で速さと強さを発揮できる”タフさ”があった。ドライバーとしての伸びしろも大きいだろう。過去にはアンドレ・ロッテラー(ドイツ/2006年・当時25歳)やロイック・デュバル(フランス/2010年・当時28歳)など、20代でスーパーGTを制して世界へと羽ばたいていったドライバーたちがいる。平川やキャシディも、今年の結果は「まだ通過点」と考えているようだ。

「若いうちにチャンピオンを獲れたのはいいことですけど、将来的にはこれを通過点として、さらに上のレベルで戦っていきたいです。この結果に満足せず、さらに努力して、自分の速さをさらに磨きたい」(平川)

「この結果は僕の人生において、プラスに働くことは間違いないだろう。中嶋一貴選手や国本雄資選手のように、このカテゴリーで活躍し、ル・マン24時間の参戦チャンスを獲得したドライバーもいる。これからもスーパーGTでがんばりたいね」(キャシディ)

 来年のドライバーズラインナップは各チームとも未定だが、おそらく平川とキャシディは「カーナンバー1」をつけ、同じ体制で参戦することが確実と見られている。次はディフェンディングチャンピオンとして、どんな走りを披露してくれるのか。早くも来シーズンの開幕戦が楽しみだ。