◆報知プレミアムボクシング ▽激闘の記憶 第8回 WBA、WBC世界ミニマム級(47・6キロ以下)王座統一戦12回戦 〇…

◆報知プレミアムボクシング ▽激闘の記憶 第8回 WBA、WBC世界ミニマム級(47・6キロ以下)王座統一戦12回戦 〇井岡一翔(判 定)八重樫東●(2012年6月20日、大阪府立体育会館)

 日本プロボクシング史上初の男子現役世界王者同士による団体王座統一戦。WBC世界ミニマム級王者の井岡一翔(井岡=当時)と、WBA世界同級チャンピオンの八重樫東(大橋)が激突。それまで日本人王者同士による団体内王座統一戦はあったが、他団体の王者との対戦は初という歴史的な試合。両選手が全精力を振り絞った12ラウンドに及ぶ激闘は、会場のファン、テレビの前の視聴者に感動を与えるファイトとなった。井岡が3―0の僅差判定で初の統一王者となり、敗れた八重樫にも多くの称賛の声が寄せられた。(敬称略)

 激闘を終えた井岡、八重樫の両選手がセコンドに肩車され、お互いが勝利を信じ、拳を突き上げた。採点が読み上げられると、会場は一瞬にして静まり返った。115―114、115―113、115―113。1ポイント差が1人、2ポイント差が2人。井岡が僅差の3―0判定で日本人初の統一王者に輝いた。歴史に名を刻んだ井岡は興奮を抑えながら、ファンへの感謝を口にした。

 「八重樫さんは強かったので皆さんの応援なしには勝てなかった。試合が決まってからは不安やプレッシャーもあったが、サポートしてくれた皆さんのおかげで大きな壁を乗り越えることができました」

 気持ちのこもったパンチの交換は初回から始まった。井岡は左ジャブ、右ストレートをコンパクトに出し、八重樫は接近して回転の速いフックで応戦。しかし、八重樫の左目が早くも腫れ始める。4回には逆の右目の腫れも目立つようになり、6、7回とドクターチェックが入った。互角の打ち合いは続き、8回終了後の公開採点では2人が77―75で井岡、残りの1人は76―77で八重樫を支持した。

 歴史的な一戦は大橋ジム会長・大橋秀行(元WBA、WBC世界ミニマム級王者)のひと言で実現へと動き出した。2011年10月24日、後楽園ホール。八重樫がWBA王者ポンサワン・ポープラムック(タイ)を10回TKOで下し初の世界王座を獲得。歓喜に沸くロッカールームで今後のプランとしてWBC王者の井岡との統一戦構想を明かした。すると井岡陣営も賛同する形で話が煮詰まり、多くの障害を乗り越え実現に至った。そして話は会長たちの現役時代にまでさかのぼる。井岡ジム会長の井岡弘樹(元WBC世界ミニマム、WBA世界ライトフライ級王者)と大橋は、1980年代後半から90年代前半にかけ世界を舞台に戦った、ともに日本を代表するボクサー。階級も近く対戦を望むファンは多かったが、実現することはなかった。それだけに、弟子たちによる「代理戦争」としても大きな注目を集めた。

 ラスト4ラウンド。井岡のパンチを浴びた八重樫の両目は大きく腫れ上がっていた。ただ、一方的に打たれていたわけではない。しっかりとした足取りで前進してパンチを打ち返した。最後までどちらも引かない打ち合いの中、激しくプライドをぶつけ合い、終了のゴングが打ち鳴らされた。井岡はリング上の勝利者インタビューでこう続けた。

 「まだまだ通過点。複数階級制覇していくので、応援よろしくお願いします」

 その言葉通り、さらに躍進していった。WBA、WBC両王座を返上すると、ライトフライ、フライ級を制覇。2019年6月にはアストン・パリクテ(フィリピン)を10回TKOで下しWBO世界スーパーフライ級王座を獲得。同時に日本人男子初の4階級制覇という偉業を達成した。昨年7月にフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に判定負けして王座から陥落。今年5月のダイレクトリマッチにも敗れ、引退かと思われたが再起を決意。バンタム級で日本人男子初の5階級制覇を狙うことを宣言し、今月31日の大みそかにマイケル・オルドスゴイッティ(ベネズエラ)とWBA世界バンタム級挑戦者決定戦を行う。再起戦でもある井岡は「バンタム級に上げて、より強くなった姿をお見せしたい」と意気込む。来年の4月でプロ18年目を迎える井岡だが、まだまだトップを走り続けている。

 敗れた八重樫も感動的な12ラウンドにその名は全国区となり、試合後には多くの激励が本人の元に届いた。13年4月に五十嵐俊幸(帝拳)を下しWBC世界フライ級王座を獲得。その後IBF世界ライトフライ級のチャンピオンにもなり世界3階級制覇を達成した。「倒すか倒されるか」という激しいファイトスタイルに「激闘王」と呼ばれ、20年9月に惜しまれながら引退を表明。現在は名門・大橋ジムのトレーナーとしてチャンピオン育成に尽力している。

 ◆井岡 一翔(いおか・かずと) 1989年3月24日、大阪府堺市生まれ。36歳。興国高で全国6冠。東農大を中退し2009年プロデビュー。11年にWBC世界ミニマム級王座を獲得し、その後スーパーフライ級まで日本人男子初の4階級で世界王座を獲得。戦績は31勝(16KO)4敗1分け。身長165センチの右ボクサーファイター。家族は妻と2男。

 ◆八重樫 東(やえがし・あきら) 1983年2月25日、岩手県北上市生まれ。42歳。黒沢尻工3年で高校総体、拓大2年で国体優勝。2011年にWBA世界ミニマム級王座を獲得し、その後フライ、ライトフライ級でも世界王座を獲得し3階級制覇を達成。戦績は28勝(16KO)7敗。身長160センチの右ボクサーファイター。家族は妻と1男2女。