阪神の及川雅貴投手(24)が9日、走り幅跳びで世界陸上への出場経験がある荒川大輔氏(44)の指導を受けながら、2年連続…

 阪神の及川雅貴投手(24)が9日、走り幅跳びで世界陸上への出場経験がある荒川大輔氏(44)の指導を受けながら、2年連続で陸上のトレーニングを行っている。なぜ、陸上を選んだのか。「ピラミッドの一番下」と表現した土台作りが飛躍のきっかけともなった。及川の言葉から来年も虎のブルペンを支えてくれると確信した。

 地味に見えるドリルを繰り返し、走るという単純な動作に正解を追い求める。素人には理解するのが難しく、何が野球につながるのかは簡単にはわからない。でも、その中に奥深さがあった。及川にとっては2年連続での陸上トレーニング。飛躍の原点とも言える場所に帰っていた。

 オフになれば、プロ野球選手が独自の練習法を取り入れることは珍しくない。ただ、走りに特化した陸上を投手がすることに疑問を抱く人も多いだろう。なぜ、陸上なのか。及川の中では明確な理由があった。

 「ピラミッド型に例えたら、一番下に陸上があると思っている。どの競技にも通ずるもの。野球でも土台をしっかりと言うじゃないですか。自分は陸上が根っこの部分になると思っている。根っこを理解して、体を動かした方が、投球フォームにもつながるんじゃないかなというのがあった」

 今年のメニューは股関節と中臀筋へのアプローチがメイン。これは今季の課題克服のためでもある。開幕からフル回転したが、夏場に疲れのピークがやってきた。その時に感じたのは軸足となる左の股関節が使いにくくなり、蹴り出しが弱くなったこと。平均球速は自然と低下し、思った球が投げられていなかった。

 陸上トレの最大の目的は自分の体を知ること。動きにくい時にどうすればいいか。そのヒントをつかもうとしている。今年も体の動きが悪いと感じた時、ブルペンで取り入れたドリルがあった。両足のかかとを軸にジャンプを繰り返す。つま先重心だとふくらはぎの力を使えるが、かかと重心では足首と膝、股関節の3つが連動しないとうまく飛ぶことができない。このメニューを補うことで、体にサインを送ることができていたのだ。

 今季は66試合に登板して、防御率0・87と驚異的な安定感を誇った。キャリアの中でも未知の世界を経験したが、体の感覚は少し違った。「そもそも疲れの感じ方も違ったし、これだけ投げているのに例年よりも疲れを感じるのは遅かった。悪いなりの投球も年間を通してできた」。次は2年連続での活躍という、新たなステージに向かっていく。

 「そんな甘い世界じゃないというのはわかっている。自信を持つことと調子に乗ることは違う。自信をいい方向に持っていけたらと。欲を出すと良くないので、今年の数字は出ないもんだと思って臨もうと思ってる」

 1試合ずつの積み重ねが、また偉大な数字を生み出すかもしれない。本人はおごることなく、足元を見つめ直していた。それどころか、このオフの練習量はすさまじい。イベントがある日を除けば、常に向上心を持って汗を流している。60試合以上に登板し、防御率0点台を2年連続で達成した投手はいない。及川なら、NPBの歴史を変えられると信じている。

 ◆荒川大輔(あらかわ・だいすけ)1981年9月19日生まれ。走り幅跳びの元選手。2002年の静岡国際では8メートル06の記録で日本人9人目の8メートルジャンパーとなった。07、09、12年に日本選手権優勝。07、09年には世界陸上にも出場している。現在は合同会社「Antonio」の代表で、朝原宣治氏主宰の陸上クラブ「NOBY TRACK and FIELD CLUB」でも子どもたちの指導を行っている。