◆明治安田J1リーグ▽第38節 鹿島2―1横浜FM(6日・メルスタ) 鹿島が横浜FMを2―1で下し、9シーズンぶり9度目…

◆明治安田J1リーグ▽第38節 鹿島2―1横浜FM(6日・メルスタ)

 鹿島が横浜FMを2―1で下し、9シーズンぶり9度目のJ1制覇を果たした。主要タイトル通算21冠目となり、Jクラブ最多を更新した。

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 9季ぶり奪還への機運が少しずつ高まり始めた、9月のこと。幹部会議での決定事項が、クラブの全スタッフに共有された。

 内容は、情報統制に関するもの。選手を優勝争いのプレッシャーから守り、平常心で試合に臨んでもらうため、あらゆる優勝準備を「秘密裏」に行い、選手に悟らせないように―という指令だった。

 優勝へのカウントダウンを大々的に行うクラブもある。しかし鹿島は、Jリーグ最多20冠と、タイトルを目前で逃した数々の歴史から「あくまで普段通り」に試合に臨むことがベストだと判断した。

 これは3連覇初年度の2007年、クラブが(今回同様こっそりと)取り組んだプロジェクト「ケ・セラ・セラ作戦」にあやかるものでもあった。

 当時の鹿島は、10冠目に王手をかけた状態でのV逸が続いていた。クラブは時に選手を巻き込んだ優勝準備で慌ただしくなった結果、タイトルを逃した過去を反省。お祭りムードを一切排除し、慌ただしさも表面化させず、スペイン語で「なるようになるさ」を意味する「ケ・セラ・セラ」状態で選手を試合に挑ませることを決定。選手に「普段通り」を意識させた結果、Jリーグ史上初にして唯一となる3連覇の歴史が始まった。

 近年は優勝争いから遠ざかっていたこともあり、クラブ幹部は「あの頃の雰囲気を知らないスタッフも増えた。優勝のために何ができるかを今一度考え、指針を示したかった」と明かす。「ケ・セラ・セラ作戦~令和版~」の大号令が、ひそかに発せられた。

 とはいえ、セレモニーで選手が着用する記念シャツは必要なもの。優勝記念グッズを優勝してから準備したのでは、商機を逃す。行政など、関係各所との調整が必要なものもある。各部署で「優勝した時のこと」を考え、備える必要があった。

 大事なことは、その慌ただしさを選手に悟らせないこと。クラブの公式Xでは、白熱の優勝争いを繰り広げていたにも関わらず、9月16日の投稿を最後に「優勝」の2文字は登場させなかった。各メディアからの優勝企画系の取材要請は全て断った。

 また、勝てば自力優勝という条件で最終節を迎えたため、ハーフタイムに「他会場途中経過」を伝えることも見送った。GK早川友基が「あまり優勝争いしてる感じがしない。目の前の試合に集中できている」と語ったのも、選手が見えないところでコソコソと働いていたスタッフの努力があったからこそだ。

 「すべては勝利のために」をミッションに働く職員たちも、9季ぶり優勝を陰で支えた。(岡島 智哉)