◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」 競馬記者は人の思考の裏を突くのが、おいしい配当にありつける最大の近道となる。人気馬…
◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
競馬記者は人の思考の裏を突くのが、おいしい配当にありつける最大の近道となる。人気馬を負かせる要素がないか。あらゆる角度からアプローチし、穴馬を見つけて勝利を手にした瞬間が至福の時だ。
その人の裏を行く手綱さばきを、今年2月の競馬学校卒業式で目の当たりにした。全9戦で争われる模擬レースの最終戦。遠藤汰月騎手(19)は逆転優勝をつかむには1着になるしかなかった。
ゲートが開いた。他の同期6人は有終の美を飾ろうと、ダッシュをつけて激しい先行争いを展開した。しかし、遠藤騎手は泰然自若としていた。「(前に)行け、行けと思って見ていました」。ただ一頭ポツンと離れた最後方に構えた。
最後の直線ではライバルたちの脚いろが鈍る中、温存した脚を爆発させてゴール寸前でわずかに差しが届いた。“初タイトル”への重圧がかかる一戦で見せた、人間心理の裏をいく騎乗。デビュー前の若武者がやってのけたことが、強烈なインパクトとして残った。
3月に騎手デビューを果たした遠藤騎手は、4月20日に地元・福島でJRA初勝利を挙げた。6番人気のパートナーを、2番手から新人らしい積極的な騎乗で導いた。拍手と歓声に包まれ、記念セレモニーでは「よっしゃー!」と声を張り上げ、度胸の良さをアピールした。現状は思うように勝ち星は伸ばせていないが、騎手人生は始まったばかり。インパクト抜群の騎乗がまた見たい。(中央競馬担当・石行 佑介)
◆石行 佑介(いしごう・ゆうすけ) 1998年入社。レイアウト担当を経て19年11月から現職。