2026年2月6日に開幕するミラノ・コルティナ冬季五輪へ向けて、アスリートや、支える人たちなどを紹介する「ミラノへ駆け…

 2026年2月6日に開幕するミラノ・コルティナ冬季五輪へ向けて、アスリートや、支える人たちなどを紹介する「ミラノへ駆ける」。2回目はスノーボード女子ビッグエア&スロープスタイルの岩渕麗楽(23)=バートン=にスポットを当てる。過去2度出場した2018年平昌、22年北京両五輪はビッグエアの4位が最高成績。スノーボード界の逸材が“三度目の正直”で悲願の金メダル獲得を狙う。

 金メダルだけを見ていた。北京五輪の最終3本目。岩渕は当時の女子で成功者がいなかった大技、縦3回転を入れた「トリプルコークアンダーフリップ1260」を打った。表彰台を狙うならほかの技の選択肢もあったが、目標は下げたくなかった。

 結果は着地でバランスを崩して手をつき、2大会連続の4位。ただ、挑戦する姿は多くの人の心を打ち、演技後は各国の選手に囲まれて称賛された。

 「また4位で悔しい。でも挑戦できてよかった」。大粒の涙を流し、そう語ってから3年がたった。来年2月、24歳で3度目の五輪を迎える。「あの悔しさがあったからこそ、今ここまで頑張れているのは絶対にある。五輪の年はスノーボードを始めて20年目の節目。そこで金メダルを取りたい気持ちは、過去2大会に比べて強いんじゃないかな」。“三度目の正直”で見据える五輪女王の座。気持ちはメラメラと燃え上がっている。

 岩手県一関市出身。1990年代のスノーボードブームに影響を受けた両親の影響で、4歳から板に乗り始めた。父に小さい背中を押されながら、たくさん滑ってたくさん転び、雪まみれになって板の乗り方を習得。小学2年で入会した障害物を滑るレッスンをきっかけに、スノーボードでジャンプする楽しさに魅了され、ビッグエアとスロープスタイルの種目を選択した。

 “天才少女”はすぐに頭角を現した。13歳でプロ資格を取得すると、15歳でW杯初優勝。中学までは学校に通いながら毎週末にゲレンデに行く生活を送っていたが、すぐに代表での海外遠征が本格化し、高校生からはスノーボードが中心になっていった。

 今オフは埼玉県にある埼玉クエストで主に練習。設置された大型のジャンプ台から技をしてエアバッグに飛び込み、夏でも冬と同じように空中感覚を磨くことができる専用施設だ。8月にはオーストラリア合宿で雪上も滑り、シーズンに向けてコンディション調整は順調。「完成度はまとまってきた」。新たに取り入れた、横4回転する大技にも手応えを示している。

 メンタルも成長した。平昌五輪は「16歳でモチベーションの保ち方が難しかった」、北京五輪は「コロナ禍で集中するのがすごく難しかった」と振り返る。当時は緊張=ネガティブと捉えていたが、年齢を重ねた今は「緊張は悪いことじゃない」とプレッシャーを受け入れられるようになり、本番でも力を発揮できるようになってきた。五輪の前哨戦ともいえる3月の世界選手権(スイス・サンモリッツ)では、ビッグエアで銀メダル、スロープスタイルで銅メダルを獲得。2度の夢舞台を経て、心身ともに強くなった。

 五輪開幕まで3カ月を切った。他の代表勢では世界選手権ビッグエア金メダルの村瀬心椛(21)、同3位の深田茉莉(18)らも力を付けており、本番は日本勢の表彰台独占もあり得る。今月からW杯が始まるものの、今季は出場を絞る方針で、第2戦(12月、中国)と第5戦(来年1月、スイス)に照準を合わせている。

 第2戦は悔し涙を流した北京五輪と同じ会場で、成長を実感するのにはうってつけの舞台だ。「そこで結果を出せたら自信につながると思う」。苦い思い出を払拭し、五輪に弾みをつける。

 ◇岩渕麗楽(いわぶち・れいら)2001年12月14日、岩手県一関市出身。両親の影響で4歳からスノーボードを始め、小学1年から本格的に競技を始めた。13歳でプロテストに合格。15歳のときにW杯のビッグエアで初優勝した。25年世界選手権はビッグエア銀メダル、スロープスタイル銅メダル。五輪では18年平昌大会、22年北京大会ともにビッグエアで4位に入った。趣味は読書。好きなジャンルは東野圭吾の白夜行などの推理小説と自己啓発系。撮影、パズルも好き。149センチ。

 ◆ビッグエア 高さ30~40メートル、斜度20度以上の斜面を滑って踏み切り、大技一つの難易度と完成度を争う。18年平昌五輪で初採用された。五輪における日本勢の最高成績は、22年北京大会の女子で村瀬心糀が獲得した銅メダル。男子は北京大会の国武大晃の4位。

 ◆スロープスタイル 斜面を滑りながら、設置されたレール(金属製の手すりのようなもの)などの障害物や、ジャンプ台で技を何度も繰り出し、100点満点で総合滑走能力を競う。14年ソチ五輪から採用された。日本勢の最高成績は、男子はソチ大会の角野友基と北京大会の浜田海人の8位。女子は北京大会の岩渕麗楽の5位。

 ◆スノーボード・スロープスタイル(SS)/ビッグエア(BA)の26年ミラノ・コルティナ五輪への道 24~25年、25~26年シーズンのW杯と世界選手権で得た国際スキー・スノーボード連盟(FIS)ポイントを選考対象に、26年1月19日までに以下の成績を収めた選手から番号順に選出される。①SSベスト3ポイントと、BAベスト2ポイント合計の上位者②SSとBAを含めたベスト3ポイント合計の上位者③SSとBAを問わないベスト3FISポイントの上位者。①を満たす男女上位2人のみ、W杯第3戦が終了する12月13日で選出される。