ライバルである佐藤駿(左)に僅差の得点でNHK杯を制した鍵山優真(右)【ジャンプで転倒も落ち着いた対応で3連覇】 鍵山優…



ライバルである佐藤駿(左)に僅差の得点でNHK杯を制した鍵山優真(右)

【ジャンプで転倒も落ち着いた対応で3連覇】

 鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)にとって今季のGPシリーズ初戦となったNHK杯(11月7〜8日)。2週間後にフィンランド大会、順調に進出できれば、12月のGPファイナル、全日本選手権が中1週間で続くハードスケジュールの戦いが待っているなかでの戦いだった。

 NHK杯で大会3連覇を果たしたとはいえ、フリーではジュニア時代から競い合う佐藤駿に0.80点後れを取った悔しさは、鍵山にとって次への活力になった。

 前日のショートプログラムは、チェンジフットキャメルスピンが0点という想定外のミスをしながらも、佐藤に1.91点差のトップに立っていた。フリーは、佐藤がシーズンベストの189.04点を出して合計を285.71点にしたあとの演技。鍵山は、200点超えの得点を出せば目標のひとつでもある合計300点超えを目指せる状況だっただけに緊張感もあった。

 オーケストラ生演奏のオリジナル編集で、鍵山自身もバージョンアップに参加している『トゥーランドット』での演技。力強い滑り出しから最初の4回転サルコウはきっちり決めたが、連続ジャンプを予定していた次の4回転トーループは転倒した。

「全体的な流れとしては悪くはなかったと思うけど、前半のトーループはふだんの練習で90パーセントくらい跳べるほど安定していたので、転んでしまったのには自分ではびっくりしてしまいました。

 でも、そのあとは後半でのリカバリーもしっかり考えてできたし、3回転フリップ+3回転ループもしっかり決めたり、どのエレメンツもしっかりとこなせた。何よりプログラムを全力でこなせたというのは、本当にいい部分かなと思いました」

 そう鍵山が話したように、後半の4回転トーループには2回転トーループをつけて連続ジャンプにすると、スピンとステップもすべてレベル4にした。

 コーチである父親の正和さんも、「トーループの転倒は技術的なミス。2本目はしっかりと跳べているし、修正も簡単にできるので本人も気にしてないと思います。原因は踏みきった時に体自体を回しにいっているので、軸が左にいってしまったこと。ふだんどおりに踏みきればまったく問題なかったが、少し力が入ってしまった。それでも、軸がブレながらもしっかり体を締めきって回転不足にしなかった勇気は褒めてあげたいと思います」と話す。

 転倒もあったため演技構成点は3項目中2項目で8点台に抑えられる結果になったが、SPの貯金を生かして合計を287.24点で優勝を果たした。

「これが本番だな、これが試合だなと思いました。やっぱり試合の舞台は本当に何が起きるかわからないというのが当たり前のようにありますが、それが今回出てしまいました。それもひとつの学びであり、やっぱりどんなことが起きようともしっかり落ち着いて対応する能力は身につけていかなければならないと思います。

 去年はそういう面で、ちょっとしたミスでどんどん引きずってしまって悪くなっていくという試合がすごく多かった。でも今回はあのミスは切り離して、そのあとはしっかりと落ち着いて対応するところがうまくいったので、そこは成長している部分なのかなと思います」

【コーチである父との関係性にも変化】

 コーチである父・正和さんとの関係性も以前とは変わってきている。今では練習のやり方や試合時の過ごし方などはほぼ自分で考え、足りないものがあると感じればアドバイスをもらうようにしているという。

「2022年北京五輪が終わってからはミラノ・コルティナ五輪へ向けて順調に進んでいくはずだったけど、ケガや不調などいろんな想定外が起きてしまいました。前回の五輪でいい結果(銀メダル)を取れたことで、結果だけをすごく意識してしまうシーズンもあったけど、今は練習に対してもいい意味で完璧主義になりすぎず、自分の最低ラインを保っていくというのをすごく大事にしています。

 北京五輪の前は自分がその舞台で何を成し遂げたいかということにすごくワクワクする気持ちがあったので、今季はその時のワクワク感を思い出して、結果だけではなく自分が自分と向き合ってやっていくところをすごく意識しています」

 こう話す鍵山がターゲットにしているのは、フリーの4回転をトーループ2本とサルコウの3本構成をノーミスでこなし、200点台を出して合計300点台に乗せることだ。

 正和氏は現時点の鍵山について、「今はまだサルコウとトーループ、トリプルアクセルでまとめようとしている段階だが、毎日ほぼノーミスに近い演技でランスルーができている。さらに、そのあとも曲に合わせての見直しは何回もできているので問題はないというか、これ以上ないというところまでできていると思います」と説明する。

 だからこそ、NHK杯で300点台に乗せられなかったことを悔しがる。

 鍵山がこれからの展開として思い描いているのは、SPでは北京五輪で出した自己ベストの108.12点に少しでも近づくこと。フリーでは今の構成でノーミスの演技をして合計をどこまで伸ばせるか確認することだ。

 そして取り組んでいる大技の4回転フリップに関しては、こんな思惑がある。

「フリップは入れるタイミングにすごく慎重にならないといけないと思っていますが、GPファイナルに出場できればそれまでの2戦とは違って何もかかってない状態だから、4回転フリップを入れてさらにレベルアップしたい」

【佐藤駿と再び"バチバチ"に戦える喜び】

 また、佐藤と競り合ったことは鍵山にとって追い風になりそうだ。

「(佐藤)駿とジュニアの時からバチバチに戦って、勝ったり負けたりを繰り返してきた時を思い出しました」と鍵山は話す。

「シニアに上がってからはお互いにケガなどもあって全力でできないシーズンもありましたが、今季は駿も足の痛みを抱えながらも中国杯からすごくいい状態でGPファイナル進出も先に決めた。それを見て自分もすごく刺激をもらったし、こうやって全力で戦えているのがすごくうれしいし楽しいです。

 フリーで負けてしまったのはすごく悔しいけど、今度は僕も追いついてGPファイナルに行ってシニアでも本当にバチバチというか、試合で互いに切磋琢磨しながらふたりで頑張りたいです」

 鍵山はこのNHK杯で、同学年の佐藤とまた一緒に戦える喜びを再確認し、それを次へのエネルギーにする。