“角界の救世主”が「悔いは一切ない」と、すがすがしくファンに別れを告げた。今場所前、現役引退と年寄「北陣」襲名を発表して…
“角界の救世主”が「悔いは一切ない」と、すがすがしくファンに別れを告げた。今場所前、現役引退と年寄「北陣」襲名を発表していた、最高位小結の遠藤(35=追手風)が、福岡市内のホテルで会見した。7月に右膝、9月に左膝と、慢性的に痛めていた両膝を相次いで手術。幕内だった5月夏場所を9勝6敗と勝ち越したのを最後に、2場所連続全休中で、九州場所は東幕下3枚目に番付を下げていた。屈指の寡黙な男の言葉は、故郷石川県のファンへの感謝にあふれ、最後まで涙を見せなかった。
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初土俵から12年8カ月、絶大な人気を誇ったまま駆け抜けた。遠藤が残した功績は、最高位小結という地位だけでは計り知れなかった。野球賭博、八百長問題と、不祥事が相次ぎ、客席もまばらになっていた13年春場所で初土俵。史上最速の初土俵から所要3場所で新入幕を果たし、出世の早さに髪の伸びが追いつかない、ざんばら髪で旋風を起こした。端正な顔立ちから女性ファンが急増。確かな技術と真っ向勝負で好角家もうなった。空席だらけだった客席を、現在の全日完売へと導いた功労者だ。
屈指の寡黙な男で、取組前後以外も口数は少なかった。ただ、引退会見では丁寧に言葉を選び、充実した現役生活を振り返った。
遠藤 まだちょっと、引退したという実感はありませんが、これから感じていくのかなと。悔いは一切ない。やり切った。本当にいっぱいいっぱい、やりました。自分の体は自分が一番よく分かっている。手術をして、もう1度、土俵に戻るつもりでリハビリしてきましたが、気持ちが少しずつ変わっていきました。
もともと“稽古の虫”だった努力家が、慢性的な両膝の痛みで満足に稽古できなかった。30代は思い悩む日々ばかりだった。それでも「ケガした以上、手術をせずに、うまく付き合っていくしかなかった」と、現役中は膝にメスを入れない覚悟だった。だが会見中に何度も繰り返す「いっぱいいっぱい」の状態だった。半ば手術へと心が傾いていた夏場所千秋楽、朝紅龍に勝った一番は、現役最後の相撲になる覚悟もあった。だから思い出の一番だ。
遠藤 もしかすると、もしかすると思っていた。毎日「今日が最後」と思って土俵に上がっていました。相撲に勝てば、本当に鳥肌が立つような声援をいただいた。本当に幸せな、相撲人生だったと思います。
故郷は昨年元日の能登半島地震で大きな被害を受けた。「どんな時も、ふるさとの応援は支えだった。まだ引退のあいさつも行けていない。直接、感謝を申し上げたい」。相撲どころ石川県出身は大の里もいる。後輩に後を託し、笑顔で別れを告げた。【高田文太】