プロサッカー選手が格闘技事務所に殴り込み? J1川崎フロンターレが、8日に本拠地・Uvanceとどろきスタジアムby F…
プロサッカー選手が格闘技事務所に殴り込み? J1川崎フロンターレが、8日に本拠地・Uvanceとどろきスタジアムby Fujitsuで行われるファジアーノ岡山戦で、総合格闘技イベント「RIZIN」とタイアップする。クラブ随一の格闘技好きで知られるDF田邉秀斗(23)とDF野田裕人(19)がこのほど、RIZIN事務所を電撃訪問。同試合で始球式を務める元フェザー級チャンピオン鈴木千裕(26)との鼎談(ていだん)が実現し、異競技アスリート同士で存分に語り合った。【取材・構成=佐藤成】
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急に暑さが和らいだ10月某日、「静学産」のサイドバック2人が敵地に乗り込んだ。東京・港区のRIZIN事務所。エントランスにはベルトやYouTubeチャンネルの金の盾、選手のサイン入りグローブなどが展示されており、圧倒される。静岡学園出身の田邊と野田が恐る恐る足を踏み入れた。
大みそかにプライベートで観戦するほど大の格闘技ファンである田邊は興奮を抑えられない様子。「僕らサッカーは大人数のスポーツ。格闘技は1対1で、グローブ以外何も使わずに体で戦うのがすごい。とにかくかっこいいですね」と尊敬の念を抱く。バトル競技初心者の野田は「シュウトくんよりは全然見ていないですけど、大みそかとかはテレビで拝見させてもらった」と明かした。
2人が向かい合ったのは、元フェザー級チャンピオンの鈴木。現在右拳を負傷し、リハビリ中だが、8日の岡山戦で始球式の大役を務めることをきっかけに、対面することとなった。鈴木は3歳で始めた格闘技と並行し、中高6年間サッカーに打ち込んだ過去もある。「僕は団体競技がやっぱ向いてない。サッカーのチーム競技ができる人たちに僕はリスペクトがある」と話した。
現地観戦したことがない野田が気になったのは、リングに臨むメンタル面だ。
野田「たくさんの人数の前で自分1人で戦うわけではないじゃないですか、それは楽しみが勝ちますか?」
鈴木「そもそも個人競技をやってる人って9・8割は変わり者なんですよ。まともな人はたぶんこの業界は残らないですよ(笑い)。個性が強い人が残る競技。そうじゃない例もあるんですけど、協調性とかそういうのを全部無視したやつが強い、みたいな。観客にいろんな人に見てもらって、プレッシャーは最初はあったんですけど、だんだん、だんだん気にならないんですよ。もう練習いっぱいして、逆に何したら負けんだろうってぐらい仕上げて、『すげえもん見せてやっからよ、皆さんほんとついてるね。非日常の最高の瞬間を俺が見せるよ』という自信を持って上がるんです」
格闘家の強気のメンタルに、2人は目を輝かせて聞き入った。
田邊「メンタルトレーニングってどのようなことをやっているんですか」
鈴木「そもそもメンタルトレーニングだとか思ってやってなくて。発想の問題で僕もよく毎回言うんですけど、変えられるものを僕は変えるのが大好きで、変えられないものを変えようとするのが大嫌いなんですよ。プレーでミスしてももうしょうがないじゃないですか。人間なんで、機械じゃないんで、ナマモノというか、試合中に起きるのってアートだと思ってて、もう同じ試合内容って100%できないじゃないですか。毎回毎回違う試合をイレギュラーにこなしてるので、そのアートを見せているだけなんで、ミスしても、まあダイナミックなアートもあるし、繊細なアートもあるし、そんないちいち気にすんじゃねえよみたいな。多分批判ももちろんつきもので、プレーがダメだったねとか、お前のシュート決めなかったからとか言われるじゃないですか。『じゃああなたならどうやって決めます?』って聞いて、『俺だったらこうするよ』って言ったら、『ああ詳しいですね。試合出ればいいじゃないですか』で終わりなんですよ」
田邊「今ので成長できました(笑い)。今週末試合があるのでそのメンタルで挑もうかな」
鈴木「でも最大限にファンと関係者には感謝とリスペクト。ただ、そう言って応援してくれるんだったら批判しないで信じてくれよという。今回はダメなアートかもしれないけど、次は最高のアート見せるよっていう気持ちでやってる」
話題はそれぞれのトレーニング、活躍の秘訣(ひけつ)などに。
鈴木「トレーニングに関してはサッカーや野球とかの物を扱う競技と、格闘技のような自分の体を使う競技に分かれると思うんですけど、これの大きな違いが僕はあると思っていて。全然科学的じゃないトレーニングが唯一生きる競技が僕、格闘技だと思ってて。例えばサッカーで800メートル100本とか、100メートル100本とかって、正直違うじゃないですか、非非効率なので。技術的、科学的にいろいろと追求して、短時間でやる練習もあれば、スタミナの効率いいトレーニングと食事がいっぱいあると思うんですけど、それが試合にサッカーは生きるんですよ。でも格闘技はどっちかというと、うさぎ跳び1000回やったとして、試合でどこで生きるかとなると、本当に苦しい間際に、俺はあんなに苦しい状況でも1000回やったし、みんなの1000倍練習してるから頑張るぞって、逆転ができる競技なんですよね」
野田「(サッカーは)練習も短時間で集中してやります。2時間やらないです」
田邉「紅白戦とか11対11の試合とかはその人数いないとできない。例えば練習終わったらすぐ上がる選手もいますし、練習終わってから、若手とかだったら特に自主練習という形でやりますけど、その自主練習で紅白戦とかできないんで。人数がいないですし。シュート練習だったりとか、クロスの練習、パスの練習だったり、自分の苦手なところとか足りないところだったり、あとは自分が得意なところを伸ばす練習を全体の後にやるって感じで、もう全体の練習の時間はもう決まっちゃっている」
鈴木「なんか僕のイメージなんですけど、格闘技は正直ジムに残ってるやつが強いんすよ。結局毎日来て、みんなが上がっても残って自主練したり、ストレッチでもなんでもとにかくジムに長くいる人が強い人が割合的には多いんですよ。サッカーはどうなんですか?」
野田「帰る時間とかで強い弱いはあまりないですね。若手とかはまだ体もできてないんで、午後から筋トレする選手も多いですし、家庭とか持ってる人たちは全体練習終わったらすぐ用事があるって帰ったりする」
文化の違いに鈴木は驚きの表情を浮かべる。そしてこう問いかけた。
鈴木「サッカーは何しているやつが強いんですか? 強い人はこれやっているな、みたいな」
野田「格闘技よりも試合がコンスタントにあるので、やっぱ試合で結果残すやつが生き残る」
すかさず先輩の田邊が「いや、結果残す人が何をするか」とツッコミながらこうフォローした。
田邊「自分の得意不得意をちゃんとわかった人。そこを徹底的に、自主練とかもそうですけど、理解して詰められる選手じゃないかな」
鈴木は意外な形でサッカーとの関係があるという。RIZINフェザー級タイトルマッチを行ったアゼルバイジャンにサッカー場を建てる計画を進めている。
「アゼルバイジャンで試合してチャンピオンになって、ある意味僕の人生を変えてもらった土地でもありますし、格闘技がつないでくれた縁なんで、戦ってファイトマネーの一部を使って何ができるかなというのをいろいろ考えてやってて。アゼルバイジャンで孤児院とかの施設の方にお菓子イベントしに行ったんですよ。みんなで食べてもらって、格闘技で活躍すると、こういうこともできるよというのを伝えたんです。で、アゼルバイジの子どもたちに『将来の夢なんですか』と聞いたら、格闘家が半分くらいいて。『サッカー?』と言ったら、半分ちょいぐらい手挙げてました。で、格闘技はみんなできてるんですよ、ジムがあれば。サッカーは場所がなくてできないんですよ。『じゃあどこで練習してんの』って言ったら、例えば、はだしだったりとか、靴もランニングシューズとかでボールがないとか、みんなでボール作ってやったりとか、そういう状況なんですよ。この中から10年後メッシが出るかもしれないじゃないですか。でも、それを環境がないがためにでなくなるわけですよ」
そんな現状を見て、クラウドファンディングにてフットサル場を作ろう決意。事業計画に不備がないように現在は鋭意制作中だという。「人工芝でサッカーボールとゴールとラインを引ければ1番いいんですけども、それをちょっとやろうと思ってます」。
田邊「サッカー選手の俺らが何もしてない…」
鈴木「ちょっとなんか協力してくださいよ。ボールとか何か寄付していただければアゼルバイジャンに届けに行くので」
たっぷり語り合った3人。それぞれの競技観なども理解し、互いへの関心を強めた。
野田「テレビで何げなく見てた格闘技の裏にはすごいストーリーがありましたし、すごい刺激をもらえましたね。『こんだけ練習しているからもう負けないでしょ』っていうメンタリティーはやっぱサッカーで大事なことだと思う。参考にさせていただきます」
田邊「チームスポーツなんで、自己中とまでは行き切れないですけど、行きすぎないぐらい自分をより出して、年齢では低い方なんで気を使いすぎずに鈴木選手のことを見習ってガンガン行こうかな」
格闘技観戦経験がない野田が興味を見せると、鈴木から2人にまさかの提案が。「僕の復帰戦来て下さいよ。おふたり招待しますよ」とカメラの前で約束を交わした。