ジャック・ソック(アメリカ)は、「ロレックス・パリ・マスターズ」の決勝でフィリップ・クライノビッチ(セルビア)に5-7、6-4、6-1で勝利した。その際に、ソックはアドコート (コート左側半分) のベースラインからバックハンドを打つ代わりに…

ジャック・ソック(アメリカ)は、「ロレックス・パリ・マスターズ」の決勝でフィリップ・クライノビッチ(セルビア)に5-7、6-4、6-1で勝利した。その際に、ソックはアドコート (コート左側半分) のベースラインからバックハンドを打つ代わりに、回り込んでのフォアハンド を打ち込み、それによって狙える3つの主な効果を利用しており、ATPのサイトでも分析が紹介されている。

ソックが利用した回り込みフォアハンドの3つの利点、「アップグレード」「ダブル」「フリーズ」についての解説を紹介する。

セルビア出身のクライノビッチはバックハンドを得意としており、決め球を打とうとするのに対して、ソックはその決勝戦ではアドコート (テニスコート左側)からフォアハンドで容赦なく対抗し続けた。

試合全体をみると、ソックがグラウンドストロークを打ったのは、アドコートからが132回(62%)、そしてデュースコートからは81回(38%)だった。内訳をみると、アドコートからより効果的な回り込みフォアハンドを打とうとしていたことがわかる。

・コート上のポジションとストローク種別

デュースコート フォアハンド=81本

アドコート フォアハンド=67本

アドコート バックハンド =65本

●アップグレード(Upgrade)

最初のメリットは「アップグレード」だ。アドコートからは通常、バックハンドを打つことになることが多い。が、ソックはこの試合で、回り込んでフォアハンドに「アップグレード」することで、より強力なストロークに仕立て上げた。

他方で、ソックはバックハンド グラウンドストロークはエラーを最小に抑え、隙をみて回り込みフォアハンドを打つことを成功させた。

・アドコートからの打球

67本の回り込みフォアハンド=ウィナー15本 / エラー7本

65本バックハンド=ウィナー3本 /エラー10本

ウィナーの本数を加算し、エラーは本数を差し引いてみると、ソックのアドコートからの回りこみフォアハンドは+8を記録しており、高い確率でウィナーを放っていたことがわかる。

バックハンドを打った時の計算結果では-7となり、回り込みフォアハンドの方がはるかに上回っている。ソックはペースを落とすスライスのバックハンドを何度も打ち、クライノビッチがスピードのあるショットを打つのを阻止した。

またこれにより、次のショットまでに回り込み、バックハンドをフォアハンドに持ちかえる時間も稼いだ。

●ダブル (Double)

ここでの「ダブル」は、狙うエリア (ターゲットエリア) を2倍にするという意味だ。

もしソックがアドコートに立ちニュートラルなバックハンドだけを打ち続けていたら、ナチュラルアングルはバッククロスコートとなるので、クライノビッチにとって得意なバックハンド側となる。

アドコートからのフォアハンドに「アップグレード」して、ソックはより強力なグランドストロークを打てるため、デュースコートとアドコートの両方を攻められるというわけだ。

●フリーズ (Freeze)

ソックは終始一貫してクライノビッチをフリーズさせようとした。そのためには行動を読ませないことが必須だった。

ソックのオープンスタンスである回り込みフォアハンドは事前の視覚的な手かがりを与えず、美しく偽装することで0.1秒先さえ読ませなかった。準備する時間を短くすることで相手により多くのエラーを強いる。

ソックはクライノビッチのバックハンドをフォアハンドで打ち負かすことにこだわった。例えば、2セット目のソックは、グラウンドストロークの60%をクライノビッチのバックハンドに向け、13%を中央に、27%だけをコートの外側3分の1に向けたのだ。(テニスデイリー編集部)

※写真は「ロレックス・パリ・マスターズ」でフォアハンドから有効な攻撃を展開したソック

(Photo by Jean Catuffe/Getty Images)