パナソニック所属でラグビー日本代表の稲垣啓太は、相手に左右されない。 11月4日、関東学院大時代に過ごした横浜の日産スタジアムでオーストラリア代表(ワラビーズ)とテストマッチ(国際間の真剣勝負)を実施。10月に世界ランク1位のニュージーラ…

 パナソニック所属でラグビー日本代表の稲垣啓太は、相手に左右されない。

 11月4日、関東学院大時代に過ごした横浜の日産スタジアムでオーストラリア代表(ワラビーズ)とテストマッチ(国際間の真剣勝負)を実施。10月に世界ランク1位のニュージーランド代表(オールブラックス)を倒した強豪に挑むのだが、稲垣は「まずは自分たちのやるべきことをやっていくのが大事」と断じる。

 身長186センチ、体重116キロの27歳はキャップ(テストマッチ出場数)こそ通算16も、2年前のワールドカップイングランド大会では4戦中3戦で先発。2015年にオーストラリアのレベルズ、2016年からの2季は日本のサンウルブズに入ってスーパーラグビーに参戦した。当日のメンバー23名中5名が初キャップという若手主体の現日本代表では、経験者として期待される。

「ワラビーズがオールブラックスに勝ったのは皆、知っていると思いますが、だからといって僕らのやるべきことは変わらない。(戦術などの)落とし込みの部分で精度のいいものを出せるような練習をしてきました」

 本格始動した10月23日から11月2日までは、福岡で調整。3日は会場で前日練習を実施した。攻防システムの涵養(かんよう)などに、時間を割いてきた。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ就任2年目を迎える現日本代表は、この秋からジョン・プラムツリー ディフェンスコーチを招へい。新コーチのインストールしたシステムについて、稲垣は「前に上がってプレッシャーをかける。こちらがスピードを上げて(間合いを)詰め、相手のフィジカルを発揮させない」と説明。JAPAN XV名義で臨んだ世界選抜戦(福岡・レベルファイブスタジアム)は27-47で落としたが、多くの収穫を得たようだ。

 1点差を追う後半、前に出る防御ラインの裏への長いパスでタッチライン際のスペースを攻略された。その過程で、当該のエリアに入るWTBの位置取り、飛び出した味方をカバーする動きなどに改善点があると気付けた。

 防御時のWTBは、目の前の攻撃と同時に後方へのキックへも配慮が求められる。判断力が肝となる。左PRで先発する稲垣は、自らのフォーカスポイントに「スクラムと、ディフェンスで上がり切った先でのタックルの精度」などを掲げ、発展途上の防御システムについてこう話した。

「(自軍の防御ラインが)詰めて、外に回される時は、だいたいオーバーボール(ロングパスなど)で通されます。そこへ通された時にWTBが(危険地帯へ)戻る、下がっていたところから上がる(間合いを詰める)…といったバランスはこれからです」

「世界選抜は前半こそ静かだったのに、後半からプランニングを立て直してやってきた。そこから学んだことは、大きいです。僕らとしては、疲れた状態でも(防御網全体で)上がりたい。そんななかボールばかりを見て、目の前の相手が見れなくなった。そうなると必然的に、ディフェンス(選手間の幅)は寄りますよね。それでより、裏へ通されるようになった…。こういったところは、今週、直してきました」

「この試合は、いまのディフェンスのチャレンジがどこまで通用するのかというひとつの土台になる」

 攻防の起点となるセットプレーでは、空中戦のラインアウトが鬼門となるか。相手が2メートル級を揃えるうえ、稲垣いわく「ワラビーズはラインアウトからのアタックオプションは上手」。ラインアウトに入るFWとその他の選手による防御ラインの隙間を、組織的にえぐる。

 むろん日本代表とて、ただ手をこまねくつもりはない。先方のやりたいことをさせない働きも、「やるべきこと」に含まれていよう。稲垣は続ける。

「ラインアウトをコンテストして(競り合って)、相手にクリーンなボールを出させない」

 折しも前日には2年後のワールドカップ日本大会の組み合わせが決まったが、その話を向けられても「プランニングが立てやすくなったのは事実ですが、僕らがマネジメントをするわけではない。僕らにとっては、いまやっている戦術、スキル、理解度、個人能力を上げていくことが大切」。悔いなき結果を残せるよう、「やるべきこと」を全うしたい。(文:向 風見也)